第10話 ルリと遊ぼう2~中毒だったんだね~

アメリア王国近海沖


「ここがゴールデンオクトパスが現れるかもしれない場所か?」

「ん、ゴールデンオクトパスはレアだしSランクの魔物だからかなり強いらしい」

「ん?そんな強い魔物を誰が討伐したんだ?」

「浜辺で死骸を見つけたらしい。ゴールデンオクトパスに勝てる海洋生物はこの海域ではゴールデンオクトパスのみ。きっと縄張り争い。つまりここら辺には少なくとももう一体のゴールデンオクトパスがいる」

「めちゃめちゃ詳しいなお前」

「街中を駆けずり回って手に入れた情報」

「食への熱意半端ねーな」

「しかも死骸、つまり新鮮でないものであの美味しさ。新鮮なものをユフィ神が調理したとしたら、、、」


ルリはヤバそうな顔で宙を見ながらダラダラと涎を垂らしていた。

普通にキモかった。

なんか見てられなかった。

だから俺は一旦見なかったことにした。


「で、この辺にいるのか?」

「索敵魔法を使う」


そう言ってルリが放った光が辺りを包んでいく。


「ん、あっち」


ルリが飛んでいく。

そして急に止まると指をさす。


「この下にいる。結構深く」

「潜るのはごめんなんで、海面まで来てもらうか!」


とりあえず衝撃波を海にぶち込んでみる。

虫とかも木を蹴れば落ちてくる。

似た感じでタコも出てこないかと適当にやってみたら、本当に何かが海面に上がって来た。

黄金に輝く巨大な牛(・)が。

牛!?


「はぁ!?タコじゃなくて牛じゃん!」

「よく見て。足が八本ある」


ルリが足が八本ある牛を指さす。


「いや、確かに足は八本あるけど」

「八本足だからオクトパス」


ルリが断言する。


「はぁ!?どう見ても牛だろ!八本足の牛だろ!」

「足が10本ならイカ、8本ならタコ、6本ならクモ。そんな常識も知らないとは。ふっ」


ルリは呆れたように鼻で笑う。


「お前足の数に重きを置きすぎだろ」

「ふっ、リン、自分の間違いを認めることも勇気」


こいつ!

もうめんどくさいのでほぼ牛のタコをぶち殺して店に持ち帰る。

そしてユフィに調理を頼んだ。


「わっくわっく!わっくわっく!」


ルリは目を輝かせ、両手にナイフとフォークを握りしめながら腕をブンブンと振っていた。

そうしていると厨房の奥からユフィが皿を持って現れる。


「ローストゴールデンオクトパスでございます」


料理が出た瞬間にルリはすごい勢いで食べだす。


「至高過ぎる!至高の上の言葉を知りたい!」

「ルリちゃんに喜んでもらって嬉しいっす!」


ユフィも嬉しそうに微笑んでいる。

ずっと思ってたけど、こいつらめちゃめちゃ仲いいな。


「ユフィ神!そろそろ全裸で足を舐めさせてもらいたい!」


キラキラした目をしながらユフィに跪くルリ。


「ルリちゃん、それはさすがに、、、」


更にユフィの料理は続いた。


「ゴールデンオクトパスのシチューです」

「味のラグナロクやーーーー!!!」

「ゴールデンオクトパスのステーキ、レモンバタ―を添えて」

「味のカタストロフィやーーーー!!!」

「ゴールデンオクトパスのすき焼きです」

「味の明治維新やーーーー!!!」

「オクトパスってかもう牛丼です」

「味のハルマゲドンやーーーー!!!」


ユフィが料理を出すたびにキャラがだいぶ迷走しているルリの声が響く。

そしていつのまにかルリは全裸になっていた。


「いやなんで飯食って服が弾け飛ぶんだよ?」

「ん、おはだけ?」

「お前いろいろ使ってくるな」


ルリのリアクションに引きながら、俺もゴールデンオクトパス料理を食べてみる。


「はぁ!?うまーーーーー!なにこれ!超うまいんだけど!あり得ないんだけど!ユフィ早く次作ってくれ!」


俺もいつのまにか叫んでいて、ルリはすでに全裸で土下座していた。


「いや、アニキにルリちゃん!二人に料理ばっかり作ってたらお店が回らないっす!」

「じゃあ休業。今から臨時休業」

「ん、英断」


その日から〝地獄の瘴気亭〟の臨時休業は1週間続いた。


「「おっくっとっぱす!おっくっとっぱす!」」


今日も俺とルリは仕事を放棄してゴールデンオクトパスを狩りに出かける。

俺たちはもうゴールデンオクトパスの虜だった。

牛だとかタコだとかは些細な事。

ゴールデンオクトパスこそ至高。

そして狩る量も日ごとに増えていっていた。

俺がゴールデンオクトパスを狩るたびにルリが「ふぅー!!!」と歓声を上げる。

そしてギルに作ってもらった『収納』が付与された袋にドンドン入れていく。

そんな時だった。


「お主らか、最近金剛牛を乱獲しているのは」

「あん?」


いつものように狩りを行っていた俺たちの前に一人の老人が現れた。

その老人は杖をついて空に立っていた。

長い白髪を後ろで縛り、着物を来たヨボヨボのジイさん。


「普通ならそんなに大量に獲れる魔物ではないから、ここまでの中毒に陥ることはないのだが、あまりの強さが災いしたか。おい、お主たちこれ以上金剛牛をとるのを禁ずる」


なんだ?このジジイ。

まあこのジジイが何であろうが関係ないか。

俺たちとゴールデンオクトパスの仲を邪魔するなら敵だ。


「俺たちを止めるだと!?ジジイに俺たちの美食の道を止められるわけねーだろ!ハハハ!!!」


俺のイカしたセリフにルリはまた「ふぅー!!!」と歓声を上げる。

そうだよな、ルリ。

誰にも俺たちは止められない。


「かなり末期のようじゃ」

「かかってこいやぁぁぁ!!!」


ドス!


「がはっ!」


気が付くとジジイの杖が俺の腹にめり込んでいた。


「一旦眠れ」

「く、くそ!強いジジイキャラとかもう出尽くしてるぞ。まあ俺は結構好きだけど」


俺はここで気を失ったらしい。





「かはっ!」


ルリに口移しで乳白色の液体を飲まされ俺は目が覚める。


「あ、起きた」


起き上がると海辺で俺、ルリ、ジジイが焚火を囲んでいた。


「お前はさっきのじいさん。俺は一体」

「やっと正気に戻ったか」


やれやれと言った様子でジジイはさっきルリに飲まされた液体をコップに入れて渡してくる。

渡されたそれを飲んでいると段々と頭がクリアになって行った。


「ジジイ、悪い。確かに俺正気を失ってたかも」

「しょうがない。金剛牛はとてつもなく美味じゃ。しかし摂取し続けると強い中毒症状に陥る。金剛牛の強さ故、滅多にそんな症状に陥る者がいないためあまり知られていないがの」

「そうだったのか、、、」

「その症状を治めるのはメスの金剛牛の乳だけじゃ。それをお前たちに飲ませた」


ジジイの説明はわかりやすかった。

ゴールデンオクトパスってヤバかったんだ。

そしてやっぱり牛って呼ばれてるじゃん。


「話が見えない。私たちは金剛牛など食べた覚えがない」


俺とジジイの話にルリが割って入る。


「いや、ゴールデンオクトパスめっちゃ食ったろ、俺たち」

「私たちが食べていたのはタコ。牛じゃない」

「お前あれを本気でタコって思ってたのか?」

「ん?」

「ん?」


ルリは本当に何を言っているのかわからないという顔をしている。

うん、やっぱこいつはかなりのバカだ。


「え、もしかしてゴールデンオクトパスのこと言ってる?もしかしてあれは牛だった、、、だと、、、。見た目は九割方牛だったが足が八本あったはず、、、」

「いやもうそれ牛じゃねーかよ」


回復して正気に戻った俺たちはジジイに礼を言い、このまま店へ帰ることにした。

帰り際、ジジイは金剛牛乳が入った樽を何個かくれた。


「いいか、ルリちゃん。金剛牛を食べるときは必ずこの金剛牛乳を一緒に飲むんじゃよ」


このジジイかなり面倒見がいい。

というかルリへの接し方が思いっきり孫へのそれだ。

絶対ルリの方が年上だけど。

まあ頭は子供だからいいか。


「ん、んん?金剛牛ってなんだっけ?」

「だからゴールデンオクトパスだよ!バカ!」

「うぎゃう!」


イラっとしたのでルリの脳天にチョップをしておいた。

頭を抱えながら俺を睨んでいるルリを連れて俺たちは帰路へついた。





ゴールデンオクトパスの危険性と対処法を知った俺たちは〝地獄の瘴気亭〟に帰ってユフィ協力の元、最強の新メニューを生み出す。

その名も〝ゴールデンオクトパスのクリームシチュー〟。

ゴールデンオクトパスの肉を金剛牛乳で煮込むことにより、中毒に陥るリスクを完全に排除。さらにシチューにすることでよりゴルオクのうまみを引き出せた自慢の一品である。

そして今回は俺たちの自己満足でなく、ちゃんと売れる人気メニューとなった。

これにより客足が少し増えた。

看板メニューとなったことで俺とルリのゴールデンオクトパス狩りはれっきとした仕事になっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る