第5話 鬼嫁VS鬼姑

「ギル!黒龍はどの辺にいるかわかるか?」

「南の黒曜山から下りてこようとしてるな。そのまままっすぐくればこの王都だ」

「じゃあ山下りる前にやったるか!」

「てかリンはいいとしてユフィも黒龍退治について来ていいのか?同族だろ?」

「まあそうっすけど、龍にとって大事なのは力であって、そんなに種族主義ってわけじゃないんすよ。まあ基本的に龍族が一番強いと思ってるし、他の種族は自分たちより弱いと思ってるんで、めちゃめちゃ下には見てますけど」

「いや、それすげー種族主義じゃねーか」

「まあでも自分はもうリンのアニキやギルのアニキみたいに龍を超えた存在を知ってますからね。龍とかマジどうでもいいっす」

「あ、そうなんだ」

「よし、じゃあユフィに乗って黒曜山まで行っちゃうか!」

「いや、龍が来るって王都が慌ててるのにこっち側からも龍が現れたら大混乱だろ。間違いなく俺たちも討伐対象になる」

「それもそうか」

「じゃあどうやって行くんすか?王都から出る交通機関は封鎖されてますよ?」

「マジでか。じゃあ走っていくしかないな」

「お前マジで言ってんの?」

「アニキ、マジっすか?」

「行くしかねーだろ!アーサーがやられてるんだぞ!」

「あ、ああそうだったっけ」

「そういうノリでしたっけ」


ん?

アーサー?

確かに俺なんでこんなにやる気出してるんだっけ。

・・・

でもまあここまで来たら突っ走るしかないだろ!


「黒龍の元まで突っ走るぞ!」

「「うーっす」」


王都の南門を出て、魔の森に入り、更に進み黒曜山の麓まで来たあたりで、山を下りてくる龍の群れを従える黒龍が見えた。

アーサーたちは黒曜山の山頂付近で戦ったらしい。

黒曜山を根城にしていた黒龍が山を下りてこようとしているということで調査に向かい、そのまま戦闘になったって話だったかな。

にしても何で黒龍は山を下りる気になったんだ?

都会にでも憧れたのか?

まあ迷惑な話だ。

人間の街ではしゃぎたいならユフィみたいに自分のでかい図体をなんとかできるようになってからにしろってんだ。


「龍の群れって言うか黒龍以外はワイバーンだな」

「ああ、龍の出来損ないっすね」

「ワイバーンって龍の出来損ないなんだ」

「人間でいうところの猿って感じっすね!」

「ああ、あれ猿なんだ」

「とにかく俺はさっさと黒龍しばきに行くからワイバーン頼んだ!」

「了解っす!」

「あいよ」


俺はユフィとギルにワイバーンを任せて駆けだした。

そのために二人を連れてきたからだ。

何を隠そう俺はワイバーンが苦手だった。

フォルムもそうだけど、なんか野生感が半端なくてキモイ。

涎とか垂らしてて汚いし、なんか臭い。

という訳で俺は駆けだしたのだ。

目指すは憎き黒龍のみ!

ちゃっちゃと倒して帰る!

今日は6時から見たい番組があるのを忘れていた。

あの鬼嫁(オーガ)が遂に鬼姑(オーガ)と全面戦争するんだ。

見逃すわけにはいかない。

それになんか店を飛び出した時はアーサーとこの前飲んだ時のこと思い出して盛り上がってたけど。

実は走ってるうちになんか怠くなってきていたのだ。

あ、いた。

黒龍だ。


「我の前に立ちはだかるか!愚かな人間よ!」


すげー入り込んでるな、この龍。てかまだ立ちふさがるとか言ってないのにノリノリで絡んできやがった。


「なんでお前ら山下りてきてるの?」

「ふははは!!!我のような強者がこんな山に籠もっているのはよくないと気付いたのである!!!王城を落として我が愚かな人間どもを支配してやろうと言うのだ!嬉しいであろう!!」

「そういうのいいわ。てかキモいわ。さっさと山に帰ってワイバーンとジェンガでもやっててくんない?」

「人間の分際で我の前に立ちはだかると言うか!」


もう一回言ったよ。


「まあそんな感じだ」

「笑止!人間で我に対抗できるのは勇者のみ!お前のようなただの人間が最強種である龍を止められるわけがなかろう!」

「勇者だ魔王だ龍だとか。お前ら本当にくだらねぇな」

「なんだと?」

「ほら、かかってこいよ。何の肩書もないただの人間がボコってやるよ」


面倒だから手招きして挑発してやる。

こっちは早く帰りたいのだ。


「死ね」


黒龍が口から火を吐く。

それはまさに災害。

燃やすというより消し飛ばすといった方がいいほどの苛烈な炎。


「愚かな人間め」


辺りは炎に包まれ、まさに地獄と化した山。

獣たちは一瞬にして姿を消した。

それは龍という不条理な存在にもたらされた無慈悲な光景だった。


「あちーじゃねーか、ヘビ野郎」


情景を描写してたら、思いっきり食らっちまった。

腐っても龍の咆哮。

効くなぁ。

まあ『効くなぁ』程度だけど。


「な、なんだと?」

「お?やっと可愛い顔したじゃねーか。似合ってるぜ?その間抜け面、愚か者っぽくてな」

「き、貴様ーーー!!!」


黒龍は激昂し、今度は嚙み殺そうと向かってくる。

ワンパターンだな。

所詮蛇か。


「蒲焼きにしてやるよ」


ドゴーン!


「ふぇ?」


黒龍は殴り飛ばされたことが理解できないといった顔をしてるが、そんなことはどうでもいい。

問答無用で殴り続ける。


ドゴーン!

ドゴーン!

ドゴーン!

ドゴーン!


右へ左へ上へ下へ殴り飛ばす。

気付いたら黒龍は見るも無残な姿になっていた。

その姿を見てもう殴る気は失せた。


「はぁはぁはぁ!アニキ!やっと追いついたっす!」


俺と黒龍の戦闘音を聞きつけてユフィが駈けつけて来た。


「お、ユフィか。まあもう終わったけどな」

「あ、ホントだ。それが噂の龍っすか」

「ん?知り合いだったか?」

「いや、こんな雑魚知らないっす」

「お、女ぁ!我が雑魚だとぉぉ!!」


黒龍はボロボロの身体を意地で起き上がらせる。


「はぁ?ガキが。誰にものを言っている?」


ユフィから途轍もない魔力が吹き上がり、その姿を龍へと変える。

吸い込まれそうなぐらい美しい漆黒の龍だ。

その身体は黒龍のゆうに三倍を超えている。


「も、もしや、漆黒龍ユフィリア様でありますか」

「我が主に随分と無礼を働いたようだな。塵も残さず消し去ってくれようか」

「あ、主ですと!?その人間が!?」

「何か文句でもあるのか?」

「め、滅相もない!も、申し訳ありませんでした!!!」


土下座する黒龍。

龍の土下座はいつ見てもウケる。


「懐かしいな。そういえばユフィもああやって土下座してたっけ」

「そういえばユフィって割と有名な龍なんだっけか」


気付くとギルが肩にとまってた。


「そういえばなんかそんな感じだったな。普段の下っ端感が半端ないから忘れてたわ」


結局ユフィに叱られた黒龍はワイバーンたちを連れて山に帰って行った。

帰り際に不穏な名前を残して。


「おい、黒龍。なんで人を支配しようとか思ったんだ?」


帰ろうとしていた黒龍にずっと気になっていたことを聞いた。


「ある人間が我の元に現れたんです」

「人間?」

「はい。そして我に『愚かな人間を支配してくれ』と『支配すべきだ』と言うのです」

「そんな言葉を本気で鵜吞みにしたのか?」

「それが、、、今考えると我もなぜああも簡単にあの男の言葉を信じたのかと、、、不思議と言葉に力を持った人間でした」

「お前にくだらないことを言った人間の名前は?」

「自分のことを〝どこにもいない男〟と名乗っていました」

「〝どこにもいない男〟!?お前よくそんな痛々しい名前のやつの言葉信じたな!バカすぎだろ!」

「いや、アニキ。それって洗脳じゃないっすか?」

「そうなの?」

「その可能性は高いだろうな」


ギルもユフィに同意した。

じゃあ悪いのは黒龍じゃなくて、その人間ってことか。

わけわかんないことをする奴もいたもんだ。


「龍のファンなのかね」

「そんなわけないじゃないっすか」

「王都転覆を狙ってたってことだろ」

「まあそりゃそうか」


人間もいろんな奴がいる。

王都を転覆したい奴だって何人かいるだろう。

考えてもしょうがない。

オッケーオッケー。


「とにかくもうすぐ鬼嫁と鬼姑の戦いが始まるから早く帰ろう」


とまあこんな感じで一件落着。

後日、俺は冷やかしも兼ねてアーサーたち勇者パーティーの見舞いに来ていた。

まあ俺の予想通り仲間たちを守るためにアーサーが盾になったようで、他のパーティーメンバーの怪我はそれほどでもなかった。


「黒龍を退けてくれたみたいだね。礼を言うよ。それにしても〝どこにもいない男〟ってのが気になるね。調査してみるよ」

「てかさお前やっぱ一人で戦った方が強いんじゃない?勇者の伝統も大事かもしれんけどさ」

「それだけじゃないよ」

「そうなの?」

「一人で魔王を倒してみなよ!ボッチ勇者として歴史に名が残ってしまうじゃないか!ボッチとして名を馳せるぐらいなら魔王なんか倒さない方がいいよ!」

「あ、そうなんだ。まあ頑張れよ」

「ああ!」


ちなみに鬼嫁VS鬼姑は7回コールド勝ち、決まり手は57年ぶり、まさかの合掌ひねりで鬼姑の勝利に終わった。

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