第24話 あ、ああ。まあそうか

今日は17時からの営業だ。

というか貸し切りだ。

ルリが友達の王女様を連れてくるらしい。

王女様だから貸し切りにした。

王女の顔を知ってるやつは多いらしい。

俺は知らなかったが。

ギルとユフィも知っていたんだからそうなのだろう。


「アニキ!料理こんなんでいいっすかね?」


ユフィはメニューにはない豪華な料理を作っていた。


「気合い入れ過ぎじゃねーの?」

「なに言ってるんっすか!王女様っすよ!」

「お前だって王女みたいなもんだろ。そんなこと気にするたまかよ」

「なに言ってるんっすか!ルリちゃんのお友達っすよ!変なものだしたらルリちゃんの顔に泥を塗ることになるんすよ!」

「あ、ああ。まあそうか」


ユフィの目が血走っている。

なんでこんなに気合入ってるんだ?


「ゴミよ、汚れよ、全て失せろ!」


ギルの魔法で店内はピカピカになった。

そんな簡単にできるなら毎日やってよ。


「そんな簡単にできるなら毎日やってよ」

「なに言ってんだ!?こんな店なんか少し汚いぐらいでちょうどいいだろ」

「じゃあ別にきれいにしなくてもよかったじゃん」

「なに言ってんだ!?今日はルリが友達連れてくるんだぞ!小汚いところに住んでると思われたら舐められるだろーが!」

「あ、ああ。まあそうか。ん?舐められる?そうか?」

「そうに決まってるだろ!こういうのは最初が肝心なんだ!俺が魔王軍四天王を初めて城に招いたときはこうしたもんだ!」

「あ、ああ。まあそうか」


なぜかギルも張り切っていた。

なんやかんやでこの2人こういうの好きだよね。


事の始まりは昨日の夜。


『明日のお昼にエリーが遊びに来る!』

『え?』

『だからおもてなしして欲しい!』

『え?』

『お願いする!』

『あ、ああ。まあそうか』


そんな感じだった。


今は午前11時48分。

ルリが友達を連れてくるのは12時の予定だ。

今迎えに行ってる。


「でもまさかあのルリが王女と友達になるとはね~。王女金貸してくれねーかなー」

「なに言ってるんすか!子供たちの前で親の経済格差を晒すのは致命的っすよ!王族には及ばなくても恥ずかしくない程度の経済力は見せないと!」

「あ、ああ。まあそうか」


そして11時ぴったり。時間通りにルリが王女を連れてやって来た。


「ここがルリちゃんのお家なんですのね!」

「家ではない。家は10階建てのお城。王城の約3倍はある」

「あ、そうなんですのね!」

「ここは配下たちが暮らす馬小屋」

「あ、そうなんですのね!」


この野郎。

俺の城をしれっと馬小屋と言いやがった。

というか王城の3倍もある城なんてあったらどこからでも見えるだろ。

本当にバカだな。

でも王女さんはルリの見苦しい嘘に付き合ってくれてる。

いい子だな。


「てことはルリちゃんの家は隠蔽魔法かなんかで隠されているんですのね!」

「ん!よくわかった!さすがエリー!」

「えへへ。これでも王女なんだからそれぐらいわかりますわ!だってルリちゃんは女王様なんですもの!」


ん?どんなホラ吹いてるのこの子。


「そう!私は女王!わけあって本当の家には連れていけないが、今日はこの馬小屋で楽しんで!」

「大丈夫ですわ!この馬小屋は臭くないので!臭くない馬小屋なんて初めてなのですわ!」


あれ?王女さん本気で信じてる?

しかもさらっとウチの店を馬小屋と認めた?


「お二人とも料理が出来ているっすよ!」

「わあ!すごい御馳走ですわ!」

「まあこれぐらいウチでは普通!」

「そうなんですの!?王城でもここまでの料理は出ませんわ!さすが女王様ですわ!」

「え、そうなの?」

「え?」

「ごほん!そういうこと!私は女王!」

「やっぱりそうなのですね!」


おいおい、ルリ。

ウソが派手過ぎてきつくなってきてるぞ。


「すごくおいしいですわ!」

「ん!ユフィ神の料理は神!」

「?神様がおりますの?」

「えーっと、そう!神さえも我が配下!」

「さすがですわ!」


この王女さん大丈夫か?

信じすぎじゃない?


「リン!リン!」

「なんだよ」


なんか急にルリに呼ばれた。


「こいつが第一の配下!」

「はぁ!?」

「あなたが第一の配下様なのですね!今日はありがとうございます!」

「あ、えーっと、お安い御用です」


なんだよ、この王女様。

めちゃめちゃいい子じゃねーかよ。

よくこの化け狐の友達になったな!

というかなんだろう、この気持ち。

配下とか言われてるけど、なんか嬉しい。

この王女様怖いんだけど!

あ、いつのまにか様つけちゃってた。


「こちらがドリンクになります」


スーツを着たカラスがドリンクを出す。

何やってるんだ?ギル。

どこからだした、そのカラス用のスーツ。

ちなみにドリンクは子供用にユフィが作ったフルーツジュースだ。


「喋るカラスさんなんて初めて見ました!しかも貴族のような立ち振る舞い!」


まあ一応元魔王だからな。


「ん、ウチにはこんなビックリ生物もいる!」

「さすがですわ!」


そこはさすがなのか?


「ご飯を食べ終わったら一緒にゲームで遊ぶ!」

「はい!私ゲームは初めてなので楽しみにしておりました!」


二人はテレビゲームを始める。

二人がプレイするのは今人気の〝大戦争 インパクトフレンズ〟。

様々なゲームの人気キャラが世界を舞台に戦争兵器を使って殺し合う対戦アクションゲームだ。


「核爆弾投下!」

「こちらは枯葉剤投入ですわ!」


王女がえげつない方法で国を滅ぼしていくのを見ていると何とも言えない気持ちになった。

この国大丈夫だろうか。


カーン!カーン!カーン!


あっという間に17時の鐘が鳴る。


「あ、もうこんな時間ですわ。城に帰らなくてはいけません」

「ん、もうすぐドッペルゲンガーが消えちゃう」

「帰りたくないですわ、、、」

「大丈夫!またすぐ遊べる!それに帰った後また魔法石でお話ししよ」

「はい!帰ったらすぐに魔法石で連絡いたしますわ!」

「ん!待ってる!」


王女も楽しく過ごしたようで、城までルリが送っていった。


「ふぅ、なんとか楽しんでもらえましたね」

「ああ、これなら王女相手でも恥ずかしくはなかっただろう」


なんかユフィとギルが互いに讃え合っていた。

何なんだろう、こいつら。

まあいいか。

みすぼらしい家でもあの王女は楽しんだと思うけど、満足してるならまあいいか。

じゃあ俺はおもてなしに全力過ぎて珍しく周りが見えていないユフィとギルの分を働こうか。

俺は2人に黙って店を出る。


「おい、誰の後をつけてるんだ?」


遠くからずっと視線を感じていた。

案の定帰り道のルリと王女をつけている奴を発見する。


「王女の護衛か?」

「いや、どっちかと言うともう一人の方だな」

「ではもう一人の方もやはり王族か」


外から会話を聞いていたんだろう。

この男もルリを地位の高い人間だと思っているらしい。

はぁ、バカしかいないのか?この国は。


「まあいいわ。どうせお前ここで死ぬし」

「何を言っている?死ぬのはお前だ!私は〝凶報〟のコトブキだぞ!」

「痛々しい二つ名ついてるな」

「なんだと!?」

「いいからかかって来いよ!俺を倒さないとどうせお前は王女を殺せないんだから」

「ふん!すぐに殺してやる!」


言うことは一人前だが、俺に勝てるわけない。

という訳で凶報さんはすぐに死体となって転がった。

仲間も何人かいたが、凶報の前に全部殺しておいた。

それにしてもなんで王女を襲うんだ?

所詮今の国の王族なんて象徴でしかないし、政治的な力なんてない。

売ろうとしてもこの国じゃ無理があるだろう。

だとすれば狙いは、、、なんだろ。

全くわからない。

まあいいか。一応王女は守ったし。


「王族は国民からの人気が高い。それを殺されれば今の政府が民から批判を受けるな」


いつの間にかギルも来ていた。


「つまりどういうことだ?」

「所詮今の王国の長を決めるのは票取り合戦だ。民の心次第ってことだよ。そして民の心を掴んでいる王女。殺せば野党に票が集まるわな」

「そんなことのために子供を殺すってのか?」

「そんなことが一番大事なんだ。今の政府の政策は国民たちに喜ばれているからな。これから民意を剥ぎ取るには信仰を利用するしかない。自ら権力を民に明け渡した王族は未だに民からの信頼が熱いからな」

「なるほどね。力を手放しても歴史がある王族ってのは利用価値があるってことか」


まあそんなことが分かったとしても俺たちにはどうすることもできないんだが。

王族がどうなろうが、国がどうなろうが、俺には関係ない。

税金とかきつくなったら別の国に行けばいいだけだしな。

でもまあルリの友達の王女様だけは守ってやろう。





「ほら、また失敗。やっぱ〝凶報〟ってダサすぎだったって」


凶報がリンにやられるところをまたどこか高いところから見ていた女、というかイータ。


「てか何がしたいの?失敗するに決まってるじゃん。だって凶報だよ?凶報」

『さあ、私にも詳しくはわかりません。アルファに聞いてみてください』

「聞いたってアルファ喋んないじゃん」

『きっと彼は王女を殺したいわけではないんですよ』

「そういえば今回も誘拐が目的だっけ。リンは勘違いしてたみたいだけど」

『そうですね。アルファも迷っているのでしょう』

「何に?」

『そういえばイータ、ベータがターゲットの正確な居場所を特定しました』

「はいはい、行けばいんでしょ~。てかデルタ話逸らすの下手すぎ~」

『申し訳ありません』

「いや、そんなきっちり謝られても」


イータはベータが指し示した場所へと向かって歩き出す。

そして辿り着いた場所はー


「本当にこんなところにいるの~?」

『ベータがここに解呪の固有魔法を持ってるやつがいるって言ってだからそうなんだろ?』

「まあ、ベータが言うなら間違いないんだろーけどさー。でもここキャバクラだよ?」

『そうだな。じゃあ後は頼んだ』


プツン


「はぁ!?ジータのやつ寝やがった!キャバクラなんだから男の方がいいじゃない!代わってよ!」


シーン


「えぇ!?無視!?ガチ寝!?キャバクラなんてどうやって入り込めばいいのよ!」


イータは結局新人としてキャバクラに入り込むことにした。

そしてやるとなれば案外一生懸命働くイータ、

更にその美貌も相まって一気に出世していった。

だがターゲットである解呪の固有魔法持ちは店の№1、ミユキ。

なかなか二人きりで会うことはできない。


「二人きりで会えるほどの信頼を築かなくちゃ!」


イータは自分の順位も上げつつ、ミユキにも接近していく。

だが一気に順位を上げ、№1にもすり寄る新人。

他の嬢からしたら面白くない。

イータはあからさまな嫌がらせを受けることになる。

特に№2のカオリ派閥からの嫌がらせは酷かった。

だがイータは嫌がらせに屈することなく、遂には№3にまで登りつめる。

そしてミユキと共にカオリ派閥との全面戦争を決意するのであった。


「今度のクリスマス、売り上げが下の方がこの店を去る!それでいいわね!」

「カオリ、私たちは戦うしかないの?」

「そうよ!5年前のあの夜からね!」

「カオリ!アレは誤解なのよ!」

「おだまりなさい!」


ミユキは最後まで戦うことを拒んでいた。


「ミユキお姉様、あなたが優しいのはわかります。でももうカオリ派とはどちらかが潰れるまで戦うしかありません!」

「、、、わかったわ。お願いね、イータ」

「任せてください」


遂に腹をくくったミユキ。

勝負はクリスマス。


「私が必ずミユキお姉様に勝利をもたらせて見せるわ!」


マンガの件でも分かったと思うが、イータはのめり込むタイプだった。

彼女はキャバ嬢の世界にがっつりハマったのだ。

今の彼女の頭のなかには解呪の固有魔法奪取などカケラもない。

カオリ派に勝つことだけ。


『いい加減にしろ!そもそもターゲットと信頼関係を築く必要なんてないだろ!殺して固有魔法奪うだけなんだから!』


そんなイータの目を覚ましたのはジータの声だった。


「あ、確かに」


イータは熱しやすいが冷めやすくもあった。

という訳でこの日、№1キャバ嬢のミユキは死に。

シータが生まれた。

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