第7話 地下アイドルプリンからの依頼~推理編~

俺はプリンの兄として仕事に同行することになった。

妹が騙されていないか確かめるために田舎から出て来た兄が、アイドルの仕事を一週間見学すると言う設定だ。

プリンは両親もいなく未成年なので兄が保護者となり、兄が反対すれば芸能活動を辞めざる負えなくなるということで事務所からもオッケーが出た。

そして何度も置いて行こうとしたが付いてくると聞かず、ユフィもまた姉として付いてきた。


「自分がイチゴちゃんとアイスちゃんの無実を証明して、もう一度三人仲良しのまほプリに戻して見せるっす!」


やる気の方向性が完全に違うが、まあめんどくさくなったらぶん殴って気絶させればいいか。

コンプライアンス的に女を殴るのはまずいかもしれないけど、龍なんでギリ大丈夫でしょ。


「プリン、お前は普通に仕事をこなしてろ。俺たちは俺たちで独自に動く。事務所の社長からは赤と青に兄として話を聞く許可もとってあるしな」

「わかったわ。でもそのユフィって子は大丈夫なの?違う方向にやる気出してるように見えるんだけど」

「見えるじゃなくてその通りなんだが、まあ大丈夫。何かあったらボコるから」

「それはそれで大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫。あとずっと気になってるんだけど、いっつもお前らの傍にいるスーツの男前は誰?」


どこに行くにもついて来るスーツの男がいるのだ。

今も手帳を開きながら控室の隅に立っている。


「Pよ」

「P?」

「私たちを見出してくれた人で、私たちの活動についての全権を任されてる人よ」

「なるほどね~」

「Pはレッスンに参加してないの?」

「もちろん参加してるわ!」

「じゃあPも容疑者に入るんじゃないの?」

「それはないわ」

「なんで?」

「だってPだもの!」

「、、、あ、そう」


怪し!

こいつじゃね!?犯人!!!


なーんてね!

ここまで犯人っぽい奴は逆に違うんだよ!

推理物のセオリーだな。

舐めないでくれよ、犯人。

これでもコナンと金田一は全巻読んでるんだぜ!

すなわち俺ももうほとんど名探偵だ。


名探偵としてはまずメンバーからの聞き込みだな。





赤の証言


「イチゴちゃんだっけ?君はウチのプリンとは仲良くやっているのかね?」

「はい!もちろんです!お兄様♡私とプリンちゃんはもう一心同体です♡」

「あ、そうなんだ。ウチの妹とはプライベートでも遊んだりするの?」

「遊んでますよ♡そりゃもう一緒にモビルスーツとか乗っちゃってます♡」

「モビルスーツ!?」

「そういうゲーム流行ってるの知らないですか?♡」

「あ、ゲームね。、、、ゲームだよね?」

「ゲームですよ♡」


すごい笑顔。

その笑顔が逆に怖いんだけど。

大丈夫だよね、このアイドル。

生身のモビルスーツに乗ってないよね。


「だよねだよね!二人は仲良しっすよね!二人の絆は画面越しにもビシビシ伝わってくるっす!」

「お前は黙ってろ!」


めんどくさいところでユフィが入って来た。


「やっぱりお姉さんにもわかっちゃいますか~?♡」

「わかるよ、わかる!わかるよぉぉぉ!うわぁぁぁん!」

「それはどういう涙だよ」



青の証言


「プリンのお兄さん、、、。よろしく」


うん、無表情で無口の美少女。

悪くない。

3人の中で俺が推すならこの子だな。

でもプリンがいうにはプライベートだと男とぺらぺらとしゃべってるらしい。

、、、本当か?

プリンの僻みじゃないのか?

正直あいつも胡散臭いしな。

、、、ウソだな。

俺はアイスちゃんを信じよう。


「ウチの妹とは仲いいのかな?」

「いい、、のかな。わから、ない。でも、、私は、、、、好き」


うん、これは大丈夫でしょ。

親友でしょ。

モビルスーツなんて絶対乗ってないでしょ。

よし、シロ!


「仲がよさそうで何より」

「アイスちゃん!もっと自信をもって!プリンちゃんもアイスちゃんの事大好きだよぉぉぉ!うわぁぁぁぁん!!!」

「だから何で泣くの?まほプリファンにはそういう決まりでもあるの?」

「でも、、最近、プリン元気ない。心配」


うん、いい子。

大丈夫だよ。

俺たちがなんとかしてあげるからね。


「大丈夫だよぉぉぉ!アイスちゃーん!自分たちが何とかするっすからねぇぇぇ!!!」

「キモいファンと心の声被った!」





とりあえず今回の仕事は俺とユフィの二人きりで何とかするしかない。

ギルは『くだらない』、ルリは『お腹空いた』という理由で店に残った。

ぶん殴ってやりたかった。

そして今回おそらくユフィは使えない。

普段も料理以外は使えないが、今回は輪をかけてヤバい。というかキモい。というか怖い。

、、、でも一応意見を聞いてみるか。

決して犯人が全然わからないという訳ではないけども。

もちろん最初っからわかってるけども。

まあせっかくここまで来たユフィを邪険にするのもよくない。

聞くだけ聞いてみてあげよう。


「ユフィ、犯人は誰だと思う?」

「犯人は世界っすね」

「はぁ!?」

「犯人はあの純粋な三人の仲を裂こうとするこの腐った世界っすよ!」

「えい!」


イラっとしたので殴って黙らせた。

俺の見解では赤が怪しい。

3人の中で一番肩幅があり、がっしりとした体形。

つまり3人の中で一番ゴリラに近いと言える。

ゴリラに近い彼女なら、プリンの熱愛相手にゴリラを選んでもおかしくない。


「お兄さん、何かお悩みですか?」


頭のなかでコナン張りの推理を繰り広げていた俺にイケメンPがさわやかな笑顔で話しかけてくる。

なんだ、こいつ。

爽やかが常軌を逸してるぞ。

はっ!もしかして俺の推理を邪魔しに来た?

もしかして赤とPは共犯?

何ならデキてる?

カマをかけてみるか。


「悩んでる?ふふふ、私は一体何に悩んでいるのでしょうかね?」

「あの、それを聞いたんですが?」


ちっ!うまくかわしやがった。


「ご自分の胸に手を当てて考えてみられては?」


俺は気を失っているユフィを横わきに抱え、その場を後にする。

ふっ、今頃自分の企みがバレたのではないかとブルブル震えていることだろう。

よっしゃ!見てやろ!


「なっ!」


振り返るとPは手帳を見ながら電話をしていた。

もう仕事してやがる。

あ、俺こいつ嫌いだわ。


Pと別れた俺は思考を落ち着けるために外のベンチに腰をかけた。

するとその辺に転がしておいたユフィが起き上がって来る。


「少しは落ち着いたか?」

「はい、ちょっと生まほプリ見て精神に異常をきたしてたっす!でももう大丈夫っすよ!一緒にまほプリを救いましょう!」

「救うのはプリンだけでいいんだけど。まあ少しは正気に戻ったみたいだからいいか。で、お前の考えを聞かせてくれ。正直犯人誰だと思う?」

「自分はズバリわかったっすよ!犯人はPっす!」

「お、マジか!お、俺もそう思っていたところだ!」


マジで!あいつが犯人なの!?

一番犯人っぽい奴が一周回ってやっぱり犯人っていうタイプのパターン!?

テンプレに慣れてきた読者を罠に嵌めるイレギュラーパターン!?


「さすがアニキ!やっぱりまほプリの中に犯人なんていないんっすよ!それにあの腐れイケメン、ちょっとまほプリの皆と距離感近いんですよね。あれは根っからの性犯罪者っすわ!ロリコン、ペドフィリア、何でも来いっすわ!」

「やっぱそういう理由か。でも俺も同意見だ。ああいう笑顔の似合うイケメンは必ずエグい性癖を持っている!」


二人の意見が合い、完全にホシが確定した。

この後はお待ちかねの解決編だ!


「それにしてもアイドルってめんどくさそうだな。お前には悪いけどやっぱり三人は仲悪そうだし、それでも仲いい振りをしないといけない。そうまでしてキャーキャー言われても結局ファンはウザいんだろ?お前みたいに。どこに救いがあるんだか」

「アニキは何もわかってないっすね。仲が悪くても一切それを見せないのはプロだから。ファンがどれだけキモくても笑顔で握手するのもプロだから。彼女たちはプロであることに誇りを持っている。誇り以上に大事な物なんてあるんですか?ねぇ、元英雄さん」

「キモい言い方するな!まあ誇りね~。俺ぐらい立派な大人になればくだらないことだってわかるんだけど。まああの連中はまだ子供だからな」

「みんな必死なんっすよ。だから私たちも応援したくなるんっす」


ユフィがすごく優しい笑顔を見せる。

、、、なんかイラっとした。


「てかお前はまほプリみんな仲良し路線でいってたんじゃねーのか?」

「さすがの私もアイドルなんて幻想だってわかってるっすよ。だから」

「だから?」

「バカにならないといけないんっす。アニキ私の頭を殴ってください!三歳児ぐらいの知能にしてください!ドルオタはそれぐらいの知能でなくてはいけないんっす!!!」

「いた別に殴るのはいいけど、というかさっきからずっと殴りたかったけど、お前さらっとドルオタディスってない?」

「いいから早く殴ってくれっす!このままじゃ芸能界の闇に飲み込まれてしまうっす!」

「そこまでしてでも、、、ってまあいいか。えい!」

「ぐはぁ!!!」


ユフィの頭を三歳児に戻したところで今回の事件について振り返ってみる。

事の発端はプリンとゴリラの接吻写真(合成)。

まあゴリラは置いといて、この合成写真はレッスン中のものなのでメンバーにしか撮れない。

だから犯人はメンバーの中にいるということだったが、実はPもレッスンに参加していたということで容疑者が増えた。

ただ不思議なことにプリンは一切Pを疑っていなかった。

Pへの異常な信頼は他のメンバーにも共通していた。

若干気持ち悪いレベルで。

そんなこんなで俺たちはPが実はホシなのではとあたりをつけたのだ。

うん、よし!これは間違いないな。

確信が持てた。

あとはもう一回コナンを読み返して、かっこいい犯人の追い詰め方を予習すればいいか。


「あれ?アニキ、あそこで揉めてるのってイチゴちゃんとアイスちゃんじゃないっすか?」


ユフィがいつの間にか起きてた。

こいつやっぱ防御力高いな。

さすが龍。

てか赤と青が揉めてるだと!?

よく見てみると向こうの木陰でなんか揉めてるようにも見える。

せっかくコナン読み返して、カッコいい解決編のビジョンが出来上がったところだったのに、ここで変な要素が加わってくると困る。

ブレる。


「確かに、、、でも解決編の前に新しい情報が入って来るとめんどくさくなりそうだから、、、見なかったことにするか」

「いいんっすか?」

「いいだろ。どうせ犯人Pだし」

「それもそうっすね。どうせ犯人Pっすもんね。これ以上芸能界の闇を見ることはないっす」


ユフィがバカそうな顔をしていた。

さすが三歳児。

さて、そうと決まればPの悪事を暴き、帰るとするか。

今日は鬼嫁VS鬼姑のリベンジマッチが放映されるのだから。


「じゃあアレするか」

「アレって何すか?」

「アレだよ!関係者を一同に集めて『犯人はこの中にいる!』って言うやつだよ!」

「人生で一度は言ってみたいセリフのやつっすね!」


俺たちが獲らぬ狸の皮算用をしながらまほプリの控室に戻ってみると、プリンが一人で何かイライラしていた。


「リンさん!私もう我慢できない!あの二人!ぶち殺してやる!」

「おいおい、いきなりどうした?」

「あの二人だけは絶対に許せない!」

「何があったんだよ!」

「聞いてよ!今日のお弁当カレーだったんだけど、イチゴはルーだけ食べてお米食べないし、アイスは福神漬けから食べるのよ!」

「まあ確かにイラっとする食い方だけど、別にいんじゃね?」

「いいわけないでしょ!カレーなのよ!カレー!カレーェェェェ!!!」


なんだこいつ、目がやべぇ。

アイドルが一番しちゃいけない目をしてる。

どんだけカレーに思い入れあるんだよ。


「アニキ、プリンちゃんおかしいっすよ」

「見ればわかるわ。この子の前でカレー食うのはやめようぜ」

「そうじゃなくて、さすがにこれはされてるでしょ。洗脳的なやつ」

「ああ、そっちか。さすがに素でこれだったらアイドルどころじゃねーもんな」

「カレカレカレェェェェ!!!キェェェ!!!」


ドス!


「ぐえ」


いよいよ見てられなくなってきたユフィはプリンの腹を殴って気絶させる。


「さっきイチゴちゃんとアイスちゃんが揉めてたのも何か関係があるんじゃないっすか?」


そして何事もなかったように話を続けた。

俺も何もなかったことにした。


「洗脳ね。じゃあまさかの当たりだったか」

「え、何がっすか?」

「俺たちの予想だよ。魔術にしても呪いにしても本人の性格も変えるほどの洗脳は長期間にわたって傍で術をかけ続けないといけない」

「じゃあやっぱり犯人はPで決定っすか!」


「決定ですよ」


「え?」


ドゴン!


いつの間にか俺たちの背後に立っていたPにユフィが蹴り飛ばされる。

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