母よ、輝く心よ喜びよ - 1
とある女
――――――
自分を封じていた箱の蓋を開けるとやたら明るい空間にまぶしさで目を細める。
それでも耐えられずおもむろに腕を上げてゆっくりと目を開くと、光で眩んでから追って白い花びらが己の顔に影を差した。
(……モクレン?)
目覚めたわたしの頭上には大きな白木蓮の木が伸びており、その白い大きな花びらはわたしの周囲をも彩っていた。
寝起きの頭で呆然とその花を眺め意識が明瞭になって来た頃、一人の足音が聞こえた。
〈誰かいるのか……?〉
「……!?」
耳慣れない声がその空間に反響する。思わず肩を揺らしてその声の方に顔を向ける薄い翡翠色の髪と、藍色の生地に肩や袖口には色鮮やかな装飾を施した衣服に毛皮をまとうという珍妙な恰好をした一人の若い青年が槍を持って洞窟の通路の方からやってきた。
〈……!……すっげぇ!何十年も開けられなかったって爺さんが言ってたのに!人が入ってるなんてどういうことだ!?俺イキシア!!君の名前は!?〉
「???」
何か言いながらこちらに躊躇せず大股で近寄ってくると思えば、前のめりでこちらによって来る。その男の目はツツジのような色をしていたことに目を見開いた。
〈え、何言ってるのか分かる?君どうしてあんなところで寝てたの?もしかして死んでたとか!?……まさかゾンビ〉
「……」
何を言ってるのか分からないが、失礼なことを言われていることは分かる気がする。
しかし自分も現在の状況が飲み込めていない。
こちらに興味津々であるというのは分かるが、話ができるようには見えない。
いっそのこと彼のことを無視して二度寝してやろうかと思い、自分が眠っていた箱の蓋を閉めようと手を伸ばした。
〈言葉が通じないのか?そうだ、ずっと寝てたから腹減ってるだろ!俺の村に案内するぜ!〉
「え、あっ!何するのですか!?」
男は何を思ったのか突然わたしの手を掴むと体を箱から引きずり出した。
己の状況が分かっていない自分の手を引いて連れて行こうとする強引さに驚き、怒りで抵抗しようとしたが、突然立ち上がったせいで立ち眩み、暗くなる視界の中引きずられるまま手を引かれた。
花が咲いている領域から抜けた途端、治まらない眩暈と素足に襲ってきた強烈な寒さによってぷつりと何がが切れたように意識を失ってしまった。
また目が覚めた時すぐ近くで感じたのは、叱責の感情と反省の感情が見える魂二つだった。
〈もうっ!だから強引に連れていくんじゃないわよ!〉
〈悪かったって……でも俺らがちっさい頃からずっと開けられなかった箱ン中に人がいたら驚くだろ?〉
〈開けられなかったって、なに執拗にこじ開けようとしてたの!?それに驚いても勝手に連れ出さないわ!大体、そこにいた理由も分からないのに……!〉
先ほどわたしを強引に引きずり出した男に説教している女がいた。理由はどうあれざまあないと内心ほくそ笑んでしまう。
わたしに気付かないのでとりあえず辺りを見回してみるが、この空間は物組み立てた細くて長い木の枝の上に松の葉を重ね、さらに上には白い布で覆っている。とても狭いが、床に敷かれた布や隅に置かれた壺のようなものや木を掘って作った器、中央にある簡易的な暖炉を見る限り、ここには普段から誰かが住んでいることが伺えた。
住居は粗末だが刺繍の複雑さや装飾品の数から二人は富豪の者かそれなりの地位の者だろうか。
珍妙な姿をしていると思ったが、どうやら彼らにとってはそれが普通なようだ。
女は雪のような白髪に空のような水色の瞳と儚い見た目をしているが、今は説教のために顔をしかめているためにその儚さは台無しである。
「あの……」
〈あ!目が覚めたか、おはよう!〉
〈あぁあああっ!先ほどは彼が失礼な真似をして申し訳ありませんでした!!〉
女の方が男の頭を掴んで一緒にひれ伏す。雰囲気から見て謝罪しているのは分かるのだが、なんだか女の方が可哀そうに見えてきた。
「頭を上げてくれませんか……?」
〈……?えっと、なにおっしゃてるのかしら〉
〈言葉が通じないんだよ。俺が何言ってるのかもわかってないみたいだったし〉
〈それ先に言いなさいよ!〉
〈だから言ったって!〉
また二人は言い争い始めたので途方に暮れていると布の隙間からもう一人男が入ってくる。彼も長い白髪で女と顔がよく似ているが、双子か兄弟だろうか。
言い争っている二人を見て呆れた表情をしているので、これは日常茶飯事のようだ。
〈うるさいな。病人の前だぞ〉
〈ナルシサス!どうしよう、この方言葉が通じないみたいなの〉
〈……ネモフィラ、お前が使ってる魔法はなんだ?〉
〈〈あ……〉〉
「?」
何を話したのか分からず首を傾げていると、女が再度わたしの前に跪き手を握ると「聞こえますか?」と頭に声が響いてくる。今女から念話を使ったらしい。
「っ……聞こえます」
『良かった……!先ほどはうちのイキシアが申し訳ありませんでした……』
それから彼女の念話による紹介で彼らの名前が分かった。
目覚めたばかりだったわたしを連れ出した翡翠色の髪につつじ色の目をした男はイキシア。白髪で水色の瞳を持った女がネモフィラ。もう一人の白髪で金色に似た黄色の瞳の男はネモフィラの双子の兄でナルシサスという名前だった。
ネモフィラを通じてイキシアから話を聞けば、わたしは突然気を失ったらしく、イキシアが慌ててわたしを抱きかかえてここまで連れてきたらしい。なんとはた迷惑な男である。
目が覚めたばかりのわたしは上から毛皮にくるまれているが彼ら曰く、まだ春になったばかりで肌寒いのに、私が着ていた衣服は完全に夏物であるということ、しかも裸足で飛び出したせいか、しもやけと軽く切り傷を負っていたらしく、両足には包帯が巻かれていた。しかも貧血の症状もあったらしく、薬草を煎じたものと
治療は現在出入り口で控えているナルシサスが施してくれたらしく、感謝を告げれば人の良い笑みで返してくれた。
『貴女様のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?』
「わたしは…………。?」
自分の名前を言おうとして首を傾げる。自分の名前がわからない。そんなことがあろうかと困惑していると『眠る前のことは覚えていますか?』と重ねて問いかけてくる。
わたしはチラリと女の一歩後ろから好奇心に満ち溢れた顔でわたしを見ている男を見てから、口を開いた。
「わたしの目の前にあの方が近付いて何か喋ったかと思えば強引に腕を引かれ、立ち眩みが起き、暗くなった視界のまま引きずられるように連れていかれたのは覚えてます」
わたしが笑顔で言えば根に持っていることが分かったのだろう。ネモフィラと共に念話を聞いていたイキシアは気まずそうな顔で目を逸らし、ネモフィラはイキシアをにらみつけた。
『うちのイキシアが申し訳ありませんでした……。それよりも前はどうですか?あの、言葉とか色々私達が知ってるものと違うようですし』
しかし思い出そうにも、頭の奥がじりじりと灼けるような痛みを覚え、思い出すことが叶わなかった。
「……覚えていないようです。……思い出そうにも頭が痛くて……」
『……』
目を見張ったネモフィラは困った顔で手を放すと男二人と話すと、深刻そうな顔で。
〈とりあえず長老に話してくる。ネモフィラ、もう少し話を聞いてくれ〉
〈わかった……〉
ナルシサスがなにかをネモフィラに話すとわたしににこりと愛想のいい笑みを浮かべてから部屋から出ていく。ネモフィラは再度わたしに説明し始めた。
彼女は再度私の手を握るとまた話しかけた。
『ご提案なのですが、貴女様の記憶が戻るまでなんとお呼びしたら良いのでしょう?』
「名前ですか……」
ふと目覚めたばかりに目が入った白木蓮が脳裏に浮かぶ。
「マグノリア――あの花の名前です」
『分かりました。よろしくお願いしますね。マグノリア様』
とはいえその恭しい態度はいたたまれなかった。
「ところでネモフィラ、その敬語やめてくれませんか?流石にいたたまれません……」
『いえ!私達の村は貴女様の御力で維持できているようなもの!神様と呼んでも差し支えありません!』
「どういうこと……?」
どうやらわたしは随分昔からあの場所で眠っていたようで、人の気配があるけどどんなに力を入れても開けられない箱に周囲は気味悪がりつつも、そこから漏れる魔力の恩恵を受けて生活していたため、この土地の御神体か祠なのだろうと思い神聖視していたという。
それにあの地は魔力に溢れているようで、わたしが眠っていた場所の周囲は恰好の魔石の発掘場所だったらしい。
だがわたしの中にある魔石の認識に若干のずれがあることに首をかしげた。
もしかして何か忘れているのもそれが所以だろうか。
『おぉ……この魔力はまさしく女神じゃあ……この老い耄れにもこんな……!』
『じいさま!?』
この村の長とは別に長老にも会った。初対面で気絶した老人にわたしはうろたえたが周りにとってはそれが普通のようで、よくそれでここまで生きて来たなと思った。
しかし80歳とは随分と若いなと思うが、彼らの寿命はせいぜい60くらいだという。なぜ若いと思ったのだろう。
この集団はトナカイの放牧と狩猟で生計を立てている民族の集まりであり、一年を通して国をまたいで西と東を行き来しながら生活するのだそうだ。
彼らは狩猟をしながら魔石の採掘するためのこの地に短期間だけ滞在しているのだという。
『よければ私たちとこれから共に行動してくれるなら嬉しい』
「えっ!?ですが……」
いくらわたしの記憶がなくとも流石に長期で彼らの世話になるわけにはいかない。薬だって貴重だったろうし、それにわたしはあの寒い環境への対策もできるし、一人で生きていける術も持っているのだ。
『その恰好で貴女は一人で生きていけるの?住居は?食料は?狩りは?』
「できますよ。魔術の心得もあるので寒さを和らげる対策もできます。それに貴女達にとっては食い扶持が増えるだけだと思いますが?」
聞けばこの土地はある所を除けば雪がない時期はほんのわずかで、年中雪ばかりの厳しい環境だという。田畑を耕すにも使える土地は全て近隣の住民が占拠している状況なのだそうだ。
だがあの白木蓮のある場所だけはなぜか局地的に常夏の環境であり、植えてある花もあの領域にしか咲かないようなので、近隣の住民は『神の領域』と呼んでいるらしい。
そんな彼らならわたしを受け入れることも可能性は無くはないはずだ。
「それに原住民がいるのなら、彼らに指導してもらうことも可能ではないのですか?」
『確かにこの地から少し離れたところに村があるし、彼らもこの地の魔力の恩恵を受けているけど、言葉も通じない貴女のことを受け入れるかどうか分からないわ』
それにどうやらそこの村の者達は遊牧民であるネモフィラ達を良く思っていないようで、お互いにあまり深くかかわることはないらしい。
それに、この遊牧民の彼らに少しでも関わったあるわたしがそちらに行けば、何かと疑われ肩身が狭くなるだけだという。なんということだ。
しかしネモフィラ達もこの間は狩猟と放牧だけで暮らせるはずがない。
穀物など彼らからもらえるものもあるはずだし、何かと交換しているのではないかと問えば、この地に滞在している間は数回くらいは交換しているようだが、用が済めばすぐに出ていくのでそこまで関わることはないらしい。
『……お試しでいいから、私たちの元で暮らしませんか?せめて記憶が戻るまでの間だけでもいいから!』
「…………」
結局わたしは彼らの集団に世話になることになった。
手始めに渡されたのはイキシア達が着ている民族衣装に着替えさせられた。よく見ると衣服には寒さを和らげる魔術陣が刺繍されていることに驚いた。聞けば【火の神】のお守りなのだそうだ。
そしてこの衣服を身に着けないと行けないくらいこの土地は厳しい環境であることがわかった。
「これが魔石。イキシアが貴女が眠っていた場所の近くがよく取れるって言ってたわ」
「これが……」
魔石は虹色に輝いた石だった。本来色が混じった魔石は品質が劣るものが多いが、ここまで色が均等に混じった魔石は逆に中々ないらしく、これはこれで希少なのだそうだ。
その力を浴びて眠ったわたしは彼らから見れば神々しく見えるらしい。
彼らはそんなわたしを神様のように崇めようとしたが、わたしはすぐにそれをやめてもらうよう懇願し、その結果わたしははじめての友人が出来た。
―――
「流石、はじめてなのに筋が良いわね!もしかしてマグノリアも狩りをしていたのかしら」
「ふむ……体が覚えているみたいですね」
「すげえよ!マグノリア!自信持ちなって!ほら!」
「痛い痛い!叩かないでくださいイキシア!」
この民族は多言語の種族であるようで、向かう地域によって3つ以上の言葉を使いこなすことが出来ると聞いた時は目が回りそうだった。
しかし言語が違うといえども、訛りの違い程度であるため覚えること自体は大した苦難はなかった。言葉を覚えていくにつれて徐々にこの集団にも馴染んできた気がする。
弓に慣れればすぐに獣を仕留めることが出来たし、仕留めた獣の処理をする方法も覚えていた。
「にしても皆、よく連携が取れていますね。生まれた時から共に過ごしているからでしょうか」
一瞬ネモフィラの息が詰まったように見えたが、ナルシサスが割って入ってきた。
「この民は互いの魔力を感知しながら狩りを行うんだ。魔獣も狩ることがあるから」
「魔獣ですか?」
「え、えぇ。魔力を持った毛皮は加工する前でもよく売れるの。床に敷けば温かいから冬に重宝するのよ」
「なるほど……」
ネモフィラとナルシサスが視線でなにかやり取りをしていたが、わたしは首をかしげた。
魔石の扱いについても説明されると、わたしはすぐに魔術陣との関連について調べるようになった。
どうやらわたしは研究するのが好きらしく、知る事が多いとそれを記録するために紙の代わりに木札だけでなく適当に切った木片や薪にまで様々なことを書き殴った。
「もう!またこんなに散らかして!ここを自由にしていいって言ったけど、足場が無くなるほど物を置いたらどこで寝るのよ!?」
一通り仕事が終わると自由なのでわたしは長老が用意してくれた一人用の小さなテントに閉じこもり、そこで売れないクズ魔石や薬草。時には捕まえた小さな獣を使っては様々なことを実験したりすればネモフィラが様子を見に来ては説教をしに来た。
「待って!あぁ、その木札はまだ捨てないでください!!」
「なら日頃から整理をしなさいよ!集合テントなら勝手に薪にされてたわよ!」
似たようなやり取りを誰かとしたような気がするが、ネモフィラが植物から取った赤の染料をインク代わりにして描いた木札を見つけるとわたしに見せてきた。
「この絵はなに?」
「これは【空】の属性の紋章です」
「【空】の神様のことかしら」
彼らは魔術属性を神と形容し、魔術は神から授かった術で、生まれ持った魔法の属性は神々からの祝福だとして崇めている。
「そうね……【空】は貴女の瞳の色みたい」
「え……?」
ネモフィラが言うには【空】は白夜を覆う空の赤を指すのだそうだ。
そして【時】はオーロラ。【地】は春に萌える大地。【水】は夏に雪解け水が流れていく海。【風】は秋風に舞う花弁。【火】は冬も負けじと燃えたぎる火山の溶岩。【闇】は夜の帳。【光】は夜を照らす月と導く星の道しるべだと言われている。
そしてわたしの瞳をその【空】属性の色だと言うネモフィラは「自分の顔も忘れちゃったの?」と驚き、わたしをネモフィラが住まうテントに連れて行ってくれた。
ネモフィラが暮らすテントは薬草や干した肉が多く天井から吊るされていた。寝台が二つあるが、もう一つはナルシサスのものだろうか。
そこでは置いてあった金属の板を磨いただけの鏡をこちらに向けてみせてくれた。その時私は初めて自分の顔を鏡越しに見た。
髪の毛が黒いのは着替えで髪をほどいた時に知っていたが、自分の目がこんなに赤いことは知らなかった。
「綺麗な顔でしょ?こんなに濃い色を持つ人なんて見たこと無かったもの」
「……わかりません」
鏡を見せられ、これがわたしの顔だと言われてもピンと来ないし、わたしの瞳がこんなに赤いことも知らなかったのだ。
それに隣に並ぶネモフィラと比べると正反対な黒髪だ。雪の中では目立って仕方ないし、髪も瞳も肌も色素が薄いこの民の中ではだいぶ浮いていたらしい。
自分の真っ赤な目をしばらく見ていたが、また頭の奥でズキンと痛みが響いたためそっと目を逸らした。
すぐ隣にいるネモフィラは白鳥のような白髪に透き通った深い湖のような色の瞳なんてわたしと正反対の容姿の方がもっと綺麗に見えた。
さらりとした彼女の白髪にどこか懐かしさを覚える。
「わたしは、ネモフィラの顔の方が好ましく思ってます」
ネモフィラはありがとうと、はにかみながら返してくれた。わたしはそれから鏡を覗くことはしなかった。
―――
わたしがこの集団の中で暮らしてから二週間ほどで移動になった。本当にあの場所には魔石しか用がないらしい。それ以外は周辺の草が減った頃合いを見て拠点を移動する。
この国の管理人が常駐するという街に入ると、イキシアが他の男たちと共に採掘した魔石を献上しに行く。そうしないとこの近辺での滞在が許せないかららしい。
この集団の長である長老の次代がイキシアだと言うのだから世も末だと思ったが、長老曰く、この集団の中で一番魔力が高いのがイキシアなのだそうだ。
魔石の献上が終わると滞在のため拠点を作る。そして間もなくして妊娠中だった一人の女が産気づいた。
出産は集団の中で一番年老いた女が主導となって忙しなくなる。
女が出産の準備のために動いている中、男は皆で同じ肉を分け合う祝賀会のために獣をいくつか狩りにいく。
ちなみに若い女たちは村の子供たちを集めて世話をするため、わたしは子供達に遊ばれながら世話をしていた。
産気づいた女の夫は狩りをし終えると手持ち無沙汰になり、おろおろと外で妻の心配をし始めるので「どっしりと構えなさいな。情けない」となにやら荷物を持った年増の女が彼の尻を後ろから蹴り飛ばしたのだった。
しばらくして女の悲鳴と赤子の産声が聞こえてくる。
「おめでとう、男の子だよ!」
「「「うぉおおお!!!」」」
生まれた子供はある程度体が洗われると屋外に出され、民たちの目に入る。
そして長老が祝福をした後は親しい者達が抱っこしてあげたりして喜びを分かち合うのだという。
父親になったばかりの男は生まれたばかりの赤子をわたしに差し出した。
「マグノリア、抱えてくれ」
「えっ!? でもわたし……」
「マグノリアが用意してくれた薬草や知識のおかげで妻も子供も無事に生まれたんだ。俺は君に感謝している」
「勝手にやっただけですよ……」
まだ彼らはわたしを神様扱いしているのではなかろうかと苦笑しながら、わたしは生まれたばかりの赤子を抱き上げた。
生まれたばかりでまだ何も分からないであろう赤子の呑気な顔に思わずわたしも頬がゆるんでしまった。
「……元気に育ってください」
赤子の額に口付けして満足すると父親に返そうと顔を上げる。すると唖然とした顔でこちらを見ており、周囲はキラキラと虹色の星屑となって光り輝いていた。
「祝福だ……」
「えっ!?」
「ありがとう、マグノリア」
涙ぐみながら子供を受け取る父親とその周囲の反応にわたしは大いに戸惑った。
「マグノリアの魔力は綺麗ね。昼間の星屑みたい」
「揶揄わないでくださいネモフィラ!」
「すげえよマグノリア!君の祝福なら赤ん坊も長生きしそうだ!」
「イキシアまで……」
げんなりした顔でいれば苦笑しながらナルシサスが説明してくれた。
「大方君の魔力が空にばら撒かれたんだろうな」
「そう、ですか……」
そう言われればすんなりと納得した。
だけど他の子供にも祝福をしてくれと言われた時は大分戸惑った。自然と出てしまったものだから。
「彼女に祝福を求めるのは良いけど、魔力が降りかかった子供に悪影響があったらどうするんだ」
「こんなきれいな魔力が悪影響な訳あるか!」
「そう言って魔石をかじって腹を壊した馬鹿はどこのどいつだったかな?」
「うっ……」
何故そんな愚行に走ったのか気になるが、ナルシサスの冷静な笑みによってわたしが皆に祝福もどきという名の魔力を振りかけること無く安心した。
それと同時に「たとえ無意識でも人に魔力を振りかけないでくれ」と釘を刺されるのだった。
「けど本当に君は女神みたいだな!」
そう言って笑うイキシアにわたしは笑顔で圧をかけると彼は一瞬で背筋が伸びた。
興奮し過ぎて頭が浮かれすぎではなかろうか。
「イキシア……?」
「悪い。冗談だ」
悪い冗談はやめてくれ。
周りの賛美や誉を言われてもわたしは素直に喜ぶことが出来ず、少し寂しかった。
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