第14話 ボルケーノファミリー傘下マルセル組
ユフィがリエの酒蔵で寝泊りを始めて2日目。
予想通りマフィアがやって来た。
「ここの責任者はいるか?」
絵にかいたようなチンピラが5人。
「私がここの責任者だけど」
リエがチンピラたちと向かい合う。
「おい、女。俺たちはマルセル組のもんだ。喜べよ、今日からこの酒蔵はマルセル組のものとなりました!ひゃはははは!!!」
まさにチンピラ。期待を裏切らない立ち振る舞い。
「なに言ってんの?なるわけないでしょ!バカなの!?」
チンピラとしては100点だったが、人としては0点だった。
リエは人型のゴキブリでも見たかのような目で言い返した。
「ああん!?マルセル組に逆らってどうなるかわかってんのか!!!」
チンピラ5人組は流れるようなスピードでリエを囲い込む。
女一人でも決して手を抜かない。
さすがチンピラの鏡といったところか。
「あ、リエさんあとはもう任せてもらって大丈夫っすよ」
「じゃあお願い」
だがチンピラの快進撃はここまで、ユフィさんの登場だ。
「また女が出てきやがったよ!ひゃはははは!!!どうやら痛い目を見たいらしいな!!!それとも気持ちよくなりたいのかなぁ!!??」
「あ、そういうのいいんで」
「へ?」
ドゴーン!!!
チンピラが何人集まろうが龍に勝てるわけない。
殴られまくるチンピラたち。
ユフィはかなり手加減してるが、それでもただのチンピラにとっては一発一発が必殺技レベル。
「お前らマルセル組を敵に回したこと後悔させてやるからなぁぁぁ!!!」
半殺しにされたチンピラたちは最後までお決りのセリフのオンパレードで逃げ帰っていった。
「ユフィありがと」
「なんてことないっす!というか手ごたえなさ過ぎて引いてるっす。あ、そろそろお昼なんでご飯作りますよ!」
「ありがとう!ユフィのご飯が毎日食べられるなんてマジ役得だよ、私!」
本当になんてことなかった二人は、何事もなかったように昼食の準備を始める。
*
ここはボルケーノファミリー傘下マルセル組、本部
椅子に深く腰掛け、机に足を乗せた男。
その横に立つ屈強な男。
そして彼らの前で土下座をしている男が一人。
「なんで帰ってきてるの?」
「そ、それがスメラギ酒蔵にとんでもなく強い用心棒がいまして!」
「うん、それはわかったけど。なんで帰ってきてるの?」
「いや、あの、応援をお願いしたくて」
「応援?もっと人員を出せって言うの?たかだか女一人がやっている酒蔵を手に入れるだけなのに?」
「そ、そうなんですけど。よ、用心棒が、、、」
「用心棒ぐらいいるでしょ。女一人じゃ物騒だから」
「は、はい」
「てかお前の仲間たちが言ってたけどその用心棒も女だったらしいじゃん」
「でもその女!」
「途轍もなく強くてって言うんだろ?でもお前が言ったよな?任せてくださいって」
「でも今回は!」
「言ったよな?」
「は、はい。言いました」
「じゃあ通らないだろ。そういった言い訳は」
「、、、で、でもその用心棒が」
「優しくてよかったな」
「え?」
「俺は優しくないけど」
パンパンパン!
土下座していた男はそのまま動かなくなった。
「どう思う?ヒース」
たった今部下を銃殺した男は何事もなかったかのように、横に立つ男の意見を聞く。
「まあただのチンピラだったのでこんなもんかと」
「でも5人いたのにあっという間にボコボコにされて帰って来た」
「向こうの用心棒はそれなりの腕だということでしょうか」
「だろうな」
「末端のチンピラではなくちゃんとしたウチの構成員を送りましょう」
チンピラも構成員も形式上はマルセル組の組員である。
違いは一つだけ、組から給料をもらっているかどうか。
構成員は組からの仕事をこなし給料をもらう。
チンピラたちは組の威光を借りて自分で金を稼ぐ。
まあチンピラたちは組の名前を出して一般人から金を巻き上げるから、構成員より稼いでいる連中もいる。
ただ組の中での信用はない。
構成員になることでやっと本当の意味で組の一員と認められるのだ。
「でもまた帰って来ちゃっても困るからな」
「え?」
だからこそヒースはボスの言葉に驚いた。
組の構成員に半端者はいない。
マルセル組の構成員だから人格は破綻してるが、実力は本物である。
なのにボスは今回も負けて帰ってくるかもしれないと言っている。
「売却前の商品たちを連れて行かせろ」
「ん?そんなの連れて行ってどうするんですか?」
売却前の商品とは奴隷たちのことだ。
人身売買でもマルセル組は利益を上げている。
奴隷は大昔に存在した被差別階級だが、現代には存在しない。
表向きは。
奴隷という存在は現在この国の法律では認められてはいない。
だが法律をかいくぐって稼ぐのが、裏組織というもの。
売却先は大陸北部のレーシア帝国。
さらにそこから海を渡った先に在る島国ドレース公国。
この二カ国だけが今現在この世界で奴隷制度を法律で認めている。
他の国が法律の裏で何をやっているかはわからないが、表向き合法なこの二カ国に売るのが一番安全だ。
そしてなによりアメリア人は高く売れる。
レーシアとドレースには昔アメリア国との戦争に敗れた歴史があるからだ。
その屈辱を奴隷に晴らせるということで、アメリア人奴隷に高額を払う貴族は未だに多い。
話を戻そう。
そんな高価な品を持ち出すとボスは言っている。
金に厳しいボスがそんなことを?
ボスの真意がつかめずヒースは暫し沈黙してしまう。
「返り討ちにあって帰ってきた連中かなり怯えてたよな」
そんなヒースを見かねたボス、いや、マルセル組組長、バアル・マルセルは話を続ける。
「はい。もっと骨のある連中だと思ってたんですが」
「いや、本当に強かったんだよ、きっと。その用心棒」
「え?」
「でもあいつらは生きて帰って来た」
「はい」
「圧倒的に強いのに。なんで殺さなかった?殺すべきでしょ。生かして返したところで俺たちと手打ちに出来るわけないんだから。ウチはマルセル組だよ?」
「ではなぜ?」
「優しいんだよ」
「え?」
「おそらく向こうの用心棒は強くて優しいんだ。まるでヒーローみたいにね」
そう言ってバアルは笑みを浮かべた。
マルセル組はボルケーノファミリー傘下では目立たない組の一つだった。
歴史が長いだけで、細々とやって来た組だ。
だが3年前、先代ボスが死に、バアルがボスになった途端、一気に頭角をあらわす。
もちろん先代のボス、というか父親はバアルが殺した。
古い幹部も全員殺した。
そして恐怖で組をまとめた。
その後は外の連中も殺しまくった。壊しまくった。売りまくった。
バアルは金を稼ぎまくり、ボルケーノファミリーの中での発言権を強めていったのだ。
出世に必要なのは力でも歴史でも情でもない。
政治だ。
そして政治とは金だ。
バアルの上納金は傘下の組の中で今第三位。
だが〝レモンストロング〟を手に入れれば間違いなく一位になるだろう。
そうすれば見えてくる。
目指している場所が。
バアルは始めからボルケーノファミリーを乗っ取るつもりだ。
忠誠心などという1円にもならないものをバアルは持ち合わせていない。
*
チンピラ五人組を追い返してから5日後、再びマルセル組の連中がスメラギ酒造に現れる。
今回の男たちは前回のチンピラよりも若干上等なスーツを着ていた。
「はぁ、またあなた達っすか。懲りないもんっすね」
今回は最初からスメラギ酒造の用心棒ユフィが現れる。
「お前がここの用心棒か?」
「用心棒?そうっすね。そういうことになりますか」
「なるほどな!」
「いいからさっさとかかってきてください。ボッコボコにしてあげるっすから!」
ユフィは構えをとる。
だがマルセル組の連中は戦おうというそぶりを見せない。
「用心棒。今日お前が戦うのは俺たちじゃない。こいつらだ。ほら行け!」
代わりにユフィの前へ蹴りだされたのは隷属の首輪をつけられた奴隷たちだ。
「え?」
「何人殺してもいいぞ?代わりはいくらでもいる!はははは!」
マルセル組構成員たちの前に奴隷たちが並ぶ。
「た、助けてください!」
「殺さないでー!!!」
「もういやだぁ!!!」
無理やり並ばされた奴隷たちは泣き叫ぶ。
「お前らぁ!!!」
「卑怯とかは言わないでくれよ!これがマフィアのやり方なんだ!」
「奴隷を盾にして恥ずかしくないんすか!!!」
「正々堂々がお望みなら魔王とか勇者とやってくれよ!ひゃははは!!!」
「くそ野郎ども!!」
ユフィは歯を食いしばりながらマルセル組の連中を睨みつける。
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