第20話 ルリとエリザベス

ルリが待ち合わせ場所につく20分ほど前


「今日もお城から抜け出せましたわ!ルリちゃんとまた会えるのが楽しみですわ!」


ウキウキしながらエリザベスは噴水でルリを待っていた。


「お嬢ちゃん、俺たちこの商店街に来るの初めてなんだ。美味しいお店とか知らないかい?」


そんなエリザベスに3人組の男が話しかける。

エリザベスは時計を見てルリが来るまでまだ時間があるのを確認する。


「いいですわよ!」

「それは助かるよ」


この前ルリに教えてもらったお店を紹介しようと思った。

そしてルリが来たら言うつもりだった。

私もご案内できましたわよ、と。

だが美味しいお店はこの前知ったが、人の悪意はまだ知らなかった。


「本当に助かるよ。世間知らずのお嬢様で」

「え?」


ここでエリザベスは気を失う。

男たちはレーシア帝国から来ていた人さらいだ。

アメリア人を攫っては自国の貴族たちに高値で売るゴロツキ共。

今回も適当な女子供を攫ってレーシアに帰る筈だった。

だが昨夜、彼らの前に一人の女が現れた。


『貴族の女の子を簡単に攫うことが出来ると言ったらどうする?』


貴族の娘を一人攫ったなら、これから男たちが攫う予定の女子共たちの100倍以上の額で売れる。

半信半疑ながら男たちは女に言われたとおりの時間に噴水の前へ行ってみた。

すると本当に貴族の娘がお供もつけずに座っていたのだ。


「うまくいった!うまくいったぞ!さっさと〝鳥かご〟に入れちまえ!」


鳥かごとは収納袋に似たような魔道具だ。

小さな鳥かごに人を閉じ込めることができる。

持ち運び可能な牢屋といったところだ。

収納袋と違って中の時間を止めることはできないが、この場合はその方が都合がいい。


「よし、さっさと国境を越えちまおうぜ!そうすりゃ貴族の娘だろうが追手はこねぇ!」


人攫いたちはそのまま魔導列車に乗り込む。

レーシア帝国との国境線までは乗り換えをしつつ18時間ほど。

レーシア国内に行ってしまえばいくら王女でももう帰ってくることはできないだろう。





時間は戻り、エリザベスが誘拐されてから5時間半後の噴水前。


「ルリ、魔法石から友達の場所を探れないか?」

「やってみたけど無理。どこにも反応がない」

「それだけ純度の高い魔法石のもう片方が感知できないとなると異空間とかに入れられてる可能性が高いな。てことは人攫いか?」

「ひ、人攫い!?え、エリーが危険!エリーの危険!あわわわわわ!」

「落ち着け、ルリ!お前空弧なんだから、というか半分霊体なんだから、スピリチュアル的な力で探せたりしないのか?」

「あ、そういえばあった!スピリチュアル的なやつ!」

「マジか!」

「マジ!ちょっと集中する」


ルリが噴水の前にひざをついて目を瞑る。

何か力を貯めているようだ。

というかこんなに真剣で必死なルリを初めて見た。

こんなに焦っているルリも。


「うむむむむむぅ。んー、、、サイコめとりゃー!!!」


いきなり右手をを上げてルリが立ちあがった。

なんかよくわからないけど、今はツッコんでる場合じゃない。


「何かわかったのか?」

「この場所に残っていた残留思念を読み取った!やっぱりエリーは来てた!でも悪い奴らにさらわれた!」

「やっぱりか」

「早く国境を超えるって言って、魔導列車に乗りに行った!」

「国境か。それで人攫い。奴隷として売るつもりだな。そして奴隷制度が生きてる国で魔導列車で国境を越えられるのは、レーシア帝国か」


こんなところで少女を攫うような大雑把な奴らだ。

そんな奴らが奴隷を売れるとすれば奴隷が合法な国しかないだろう。

国境を越えられたらマズイ。

5時間半前に出発した魔導列車に追いつくには、、、。


「おい!出てこいお前ら!」


俺は茂みに隠れているバカ二人を呼び出す。


「帰ってくるのが遅かったんで、、、」

「客が来なくて暇だったんでな」


ユフィとギルだ。

結局こいつらもルリが心配で来ていた。

気付いてたけどルリに何もなければ気付かないふりをするつもりだった。

でも今はそうも言ってられない。

二人にルリが読み取ったことを伝える。


「国境越えまでまだ10時間以上ある。俺たちなら3時間もあれば追いつけるだろ」

「そうっすね!」

「そこで人攫いを始末すればいい」

「それじゃダメ」


俺たち3人が完璧な救出作戦をたてたところで、ルリが異を唱える。


「ダメってどういうことだよ」

「あと1時間で5時の鐘が鳴る」

「ああ、そうだな」

「エリーは王女。こっそり城を抜け出してる。もし5時までに戻れなかったらもう遊べなくなる」


そうか、なるほどな。

確かに子供たちにとってはそっちの方が重要だ。


「よし、じゃあ5時までにエリーを連れ戻すぞ!いけるよな?お前ら」

「チョロいな」

「龍の姿を見られてもいいっすよね?」

「ああ、そんなもんどうとでもなる。それよりスピードが大事だ!行くぞ!」

「み、みんな、、、褒めて遣わす」


街の真ん中で空に飛び上がったユフィは龍の姿になり、俺たちはその背中に飛び乗る。

街の連中は突然現れた龍に慌てふためいているが、今はどうでもいい。

ルリの友情優先だ。





エリザベスを攫った男たちは魔導列車に揺られていた。

国に帰ったあと手に入る大金のことを考えてご満悦だ。

だが彼らは国に帰ることはできない。

〝地獄の瘴気亭〟の看板娘の友達に手を出したのだから。

生きて帰れるわけがないのだ。


キキィィィィ!!!


突然魔導列車が止まる。


「なんだ!?何が起きた?」


人攫いの男は車掌に詰め寄る。


「そ、それが、龍が線路を塞いでいまして」

「龍!?」


魔導列車の前には龍の姿のユフィが立ちふさがっていた。

更にギルの魔法によって魔導列車の周りには暴風が吹き荒れ、外に出られないようになっている。


ドゴーン!


そんな中、列車の扉を蹴破って入って来た一人の男と一人の少女。


「リン、あいつ。あいつらがエリ-を攫った」

「なるほどね。鳥かごは?」

「鳥かごはあいつがつけているネックレス」

「よし、あとは任せろ」


リンとルリである。


「な、何なんだ!お前ら!」

「地獄の瘴気亭だよ」

「はぁ!?」

「死ね!」





噴水の前で助けられたエリザベスとルリが向かい合っていた。

待ち合わせ時間からは大分遅くなってしまったが、やっと二人は会えた。


「ルリちゃん、ごめんなさい。私、、、」

「次は私が迎えに行く」

「え?」

「今度は私がエリーの部屋まで迎えに行く。だから、、、また一緒に、、、遊ぼ」

「はい!迎えに来てくださいまし!遊んでくださいまし!ルリちゃんは私に初めて出来た永遠のライバルなのです!」

「今度はルリの店にも遊びに来る!ルリの配下たちがもてなす!」

「絶対行きますわ!」

「これ」

「え?これは私の」

「それがないとお城に帰ってから困る」

「そうですわね。怒られてしまいますわ」


ルリが人攫いたちに奪われていたエリーの魔法石を渡す。


「元のままじゃない!ギルがバージョンアップしてくれた!」

「バージョンアップ?」

「魔力を通すと声が届く」

「え?本当ですの?」

「ん、これでいつでもおしゃべりできる。外に遊びに行きたくなったらこれを使って教えて」

「はい、、、はい!ありがとうございます!配下の皆さまにも是非御礼をお伝えください!」

「ん、伝えておく」

「、、、では、、またね、ルリちゃん」

「ん、また。心の友よ!」

「はい!心の友ですわ!」


エリザベスは無事城へ、ルリも嬉しそうに地獄の瘴気亭へと帰った。

その夜、ルリの部屋から朝方まで楽しそうな話し声が聞こえていた。


ちなみにエリザベスが城から抜け出したことはバレなかったらしい。


「そもそもなんで王女様はあんな簡単に城から出られるんだ?」

「なんか固有魔法持ってるらしいぞ。秘密らしいけど」

「マジかよ。どんなやつ?」

「〝ドッペルゲンガー〟、分身体を作れる魔法らしい。6時間たったら消えるらしいけど」

「ふーん、それならバレないか。固有魔法ってのは色々あるんだな」

「そうだな。火、水、土、風、聖、闇属性以外の魔法は全部固有魔法だからな」

「ざっくりしてるな」

「そもそも固有魔法なんて異端として排除された魔法だからな」

「そういえばそうだったな。お前なんか異端中の異端だもんな」

「だから魔王なんだよ」


こうして王女誘拐事件は人知れず終わった。

そんな光景をビルの上から眺めている女が一人。


「あーあ、失敗しちゃったね」


人攫いたちに今回の王女誘拐を唆した女だ。


「あ、でも私のせいじゃないよ。デルタのいう通りにやっただけだから」

『そうですね。私のミスです』

『いいだろう。どうせ成功しても失敗してもよかったんだからな。そうだろ?アルファ』

『・・・』

「じゃあこれでオッケーね。私お腹空いちゃった。今日はラーメン屋行くって決めてるんだよね~」


女は闇に溶けていき、どこにもいなくなった。

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