第4話 勇者は勇者でいるんです
「リン!客を連れて来た!」
新入りのルリが早速客を引っ張って来た。
こいつなかなか見どころがあるな。
「リーン!今日こそ決着をつけようじゃないか!!!」
はぁ、こいつかよ。
「そういえばそろそろ来る頃だったな」
〝地獄の瘴気亭〟の扉を開けたのはもちろん客ではなかった。
思いっきりテンプレ通りの勇者、戦士、魔法使い、神官の4人パーティーだ。
「勇者アーサー!」
「戦士ギンでーっす!」
「魔法使いマーリンよん!」
「神官エアリスです」
これが今回の勇者パーティーか。
きれいに毎回ウゼーな。
「タカコさん、どうぞエールです」
「ユフィさん、あの人たち何なんですか?」
「見た通りの勇者パーティーっすね」
「なんで勇者パーティーがここに来てるんですか?というか勇者パーティーって本当にいるんですね。もう魔王いないのに!」
あ、タカコ。それは言わない方がいいぞ。
「そこの女冒険者さん!今魔王がいないのになんで勇者パーティがいるんだって言ったかい!?」
ほら見ろ。
「あ、すみません」
「よくぞ聞いてくれた!それはここにいるリンが全ての元凶なんだ!」
「どういうことですか?」
「勇者は魔王を倒すために神から力を与えられる。しかしそこにいるリンがさらっと一人で魔王を倒してしまったのさ!だから僕は勇者としての役目を果たせなくなり、こうして200年経った今でも勇者として彷徨い続けてるという訳なんだ!」
「そんな不憫なことってあるんですね」
「だから今は魔王の復活を待ちながら、魔王を倒したリンと戦って実力を上げているってわけさ!」
どういう訳だよ。ウザったいな。
「そんなわけでこいついっつも来るんだけど、もう200年だからな。そのパーティー何パターン目?」
「今回で遂に35代目勇者パーティーだ!」
今の国王が34代目だから、遂に追い越したか。
「魔王ならそこにいる」
あ、ルリ。それはもっと言っちゃいけないやつ。
「ん?お嬢さん!今なんか魔王っぽいこと言ったかな!?」
魔王っぽいことってなんだよ。
魔王っぽいことはもう魔王だよ。
やっぱこいつバカだな。
「おい、ルリ!黙ってろ!あいつには俺が魔王だってことは隠してるんだ!」
「、、、」
「王都で売ってるパンケーキ買って来てやるから!」
「どんな拷問を受けようともこの秘密だけは墓場まで持っていく」
ギルはうまく買収できたみたいだな。というか相変わらずルリはチョロいな。
こんなバカ丸出しの勇者だが、魔王であるギルにとっては天敵でもある。
勇者が持つ聖気は魔王にとっては毒だ。
絶好調ならそれでも勇者ごときには負けないだろうが、今のカラス状態では一瞬で滅されかねない。
そういう訳でギルは魔王であることを勇者にバレるわけにはいかないのだ。
「てかアーサー。俺はもう酒場の店長として平和に暮らしてるんだ。修行したいなら他所でやってくれよ」
「何を言ってるんだ!他所で修行したら、『はぁ、あの勇者。もう魔王いねぇのにまだ修行してるよ。きっつぅ』『そう言ってやんなって。あの歳まで魔王倒すために生きてきたんだ。今さら潰し効かないだろう。温かい目で見てやろうぜ』って言われるんだよ!正直二人目の言葉の方が精神にくる!」
「それはしんどそうだけど。そんなこと言ったら俺も大して変わらないだろ」
「いや、君は口ではそう言うが、僕以外で唯一魔王の復活をちゃんと信じてる男だ!もう僕には君しかいないんだよ!」
「いやいや、他にも少しぐらいいるだろ」
「いないね!何を隠そう勇者パーティーのメンバーも信じてない!」
「え、マジで?」
「200年前の話っすよ?さすがに蘇りはないっしょ!」
戦士の男やたらとチャラいな。
「じゃ、じゃあいお前はなんで勇者パーティーに入ってるの?」
「合コンの掴みに最高なんっすよ!俺が勇者パーティーだって言ったらドッカーンすよ!鉄板ネタっすね!」
「あ、そう。魔法使いの子は?」
「アンチも多いですけどネームバリューはすごいんで!イベントとかで結構人集まるんですよね~」
この子はなんか派手だな。
「うん。神官の子は?流石に神に仕えてるんだから大義みたいのあるんじゃない?」
「勇者パーティーって一応公務員なんで。安定してるかなって」
「あ、そう」
そして神官の子はクールだな。
「こういうことなんだ、リン」
「もうお前ら解散しろよ!!!」
とは言ったものの、俺は初めてアーサーに同情した。
「まあ飲めよ。今日は俺のおごりだ」
「いいのか?」
「子言うときは飲むのが一番だ」
気付くと俺とアーサーは〝地獄の瘴気亭〟で飲んでいた。
ちなみの他の勇者パーティーの連中は定時だと言ってさっさと帰って行った。
「もう200年だよ?100年位まではまだモチベーション保てたけど、ここまでくるとね~」
「まあ飲めよ」
「僕だってわかってるんだよ。魔王いないのにいつまで勇者やってんだって。でもしょうがないだろ!こっちは勇者しかやってこなかったんだから。魔王いないからって簡単に生き方変えられないよ!」
「まあ飲めよ」
「ねえ、リン。僕から勇者をとったらいったい何が残るんだろう」
「わかるよ。俺だって店長ってことになってるが、働かないで店の酒を飲みつぶすだけだから、他の従業員からはゴキブリだって思われてんだよ」
「まあそれはゴキブリだね」
「、、、まあ飲めよ」
俺たちは長年のわだかまりを超えて朝まで飲んだ。
よくわからない友情?を勇者と結んだ一月後。
国中にビッグニュースが流れた。
『勇者パーティー黒龍に敗北。黒龍は王都に向けて侵攻中か!?』
「おい、リン!新聞見たか!?」
「見たよ」
「勇者が龍に負けたってよ!」
「それは違う!!!」
「り、リン!?」
「あの勇者はバカだが、力は俺に匹敵する。龍ごときに負けるわけない。どうせ足手まといのパーティーメンバーでも守ってやられたんだろうよ」
「龍ごときって言われると複雑なんっすけど」
「ああん!?」
「な、なんでもないっす!」
久しぶりに何とも言えない怒りを覚えていた。
「リン、早くご飯」
「ああん!?」
「『アアン』?それはどんな料理?興味がある。楽しみ」
「、、、鍋にユフィが作ったカレーが入ってるよ」
「カレー!!!」
怒りの通じない存在もいる。
「とにかくアーサーが討ち漏らしたクソ龍は俺がミンチにしてやる」
「クソ龍とか言われると凹むんですけど」
「ああん!?」
「なんでもないっす」
「クソリュー?新しい食材!?」
「、、、冷蔵庫にはプリンも入ってるよ」
「プリン!!!」
えっとなんだっけ。
そうだ!アーサーが討ち漏らした龍を俺がぶっ殺してやる!
うん、これだ。
「よっしゃ!ギル、ユフィ!行くぞ!!!」
「ん?みんなでおいしいもの食べに行く?」
「冷蔵庫の上段にゼリーも入ってるよ」
「ゼリー!!!」
「よっしゃあ!行くぞ!お前ら!」
「あいよー」
「うーっす!」
こうして俺たち地獄の瘴気亭チームは留守番をルリに任せて龍討伐に飛びだした。
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