第17話 そりゃパクられるね

「お前!ここがマルセル組の屋敷だと知ってんのか!?ひゃははは!!!」

「ボスに知れたら殺されるだけじゃ済まねぇぞ!四肢を斬られて家畜の餌だ!ひゃははは!!!」

「まあ俺たちにあっさり殺されるかもしれねぇがな!ひゃははは!!!」

「てことは俺たちに殺された方が幸せだな!ひゃははは!!!」

「ちげぇねぇや!ひゃははは!!!」

「、、、ひゃははは!!!」


マルセル組の屋敷に入り込んだ俺たちは今絶賛構成員たちに囲まれ中だった。


「なぁ、ギル。ここの連中は『ひゃははは!!!』って笑わないとクビにでもなるのか?」

「いくらイカレてるマフィアだといっても、さすがにそこまではイカれてねぇだろ」

「でも最後の奴なんか言うことなくなってるのにとりあえず『ひゃははは!!!』だけやりやがったぜ」

「カラスとごちゃごちゃ喋ってんじゃねぇ!怖くて気でも触れたか!?ひゃははは!!!」

「あ、さっき『ひゃははは!!!』しか言えなかった奴がここぞとばかりに言ってきたぞ」

「今度こそ他の連中に先越されたくなかったんだな」

「おい!お前ら!!!あんまり俺たちを怒らせない方がいいぜ!?ひゃははは!!!」


クソどもが的外れなことを言っている。


「はぁ!?怒らせない方がいい?こっちはとっくにブチ切れてんだよ!クソ野郎どもがぁぁ!!」

「「「「「「うぐっ!!!」」」」」」

「リン、殺気を出しすぎだ。全員泡吹いて倒れたぞ」

「ちっ!カスが!殺すのも怠い」

「なら俺が殺す」


ー死ね―


ギルがそう言った瞬間、気を失ってた連中はあっさり死んだ。


「ギル。お前もだいぶブチ切れてるみたいじゃねーか」

「当たり前だろ。あいつは俺たちの大切な下僕だ」

「そうだな。じゃあさっさと連れて帰ろーぜ」

「こいつら皆殺しにしてな」

「そうだな」





再びボルケーノファミリー傘下マルセル組、バアルの部屋


「なあ、用心棒。お前相当な凄腕らしいな。隷属の首輪をつけても大人しくさせるのにずいぶん時間がかかったと聞いた」

「あなたの部下たちが弱すぎただけですよ」

「それもそうなんだよな。という訳でお前は転職だ。これからウチの用心棒になってもらう」

「用心棒は期間限定なんでずっとやるつもりはないっす。料理長が本職なんで」

「いや、お前の答えは聞いてない。これから心を壊してただの木偶にするだけ。俺の固有魔法でな」

「、、、」

「それにしてもとんだ拾い物だ。酒蔵の女ももうすぐ手に入る。これなら予定より早くボルケーノを乗っとれそうだ」

「、、、」

「ん?急に黙っちゃったけどどうした?用心棒ちゃん。おっかなくなってきちゃったかな~?はははは!」


バアルは高笑いをする。

全てが自分の思い通りになっていること。

そしてこれから更にそうなっていくことに笑いが止まらなかった。


「、、、」

「はぁ、だんまりか。つまらないな。じゃあさっさと木偶にしてしまおう」


バアルの魔力が膨れ上がってくる。

固有魔法が発動する予兆だ。

普通は綿密に隠すものだが、身動きの取れない相手にしか固有魔法を使ったことがないバアルには関係ない。


「恐怖の部屋」


バアルの固有魔法〝恐怖の部屋〟は対象と閉ざされた空間にいることで発動が可能となる。

火種は恐怖。

恐怖心をとっかかりに精神そのものを破壊する。

相手に恐怖心がなければ意味をなさないが、マフィアの前で恐怖心を抱かないものなどいない。

つまりバアルにはもってこいの魔法だった。

そして心を一度壊されてしまえば何も感じないただの木偶人形となってしまう。


「、、、」


それでもユフィは黙ったまま。

というかとっくに目の前のモノから興味を無くしていたようだった。

ユフィが黙っているのは恐怖に怯えているわけではない。

言うべきことを言い終えたからだ。


『料理長が本職なんで』


これ以上言うことはなかった。

あとは待つだけ。

世界で一番怖い男を。

彼は必ず自分を助けに来る。

これは思い上がりではない。

確信だ。

ユフィに恐怖心など一切ない。

あるのは〝地獄の瘴気亭〟の明日の料理の心配と最も信頼する人たちを待つ高揚感だ。


「どうした?恐怖に泣き叫べ!叫び声が聞こえなくなったころに木偶人形の完成だ!ひゃははは!」


バアルは高笑いするが、鳴り響いたのは叫び声ではなかった。


ドゴーン!!!


バアルとユフィがいる部屋の扉が急に吹き飛ぶ。


「な、何が起こった!?」


現れたのはもちろんリン。そしてギルだ。

そう、彼女が最も信頼している主人たち。


「おい、ユフィ。俺の傍から離れてんじゃねーよ」

「申し訳ないっす!」


言葉とは裏腹にユフィは嬉しそうだ。


「それで?テメェがウチに舐めたことしてくれたシャバ僧か!?」


リンのキレ方は若干古かった。


「ヒース!侵入者だぞ!早く来い!」


・・・


「ヒース!!!なぜ来ない!?」


バアルは大声を上げるが誰もやってくる気配はない。


「ぼ、ぼす、、、」

「ん?呼ばれてんの、お前か」

「ひ、ヒース!?」


ヒースはリンに髪の毛を掴まれながら引きずられていた。


「もうこの建物にはお前だけだ。今殺してやるから待ってろ」

「な、何だと!?ウソだ!!!そもそもお前は誰だ!!!」

「俺?俺は今人気急上昇中の〝地獄の瘴気亭〟店長だよ」

「〝地獄の瘴気亭〟!?そんなもの知らない!関係ないだろ!!!」

「はぁ!?関係ありまくりだろーが!!!」

「ひっ!」


リンの怒気にバアルは後退る。


「そこで拘束されてるのはウチの店の料理長で。俺のモノだ」

「あ、アニキ」

「しかもなんだ!?拘束してアブノーマルなプレイでもやってたのか!?ああん!?」

「ち、違うっす!これはプレイじゃないっす!純然たるただの拘束っす!」


焦ってユフィが弁解する。


「あ、そうなの」

「変な誤解やめてくださいよ!自分はそんな軽い女じゃないっす!ぷんぷん!」

「自分でぷんぷんって言うってことは相当怒ってんな。相当怒ってないと恥ずかしくて言えないもんな。悪かった、ユフィ」

「わかればいいんっすけどね。ぷんすこ!」

「ぷんすこか。ギリだな。まあ怒りはそこそこ収まったみてーだ。じゃあおい!クソガキ!テメェにアブノーマルな趣味はねぇことはわかった!まあそれでも殺すけどなぁ!!!」」


そう言ってリンがバアルの方に振り返るとバアルは机の傍でリモコンを握り締めていた。


「はぁはぁはぁ!やった!」


どうやらリンとユフィが話している間に机の引き出しから取り出したようだ。

バアルがリモコンのスイッチを押すと、天井からシャッターが下りる。

それによってリンが吹き飛ばした扉も塞がれた。


「ははは!これでまた密室だ!俺の勝ちだぁ!!!」

「はぁ!?なに言ってるんだ?お前。密室で勝ち?密室で勝った犯人なんて一人も知らないけど。コナン見たことないの?」

「黙れ!恐怖の部屋!」


バアルの固有魔法が発動する。


「、、、?なんかした?」


だがリンには何も起こらない。


「はぁぁぁぁ!?なんで平気でいられる!!!お前の中の恐怖心は精神を支配しているはずだぞ!!!」


バアルは信じられない光景に発狂する。


「恐怖心?お前みたいなゴミ虫にそんなもん抱くかよ」


リンはあっけらかんと答える。


「う、ウチはマルセル組だぞ!」

「だったな」

「ボルケーノファミリー傘下の!」


バアルはボルケーノの名前を出した。

ずっと見下していて、乗っ取ろうとしていたものにまで縋ったのだ。


「ふっ、よかったな」


だが目の前の男はそれにも動じない。

プライドを捨ててまで言った自分の言葉を鼻で笑いやがった。


「貴様ぁぁぁ!!!!」


グシャ!


激昂して銃を構えたバアルだったが、引き金を引く前にリンのかかとに頭を潰された。


「ユフィ、お前はやっぱり俺から少しでも離れたらだめだな」


リンは背中越しに言った。


「そうっすね」


ユフィは嬉しそうに答える。


「じゃあ帰るぞ。腹が減った」

「料理のストックはまだあるっすよね」

「やっぱお前が目の前で作ったやつが食いたい」

「ふへへへ」

「気持ち悪い笑い方してんじゃねーよ」

「気持ち悪くてもいいっすよ。嬉しいんだから。ふへへへ」

「ふっ、そうかよ」


リンはユフィを連れて帰ろうとするが、ギルはリンの肩から飛び立ってバアルの死体の前に降り立つ。


「ここの死体は全部俺がもらうぜ」

「好きにしろよ。死体なんて邪魔なだけし。あ、そうだ。ギル、ビラの余りはあるか?」

「まだまだ腐るほどあるが?」

「ウチに舐めた真似したらこうなるってバカ共の頭に刻み込んでおく必要がある」

「確かに。ウチはバカばっかなんだから、どうせ目立っちまう。それなら隠れるより恐怖を与えてやった方がいい」


後にマルセル組の様子を見に来たボルケーノファミリーの人間は奇妙なものを見つけることになる。

マルセル組組長バアルの割れた頭蓋骨に挟まれた一枚のチラシ。



〝地獄の瘴気亭

おいしい料理とおいしいお酒。

ゴールデンオクトパス料理とレモンストロングが味わえます。

是非いらしてください。

必ず天国へとお連れ致します〟



ただの飲み屋のチラシ。

だからこそこんなところに挟まれているのがおかしい。


ボルケーノファミリーはマルセル組を壊滅させたのは、酒場〝地獄の瘴気亭〟と断定。

だが報復に関しては保留とした。





今回の件からの反省を生かし、スメラギ酒造を地獄の瘴気亭の隣に、というか通路もつけて一体化させた。

酒蔵をまるごと移動するなんて出来るわけねーだろと思うかもしれないが、ギルの魔法なら簡単に出来た。

簡単に出来過ぎて若干気持ち悪かった。

だがこれでひとまず一件落着だ。


「一件落着じゃないわよ!リン!!!」

「え!?どうしたんだよ、リエ」

「パクられたー」

「へ?」

「レモンストロングの作り方パクられたー」

「パクられたってどういうことだよ!」

「作り方バレたみたいで他のところもどんどん作りだしてるのよ!」

「なんでそんなことが!」

「まあ、作り方は結構簡単だからちゃんと調べれば誰でも作れるんだよね」

「はぁ!?じゃあマルセル組は一体何のために壊滅したんだよ!」

「それはリンでしょ」

「でも特許とかないのかよ!」

「ないね。だってぶっちゃけめっちゃアルコール入れてめっちゃ甘くしてめっちゃ炭酸入れただけだもん」

「じゃあお前の酒蔵を隣に持ってくる必要なかったってこと?」

「いやいやいや!!!私はアルコール界の革命児よ!?レモンストロングなんて序章に過ぎないのさ!これからジャンジャン新作を作っていくから期待してて!」

「、、、うん、まあ期待してるよ」


しばらくすると他の店でもドンドンレモンストロングが出るようになり、ウチの好景気は終わった。

まあリエの新商品に期待するしかないな。

それにしても成分とかちゃんと調べれば簡単に作れたんだね。

マフィアってやっぱバカだなー。


「ア―ニキ!」

「ユフィか。なんだよ」

「今日は一緒に寝たいにゃん!」

「きもっ!」

「キモって何すか!高いネグリジェ着て勇気だしてみたのに!」

「いやキモいだろ!隅から隅まで!てかなんで一緒に寝るんだよ!」

「離れるなって言ったじゃないっすか!トイレもベッドも墓までも!絶対離れるなと!」

「いや、トイレは言ってねーよ」

「え?ベッドとお墓はいいんすか?」

「、、、別にいんじゃね?」

「ツンデレア―ニキ―!!!」

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