第22話 異世界転移者

「リンさん聞いてくださいよ~」


今日はタカコがいつもより早く来ていた。

というか来た時にはもうベロベロだった。


「もうベロベロじゃねーかよ」

「お昼からギルドで飲んでましたからね」

「珍しいな。何かあったのか?」

「あ、そうそう!そうなんですよ!実は!」


タカコから悩みを聞かされる。

まずは親父の事。

なんか二人のオッサンにいい寄られて三角関係になっているらしい。

親父にモテ期が来ているらしい。

親父も親父でモテるもんだから調子に乗って、まるでオッサンたちを手の平で転がす悪女のようになってきているらしい。

心の底からキモいらしい。

悪女のロールプレイしてるオッサンって想像しただけで俺も吐き気がした。

とまあここまではいつも通り。

親父さんがドンドンレベルアップして行ってるのがしんどいが。

そしてここからが本題。

タカコが仕事もせずに昼から飲んだくれている理由だ。

まあ俺なら本題がなくても親父の件だけで酒に溺れる自信あるけど。


「最近ギルドの仕事を一人でほとんどかたずけちゃう人がいるんです!そのせいで私に仕事が全然回ってこないんですよ!」

「一人でほとんどって可能なのか?依頼なんてかなりの数あるだろ」

「普通無理ですよ!でも出来ちゃうんですもん!」

「ギルドは黙ってるのか?」

「一応違反行為ではないので、、、」

「ギルドはよくても冒険者たちが黙ってないだろ」

「そうですね。痛い目を見せてやろうとする人たちもいましたけど全員返り討ちです。めちゃめちゃ強いんですよ、その人」

「へぇ、その冒険者ってどんな奴なんだ?」

「なんか異世界人らしいですよ?」

「異世界人?」

「最近異世界から転移してきたらしいです」

「ギル知ってるか?」

「ごく稀にいるな。こことは全く違う世界から転移してくる奴が。そして転移者ってのは強力な力を持ってることが多い」

「そうなんですよ!なんか固有魔法を3つも持ってるらしくて」

「それはヤバいな」

「更に普通の魔法も全属性、超級魔法まで使えるらしいですよ」

「チート野郎じゃん」

「お前が言うなよ」


それにしても転移者ねぇ。

異世界から来たってのはかわいそうだけど、冒険者の仕事を奪うのはなぁ。


「冒険者って王都に結構いるんだろ?そいつらの仕事が無くなったら結構ヤバいんじゃねぇのか?」

「ヤバいですよ!ヤバすぎです!だからこうして飲んだくれてるんじゃないですか!」

「そうだな。じゃあ俺も付き合うよ」

「助けてやらねーのかよ!」

「もう今日は遅いから、明日になったら考える」

「「かんぱーい!!!」」


冒険者は大変なことになっているようだけど、とりあえず俺たちは朝まで飲み続けた。


「うっぷ!」

「アニキ二日酔いですか?」

「いや、それもあるけど、後半に聞いたタカコの親父の生々しい話を思い出して吐きそうになってた。酔ってたからなんとか聞けたけど、シラフで思い返してみると吐き気が、、、」

「自分は早く寝てよかったっす」

「うっぷ!」

「ギルのアニキもっすか!」

「タカコの話を思い出すと気持ち悪くてな。で、タカコは?」

「そこで寝てますよ」


タカコは店のソファーでまだ寝ていた。

まあいいや。こいつは寝かせておこう。

また親父の話を聞かされたら最悪だ。


「で、どうするんだ?リン」

「なにを?」

「ギルドに行くんだろ?」

「はぁ、毎日タカコに親父の話を聞かされても困るからな」


俺も大昔は冒険者だった。

冒険者たちの気持ちもわかる。

あとギルドマスターとは一応知り合いだ。

行ってみるか。


ギルドに着いてすぐ俺はギルドマスターの部屋に行く。


「おーい!ガイルいるか―?」

「おお!リンさんじゃねーか!」


この筋骨隆々のオッサンがギルドマスターのガイルだ。

まだこいつが駆け出し冒険者だったとき、一時期一緒に冒険者活動をしていたことがある。

昔は可愛いやつだったんだが、いつの間にかムキムキのオッサンになっていた。

時の流れとは残酷なもんだ。


「なんかウチの常連の冒険者が嘆いててさ」

「はぁ、タカフミのことだな」

「なんだっけ?異世界人だっけ?それが依頼を独り占めしてるから他の冒険者たちが食いっぱぐれそうなんだろ?」

「そうなんだよ。でも違反行為じゃないからギルドも強く出れなくてな。今新しい規約を作るために政府に掛け合っているところなんだ」

「あ、それならいいじゃん」

「ただギルドは国にとっても大きな組織。その規約の変更となると正式に決定するまで数カ月はかかるだろう」

「あ、それならダメじゃん」

「上位ランクの冒険者なら食いつなげるかもしれないが、下位ランクの冒険者には無理だろうな」

「てか冒険者なんて下位ランクがほとんどだろ」

「そうなんだ」


ガイルは険しい顔をしながら頭を抱えていた。

険しい顔をすると可愛かったころの面影が全くないな。

ただのイカツイおっさんだ。

せめて髭を剃れ、髭を。


「じゃあ俺がどうにかするしかないな」

「え、リンさんが!?でもどうやって!?」

「その異世界人を数カ月動けなくなるまでボコる」

「ああ、やっぱリンさんならそうなるよな」


何だそのバカを見るような目は。

髭を剃れ、髭を。


「でも今のところそれしかないだろ」

「確かにそうなんだが、たとえタカフミ一人をなんとかしても、、、」

「なんだ?他にも何かあるのか?」

「タカフミの固有魔法の一つが召喚魔法なんだ」

「召喚魔法ね。どおりでそんなに依頼をこなせるわけだ」


召喚魔法は自分が倒した魔物と契約していつでも召喚できる魔法。

つまり召喚獣たちに仕事をさせれば自分は寝ててもいいわけだ。

それなら複数の依頼も同時にこなせる。

本人の戦闘力も半端ないらしいから、強力な召喚獣を何体も使役しているんだろう。

そうなると一人で魔物の軍隊を持っているようなものでもある。


「冒険者たちの情報では今タカフミが使役している魔物は100体を超えているらしい」

「じゃあおそらくその倍はいるな」

「だよな」

「まあいいや。じゃあその召喚獣も俺が全部ぶっ殺してやるよ」

「だけど召喚獣はやられそうになったら消すことができる。そしたら回復されるぞ!」

「問題ない。一撃で殺せばいい」

「ああ、リンさんなら可能か」

「とりあえず罪に問われない様に冒険者同士の私闘扱いにしろ。ギルドマスターの権力ならそれぐらいなんとかなるだろ」

「まあそこはなんとかするよ」

「という訳でその異世界人に会わせろ」

「それなら今ギルドホールにいるはずだ」


ギルドホールには悠々と酒を飲んでいる男が一人。

たぶん召喚獣たちを働かせているんだろう。

着ている装備は高級品だが、見た目はただのお坊ちゃんって感じだ。

冒険者には見えない。


「お前がタカフミか?」

「なに?お兄さんも僕に文句がある人?」

「そう、それ」

「懲りないねぇ。僕には勝てないってまだわからないの~?」


こいつかなり調子乗ってるな。

まあ異世界に来てチート級の力を手に入れたらこうなるか。なるのか?

まあいいや。いい感じにイラつくからボコろ。


「お前みたいなヒョロヒョロのガキが調子こいてんじゃねぇ!俺がしっかり教育してやるよ!」

「ふっ!しかたないな。相手してあげるよ」


俺の圧倒的な噛ませ犬セリフを聞いてテンション上がってるな。

わかるよ。

これ絶対自分が勝つ流れだもん。

どうみても俺が悪役。

いいねぇ、そんなお決り展開が覆されて絶望する顔を早く見たいぜ!へっへっへ!


「お前内側も思いっきり悪役じゃねーか」


ん?ギルが何か言ったけど気にしない。

なぜなら大義は我にあるから。


「さあどこからでもかかっておいでよ」


俺たちはギルドの地下にある訓練場に来ていた。

ギャラリーもちらほら。

だが誰も俺が勝つとは思っていない。

あきらめムードだ。

それでももしかしたらと思って見に来たんだろう。


「おいおい、お坊ちゃん!俺は弱い者いじめが嫌いでなぁ!げへへへ!お前にもチャンスをやる!ほらお得意の魔法でも撃って来いよ!どうせ情けないヒョロ魔法だろーがよ!ひゃははは!」

「その言葉後悔するよ?」

「後悔させてくれよ!ひゃははは!」

「まったく。しょうがないね」


タカフミ大分気持ちよくなってきてるな。


「ほら来いよ!」

「暴虐火炎!!!」


炎の竜巻が吹き荒れる。

なんだ上級魔法かよ。

まあさすがにいきなり超級は使わないか。


「ウザい!」


本当にウザかったから手を振って炎をかき消す。


「上級魔法をかき消した!?なるほど。少しはできるみたいだね。じゃあこれはどうだい?獄炎獄葬!」


辺り一面が一瞬でマグマに覆われる。

やっと来たか、超級魔法。

久しぶりに見たな。

だが精度はいまいち。


「これで終わりだよ!」


とりあえず地面ぶん殴ってマグマを吹き飛ばす。


「うん、まあまあ熱かったよ」

「へ?」

「それで?まさかこれで本当に終わりじゃないよな?」

「クソ!来い!召喚獣!」


今度は訓練場が数百の魔物で埋め尽くされる。

中には龍とかフェンリルなんかも含まれていた。

よく集めたもんだな。

お疲れさん。


「よっしゃ!やったるか!」


一時間後


「う、ウソだ!僕の召喚獣が全部殺された?全部一撃で?」

「召喚獣はこれで全部か?」

「ま、まだ僕には固有魔法が二つある!重力魔法!」

「ぐっ!」


俺の体重が一気に何百倍にもなる。

重力魔法ね。

結構強力だな。

もっとうまく使えばだけど。


「更にもう一つ!固有魔法〝限界突破〟」


限界突破。

文字通りタカフミの戦闘力が爆上がりする。

時間制限があるんだろうが、これなら王国聖騎士長やSランク冒険者よりも強いな。

しかも俺は重力魔法で身動きが取れない。

いいね。

久しぶりに楽しめそうだ。


「〝修羅道〟」


俺は物理法則を超える。


「なぜ動ける!?」

「さあ!思いっきりやろうぜ!」


ドゴン!

ドゴン!

ドゴン!


しばらく戦った後、タカフミは気を失いその辺に転がっていた。

ちょうど全治数カ月ってところだ。

よし、これでオッケー。





タカフミが完治するまでの間にギルド規則に一人が受けられる依頼量の上限が設けられた。

これで廃業する冒険者もいなくなったわけだ。

タカコも元気に働いている。

親父も元気らしい。それは悲報だ。

まあこれで一件落着、、、だと思ったんだが。


「兄さーん!」

「また来たのかよ」

「そんなぁ!つれないっすよ!兄さーん!」


タカフミがなぜか俺に懐いた。

そしてウチに通うようになった。

まあ常連が増えたと思えば、、、まあ、、、いいとするか。


「今日は新作を見てもらいに来たんすよ!」


タカフミは元の世界にいた時にはマンガ家になるのが夢だったという。

そんなわけで冒険者の傍らマンガを描いて俺に見せにくる。

まあ絵もうまいし、そこそこ面白いのだが。


「また俺が主人公じゃねーか!」

「そりゃそうっすよ!僕が書きたいのはバトルマンガ!そしてバトルにおいて兄さんの右に出る者はないっすからね!僕にとってはスーパーサイヤ人よりスーパー兄さんっすよ!」


そう、あれ以来俺が主人公のバトルマンガを描いてくるのだ。

面白い面白くないは置いといて、自分が出ているマンガを見せられるのは結構精神に来るものがある。

でもまあいいこともあった。

タカフミの故郷で人気だったマンガたちが読めたことだ。

これらはタカフミが新たに手に入れた召喚獣、記憶が読めるサトリと、わりと手先が器用なスケルトンによって可能となった。

要するにタカフミの記憶をサトリが正確に読み取り、スケルトンがそれをマンガに描き起こしている。

そしてこのマンガたちはマジで面白い。

俺は泣いて笑って感動した。

というかウチの連中全員がハマった。

まさかのルリまでもがだ。

アルメリアにだってもちろんマンガはあったが、タカフミの故郷の漫画はまた一味違って面白い。

タカフミのマンガはウチの店にも置かれ、マンガ目当てで店に来る客も出て来た。

そんな客のためにユフィはカフェメニューも用意したので、売り上げも上がってきている。


「ナルトとブリーチも全巻書き上がりましたよ!」

「それはガチで読みたかった!」

「おい、俺にも読ませろ!」

「一番多く食べた者が先に読むことにする!」

「あからさまに自分が有利なルール持ってくんな!ジャンケンだよ!」

「魔法使っていいよな?」

「いいわけねーだろ!」

「こらー!今は営業中っすよ!働いてください!ジャンケンは閉店後っす!」


なにより地獄の瘴気亭の従業員が一番ハマっていた。

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