第21話 アイドル×麻雀=光

「ちょっとリン!お願いがあるんだけど!」


今日も飲んだくれているプリンがいきなりめんどくさそうなことを言い出した。


「えぇ~」

「ちょっと!あからさまに嫌そうな顔しないでよ!」

「だってどうせまたメンバー内での醜い争いだろ?そういうのはテレビで見るから面白いんであって、自分では関わりたくねーんだよなぁ」

「違うわよ!今回はメンバー間じゃなくて他のアイドルチームとの戦いなの!」

「いやどっちみち醜い争いじゃねーか!」

「まあ聞いてよ!今度アイドルバトルが行われるわけ。そして30組の中から最後の1組に残ったアイドルはドームでワンマンライブができるの!」

「へぇ、チャンスじゃねーか。頑張れよ」

「そしてそのバトルの内容が麻雀なのよ!」

「、、、はぁ!?」

「麻雀なのよ!」

「いや、歌と踊りで勝負しろよ!」

「しょうがないわ!スポンサーの意向なんだから」

「スポンサー鷲巣なの?」

「で、ウチのメンバー麻雀出来る人一人もいなくて困ってるの!ウチの事務所の人間も私以外ルール知らないし」

「逆にお前は知ってるんだ。アイドルなのに」

「そこはいいのよ!」

「酒にギャンブル、あと男が加われば役満だったな」

「ルール上、助っ人は2人まで許されてるの!」

「あ、流しやがった」

「うるさい!だからこの前みたいにリンとユフィに手伝ってもらいたいのよ!」

「もちろん参加させてもらうっす!雀鬼ならぬ雀龍の力を見せてやるっす!そして絶対にまほプリをドームのステージに立たせるっす!!!」


ユフィは食い気味で参加表明した。

そして優勝する気満々だ。

まあこいつはこうなるだろうと思ってた。わかってた。

はぁ、今回も結局やらなきゃいけないのか。

それにしてもアイドルが1番を麻雀で決めるって、、、。

アイドルってなんだっけ?


「頑張りましょうね!アニキ!」

「なあユフィ、アイドルってなんだっけ?」

「え?光っすよ?」

「そっか」


ユフィの熱に負けて依頼を受けることになってしまった。


「光ってなんだっけ?」

「え?アイドルっすよ?」

「そっか」





今日はプリンが明日休みということで、閉店後に作戦会議をすることになっていた。


「おい、プリン」

「え?なに?」

「赤と青は?」

「一生懸命麻雀のルールを教えたんだけど、、、」


『ピンズ?だっけ?これ全部♡にした方がかわいくない?♡』

『ジャラジャラという音で鼓膜が、、、』


「ダメだったわけか」

「あのアバズレ共!かわい子ぶりやがって!!!ピンズが♡!?こっちは本物のハート(心臓)が掛かっとんのじゃい!ジャラジャラうるさい!?私たちの曲の方がよっぽど雑音よ!」

「麻雀牌の音以下の曲ってどんなアイドルだよ」

「と・に・か・く!経血とCMでの経血は使えないの!!!」

「お前、赤と青を史上最悪の言い方したな」

「つまり私たちで勝つしかないのよ!!!」

「、、、おおお!!!!」


ユフィはプリンの暴言を頭に入れないように意識をどこかにやっていたらしく、返事が少し遅れた。

ここまでくるとさすがの俺もユフィのファン魂に感心した。

と同時に『もうやめたら?まほプリのファン』とも思った。心から。


「じゃあ今日から打って打って打ちまくるわよ!」

「おおお!!!」


はぁ、バカどもが盛り上がってる。


「そんなことしてどうするんだよ。麻雀なんて素人がちょっと練習して強くなるもんじゃねーだろ。プロでさえ運がなくて負けることもあるのに」

「そ、そりゃそうだけど」

「じゃあどうするんすか?自分はまほプリを絶対ドームに行かせたいんすよ?」

「はぁ、お前ら哲也読んでないの?運じゃなく力だよ!」

「「??」」

「イカサマだ!!!」

「「ええ!?」」

「でもでもアニキ!逆にバレないイカサマこそ練習しても間に合わないっすよ!」

「練習なんかしなくていい」

「「ええ!?」」

「ウチにはいるだろ。なんでもできる元魔王様がな!!!」

「なるほどっす!!!」

「どういうこと!?」


麻雀なんて運が絡みつつも頭を使う勝負だ。

目の前にいる女二人は間違いなくバカ。

そして俺も頭を使うゲームは苦手だ。

となればもうイカサマしかないだろ!

なぜなら、、、


「ギル!こっち来てくれ!」


俺はギルを呼んでここまでの流れを説明する。


「そういうことか!まあ俺なら魔法を使って痕跡など一切残さず、全部の牌の図柄を好きに書き換えることができるぜ!なんなら本当にマンズを♡に変えてやろうか?」

「「「ギル先輩!!!ちょーかっけー!!!」」」


そうギルさえいればギャンブルで勝つことなんて余裕なんだよ。

歌と踊りで選ばなかった自分を恨むんだな、スポンサー。


「というわけだ。だから練習なんてする意味ない!これから俺たちがやらなくてはいけないのは、少し早めの祝勝会だー!!!」

「よっしゃー!ドームだ!飲みなおしだー!!!」

「まほプリおめでとうっす!自分おつまみ作るっす!!!」


今日の作戦会議は一気に祝勝会へと変わった。

この後もちょくちょく作戦会議と称して俺たちは祝勝会を行った。

そう俺たちは浮かれていたのだ。

まさかあんなことになるとは知らずに。

ただただ、、、俺たちは、、、浮かれていた、、、。





「はぁ!?会場にカラスが入れない!?」

「いや、カラスというか動物全般ですね」

「おいおい!そんなことパンフレットには書いてないぜ!!!」

「書いてありますよ」


まあパンフレットなんか一目も見てない。

あることも知らない。

俺は受付の人に渡されて初めてパンフレットを見る。


「本当だ、書いてた!」


そう、カラスは会場に入れなかったのだ。


当初の予定では

1、ギルをペットとして一緒に会場入り

2、舞台裏から魔法使いまくって圧勝

3、祝勝会

この流れだった。


まさかこの完璧な流れが初っ端で頓挫するとは。


「、、、動物入れないんだね。あはは」


もう俺は笑うしかなかった。

ほら、みんなも笑って!

笑おう!

もう笑っちゃおうよ!

俺はプリンとユフィの顔を見てみる。


「「・・・・・」」

「白目むいてるーー!!!」


という訳で俺たちのイカサマ作戦は失敗。

普通に参加するしかなくなった。

イカサマがないなら所詮ちょっと麻雀をかじっただけの3人。

結果は明らかだった。

優勝した。

はぁ?





「まほプリ!ドームライブおめでとうっす!!!」

「ありがとう!ユフィ!!!」

「はぁ!?なんで!?」


ちょっと意味が分からなかった。

気付いたら優勝していた。

記憶がおぼろげだ。

優勝したときは俺が白目をむいていた。


「まさか麻雀のルールを知っている相手が一人もいないなんてね!」

「みんな牌の絵柄が可愛くないとか、ジャラジャラうるさいとかで参加しなかったみたいっすね!」


ああ、赤と青が正しかったんだ。


「それでみんな助っ人を雇ったわけだけど、麻雀のルールを知っている知り合いさえいなかったとはね!飲み屋とかに行けばすぐ見つかるのに!」

「飲み屋に行ったことあるアイドルもプリンちゃんだけだったみたいっすね!」


一番アイドルじゃないやつが優勝しちゃってんじゃねーか。


「、、、悪いこと言わないからドームライブやめた方がいいんじゃない?」

「なに言ってるのよ!リン!ドームに私たちの曲を響かせてやるわ!」

「、、、でもその曲、雀牌のジャラジャラ以下なんでしょ?」

「歌と踊りのレッスン頑張らなくっちゃ!」

「、、、せめてドームライブぐらいシラフで出ろよ」

「カンパーイ!!!今日からドームライブまで飲み続けるわよ!!!」

「ドームごめん」

「絶対に応援に行きまーす!!!」


3か月後、まほプリのドームライブは行われた。

俺は行かなかったよ。

招待券は貰っていたけど。


ライブを見て帰ってきたユフィは何も言わなかったよ。

そして一人でこっそり酒を飲んでた。

俺も横に座って一緒に飲んだ。

もちろん俺は何も聞かなかったさ。

その日は何も話さず二人で飲み続けた。

でも俺は最後に一つだけ聞いてみた。


「アイドルってなんだ?」

「え?光っすよ?」

「あ、そっか」

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