燃える神秘の愛は誰の為に - 3
ガーベラ姐さん
――――――
ガーベラは床を踏みしめて医務室へと向かい、大暴れして怪我をした時くらいしか入ることがないそのドアを開けた。
薬の匂いが鼻に付くも、先に気付いたダリアは「お姉ちゃん!」と笑顔で迎えてくれた。可愛い。だがこれは決めたことだとガーベラはダリアの独り言に付き合っていたロイクに近付く。
「ロイク」
「なんだ急に」
「アタシを雇え」
「…………正気か?お前どこかに頭を打ったのか?」
本気で心配されたので一発殴ろうとしたら躱された。
その後ロイクは「それを言う相手は俺じゃないだろう」と言ってゲリーの元へ連れていかれた。
「ダメだ。孤児をそのまま雇うなんて前例がない」
「でもマーガレット以外の人間を雇ったのは父上が母上と結婚してからだ」
ゲリーとアイリスが婚姻を結んだ辺りで、大陸の方では戦争が勃発しており、メイラに流れつく難民が増えていたため、難民を装った不届き者から守るため国内の警備を強化するよう皇帝から勅令が下った。それに伴いカレンデュラ領全体の警備も見直され、国内で起きた戦争以来しばらく展開されていなかった孤児院のシールドを展開することになった。だがその所為でこれまでボランティアで見てくれていた者たちの足が少なくなる。
ゲリーとマーガレットとアイリスという大人三人で子供たちの面倒を見ることに不安を感じたアイリスはゲリーに使用人を雇うことを提案してこのような状況になっている。
「……ガーベラ。お前も良く育ったと思うし、街で起きたトラブルもあるのは重々承知している。だがな、私とて娘として見てきた子供を雇うのは」
「だからロイクに雇えって言ったんだ」
それにゲリーはそういう意味じゃないんだと頭を抱え、ロイクは呆れたようなジェスチャーをした。
大体ここにいる使用人も子守りの手伝いをするために雇ったので、基本的な仕事内容は子供たちが危ない目に合わないようにするための監視と、孤児院を出るときにきっちりとした生活ができるような指導だ。なので一切主人の身の回りの世話などを頼むことはしていない。それに人件費もあるのでこれ以上使用人の数を増やせない。
「俺は馬鹿だと思う」
「……このご時世、お前くらいの年の子供をそんな扱いにするのは貴族くらいなものだろうに」
「お前らが言うなよ」
ガーベラは二人の説得を曲げず、その後介入してきたアイリスが放ったあと押しの言葉に結局二人は折れた。
「このロクな口を聞かない恥ずかしい子を家の外に出せると思う?」
アイリスが出した提案は、ガーベラを家政学校に行かせ、炊事・掃除・洗濯はもとより、マナー・語学力・護衛などありとあらゆるものを身に着け、無事卒業できたら採用する。ということだった。
学費は卒業する孤児に出すお金とこれまでガーベラがアルバイトで稼いだお金で賄えるようなのでガーベラはそれに頷いたのだった。
その後の生活は慌ただしく過ぎた。
アイリスからはマナーや喋り方を学び、教養としてマーガレットから一般常識を学んだ。ちなみに逃げようとすればマーガレットによる鉄パイプの脅しで止められた。
「こら、食べ物はがっつかないの!」
「だってこれ美味しいんだもん」
「それは嬉しいけど、おしとやかになさいな」
夕飯時もアイリスの隣でテーブルマナーのレッスンを受けたり、女性としての身の振り方、言葉遣いも直された。
その後入学前の面談を受け春には入学する予定だ。同い年の子供達と比べれば遅い巣立ちだった。数年すれば戻るけれど。
「ガーベラ、慎ましく生活出来るのかなぁ」
「なんだよ、酷いな」
ほんの数年だ。だが全寮制のルールを守ることが出来るかというとその自信はないけれど、マーガレットよりも怖い大人なんて知らないので多分大丈夫だろう。
「……手紙くらい書いてよ」
「んだよ寂しいの?」
「悪い?」
「……キレんなよ」
「待ってる。アイーシュでずっと」
「帰ってきたらお前の店に来てやるよ」
ほらとガーベラは小指を差し出す。そろそろ身長が止まりそうなガーベラはまだ止まらない成長期の大きくなったシードの指を見ては少しだけドキリとした。
大人になる。それは当たり前のことだしもう怖くない。なのに触れた指の感触は指切りげんまんが終わってもしばらく残ったままだった。
―――
「魔術学校はいいのかよ」
「幼い頃から独学で魔術は学んでいるとはいえ、あくまでそれはダリアの為だ。魔術学院に入れるほどの学は学んでない」
13になるロイクは、誕生日を迎えた次の日にダリアを連れて王都に向かう。
魔術学院に入るよりも先にダリアに診てもらう理由は、王都に向かえば高名な医者が沢山いるからだとか。そこでダリアの体質を診てもらうらしい。
「それでお前ら二人で大丈夫なの?」
「使用人一人連れて行けば問題ないだろう。それに病人が乗せても安心できるような乗り物も寄越してる。最悪敵が厄介ならダリアの魔法で周囲を吹き飛ばしてもらうが、そこまでしなくても護身する術は沢山あるよ」
底なしバックに金額の書いてないカレンデュラの家紋が書かれた小切手を詰めているのを見て、彼は一体ダリアの為にいくら注ぎ込む気なのだとガーベラはゾッとした。
街の外は紛争で国中荒んでいるという。今では武装した私軍たちにの監視もあり街の出入りは厳しい状態だ。きっと外に出れば盗賊に襲われる可能性がある。
金額が記されていない貴族の家紋が書かれた小切手に子供二人。特注で用意した高級な魔術で動く車。ここにお宝がありますよと言っているようなものだということはスラム出身のガーベラはよく分かる。
「ロイク、私も一緒にお外に出るの?」
「あぁ、王都はとても広い。見せたいものが沢山あるよ」
ロイクの言葉にダリアは嬉しそうに飛び跳ねる。
本当に大丈夫なのかとゲリー達に問えば、むしろ盗賊たちが可哀想だと返した。ガーベラは大人達に敵わないはずのロイクにそう言った理由が分からなかった。
数日後、心配そうなガーベラ達に見送られながら馬車は出発した。
ゲリーがガーベラの肩に手を置いては、新品の馬車を眺めながら問うた。
「ガーベラ。呪詛返しというものを知ってるか?」
「え?」
ロイクはほんの少しだけ、魔術ではなく、魔法を使って呪術に干渉する実験をした事がある。
その結果はロイクの少ない魔力を使って行ったためか静電気に当たった程度のつまらないものだったけれど、呪詛返しというモノの説明を受け、ガーベラは薄らとその全貌を理解した。
その数分後、大きな爆発音と共に知らない誰かの悲鳴が聞こえたのは言うまでもない。
―――
その後の二人のことを見ることなくガーベラは家政婦の学校へ進学した。
その学校では地獄のような授業やら訓練やらがあり、授業以外でも外の世界の様々な事を知った。
大陸内の戦争が落ち着いて国家が2つに別れる。
それに伴いメイラでは人族の皇帝派と魔族のレジスタンス派の二極化に別れる。レジスタンスの中にはスポンサーとして貴族の私軍も含まれており、紛争は劣悪となる。
帝国は魔術学院が開発した魔力探知機を使い廃村の下に眠る魔力石を採掘し、魔力というリソースが大きくなっていることで現在は帝国側が有利となっているという。
ダリアとロイクが王都から帰って来たのはその一ヶ月後だったらしく、シードとの交換日記にはダリアの体質を治療をする技術はなかったようで、「ダメだった」の一言が添えられていた。
その代わり国立病院でロイクが金額の書かれていない小切手を出したことが王都中に広がったとかで、紛争中にも関わらずわざわざ名も知らぬ貴族の使者たちが街のゲートを押し入れては釣書を寄越してきたという。中には使者ではなくその家の当主と娘本人が来たこともあったらしい。
そんな騒ぎが起きたせいで隙を突いた賊や難民が街の中へ入り込んだのだから、カレンデュラ領はてんやわんや。
それに呆れたゲリーは、財産目当てでやってくるお前たちはとんだ阿呆だと発言。そして強引に領内に入った者たちには賊を入れたということで賠償金を請求。
ロイクはそんな騒動の果てに呆れたのか、女に対して興味を失せたのか、とうとう病弱で将来子供を産めるかすら分からないダリアと婚約を結ぶと宣言。使者を送り込んだ家々には改めて断りの手紙を出したという。
それ以降カレンデュラの家に来る貴族は来なくなり、ガーベラはそれに対して『ロイクには「馬鹿」、ゲリーには「阿呆」って伝えておいて』と書き込み、日記を転送した。
ちなみにそんな彼らのせいでカレンデュラ家の侍女候補として進学していたガーベラは教師や生徒からしばらく避けられていた。
何故シードとガーベラが手紙ではなく日記でやり取りしているのか、国内の紛争が激戦化し、商人や郵便の出入りを規制する領地が増えたためだ。
これでは手紙をやり取りすることが出来なくなってしまうと言ってゲリーに頼み込み作ってもらった。
本来ならカレンデュラ領の街にはシールドが張っており、魔法、魔術、呪術も通さないようになっている為、魔術であれば決められた術者、術式を用意しなければ通せないようになっていたのだった。
それ以降、二人は手紙ではなく日記でやり取りすることにした。簡単に読み返せるしノート代の方が安いから。
だがそのやり取りも数ヶ月後には疎かになり、三冊目の日記のページが無くなった頃には既に二人は一切連絡する事は無くなってしまった。転送魔術はゲリーの妻であるアイリスによってガーベラへの贈り物が何かの祭りごとの機会に来る時くらいしか転送魔術を使うことが無くなってしまった。
―――
「ただいま戻りました」
四年ぶりに帰ってきた孤児院にはもちろん十六歳になったシードの姿はなく、ロイクも魔術学院に進学している為居ない。その代わり知らない子供が沢山増えていた。
「新しく使用人として雇われました。ガーベラと申します」
学校で教わったとおりスカートをたくしあげて一礼する姿に、子供達はポカンとした顔で見上げている。
だが後ろでその姿を見ていた大人達は何故かくすくす笑ったり、感動したように涙を流す者もいたため、ものの数秒でガーベラの化けの皮は剥がれてしまった。
彼女の矯正も兼ねて学校へ送り出した育ての親二人は呆れた顔をしていた。
その後使用人達から聞いたことだが、ガーベラとシードをつないでいた転送魔術陣はシードが孤児院を出て行ってからは、紛争中の国内で何かあるかわからないため家政学校から提示されていた決まりもあり、ずっと孤児院が管理していたということ、ダリアのために王都へ向かったロイクの話を聞いた協会が積極的に医学への研究を進め始めたということだった。
「それにしてもガーベラ」
「なん……ですか、アイ……奥様」
自分が育てた孤児が他の使用人同様に奥様と呼ぶことに違和感を感じたのか少し顔を顰めたが、仕方のないことと嘆息し、ガーベラの隣に身を寄せた。
「このドレスは貴女が仕立てたのかしら?」
「いや、奥様が送ってくださったお召し物を私が縫い直しました」
正直、スカートはもう履けるし自分で仕立てることは可能だ。だが数年すればボロボロになるため修繕とリメイクを重ねて出来た結果がこれである。
それが何かという顔でガーベラが笑顔で返答すれば、アイリスは彼女のことを抱きしめた。
「お、奥様?」
「男の人はもう怖くない?」
「…………いえ、少し怖いです」
流石に今も男性は怖い。成長が止まって昔より視野が広くなって、人に暴力を振るわず守る術を学んでも、やはり男性は怖かった。きっと自分は一生男に抱かれることに同意することはできないのだろうなと思っている。
アイリスがガーベラに贈った衣服たちは、露出を抑えた男装チックな、だが一目見ても女性だと分かるような衣装だった。まさか意地でも女の子らしい服を着せたがっていたアイリスがそんなものを贈るのかとガーベラは最初こそ驚いたが、理由はすぐに分かった。
「実はね、そのお洋服、シードが貴女の為に送ったのよ。シード、自分が大人になるとガーベラが怖がっちゃうからって、交換日記をやめちゃったの」
その代わり、自分が働いたお金でガーベラに服を贈ったのだという。一目見て女性だと分かるように、だが色目を向けられないよう中性的なものを必死に吟味していたという。
「馬鹿だなあ……」
女性に男性が服を贈るという理由を知らないのだろうか。ガーベラ自身もその意味を知ったのは学校に入ってからなのだが、今は普通に女性らしい服も着るしそもそも学校の制服がスカートで履かざるおえなかったから段々慣れてしまった。
「今度、お店行ってあげて。きっとあなたのことを見て驚くわ」
「うん……お母さん」
やっぱり母親には適わないとガーベラは思った。
―――
孤児院に戻ってからというもの、怒涛の勢いで仕事という仕事がやってくる。
誰かが喧嘩して魔法を室内で使い家具を壊せばその子供達への説教と家具の修繕を行ったり、孤児院を卒業した者の中に花街で働いている子供がいる噂を聞けば領主であるゲリーとともにそこが自分の領地でなくても視察に向かったり、夜の見回りで夜泣きしている子供がいれば眠るまでそばにいてあげたり、内乱でやってきた孤児を受け入れるために部屋の準備を進めたりと、近くにいる子供達の首根っこを捕まえて手伝わせるというやや強引なことをしながらガーベラは仕事をこなしていた。
月日は流れ、11歳になったダリアはまた魔力核の暴走により倒れた。
「……ごめんねお姉ちゃん」
「何でダリアが謝るんだよ」
13まで生きられないと言われていたダリアの体は相変わらずで、今も尚彼女の生命力が魔力となって放出されている。魔力をコントロールする特訓は今も行っており、現在はベッドの周りに風よけの結界を張る事もなくなったが、やはり完全に魔力を身体に封じることが出来ると言う訳では無いらしい。
ダリアも本来なら雇い主であるゲリーの息子の婚約者として丁重に扱わなければならない。だがダリアや他の子供たちはそれを拒み、ガーベラが孤児院を出る前と子供たちの関係は変わらず、『ガーベラ姐さん』という愛称で呼ばれるようになっていた。
「そういえば、ロイクはどうしてるのかな」
「きっとアイツの事だから、学院でも天才だとか称えられてるんじゃないの?」
きっと大丈夫だと、ダリアの頭を撫でる。彼女の魔法は風だ。窓も開けていないのに彼女を中心に風が吹き、心地よく部屋の中を循環していた。
「そう、だよね……きっとそうだよね」
「おいおい何でそんな心配そうな顔すんだよ」
「……怖いんだ……私、ロイクのこと大好きだけどね、ロイクは私にとってお兄ちゃんなんだ。いきなり結婚しようって言われた時はびっくりした……」
まるで戯言かのような態度で彼女は窓の外を眺めながら話した。
最近は子供の数も増えたせいか彼女を構う大人が少なくなり、いつも付きっ切りだったロイクもいないので療養中は一人でいる時間が増えた。
貴族なら子供の時に婚約を交わすことはよくある話で互いに情も無いのにそのまま結婚。ということもあるらしい。
だがダリアは庶民の生まれであり孤児だ。二人ともゲリーとアイリスの手によって兄妹のように育ってきたとはいえ、身分の差があり伯爵家の妻としてアイリスも子供たちの世話をする他にも仕事はたくさんある。
アイリスは元々カレンデュラの領内にあるウイエヴィルという街で最も栄える商家の娘だったからか、孤児たちの母代わりになることも、貴族として振舞い誰かの家と交流を交わすこともた易かった。
だがダリアは幼い頃から同じ孤児たちに囲まれ、身体も弱く、アイーシュの外にも出たこともないから世間の波に揉まれたこともない。世間知らずの庶民がやって行けるのだろうかという不安もあるのだろう。
「アタシが学校卒業まで行けたんだからダリアも大丈夫だよ。お姉ちゃんが保証する!他の家との交流もアタシがフォローするしさ!」
そうガッツポーズを見せると、ダリアは違うよ困りながら笑い、布団を口元まで覆った。
少しだけ頬を染めてもじもじしながら彼女は話すのを戸惑いながら、誰にも言わないでねと言うダリアの言葉にガーベラは初めて見るダリアの姿を見ておずおずと首を縦に頷いた。
「私……ロイクにね、好きだって言われたことないんだ」
「……」
「『お前の希望に添える男に巡り合わせられず俺とこんな形になって済まない』ってむしろ謝られちゃってね、どうせならもうちょっとロマンチックなプロポーズしてくれても」
「ダリア」
愛のない結婚に戸惑いを覚えていた少女は、ポロリと想いが溢れる。
カタカタと風で物音がするが室内が大嵐にならないように、彼女は今も尚魔力を体内に押さえこむ。
ダリアは強い人間だ。とても11歳の子供とは思えないくらい強い人間だ。それゆえ彼女が泣く姿を見るのは初めてで、彼女をこんな顔にさせたあの男が許せなかった。
一昔前の、それこそスラム街にいた時の自分はそんな女を見て自業自得だと思っていた。買われて結局返品されてしまった娼婦たちを遠くから見た。愛してくれなかったと泣き叫ぶ女達を遠くから見ては何度もあぁ馬鹿だなぁといつも呆れていた。
だがロイクはダリアのことを思って婚約という首輪を彼女に渡した。好きの一言も言わず婚約を成立させるなんてロイクらしいけれど、それで目の前の幼い少女はこんなにも傷付いていた。
「……ごめんなさい。でも、ロイクには言わないで」
「でも!」
それでもダリアは必死にガーベラの服の袖を握りしめては言わないように懇願した。
結局ダリアの体調は一週間経っても全快しなかった。
―――
///
旦那様
使用人としてはお初にお目にかかります。ガーベラです。
私は家政学校を卒業後、正式に旦那様に雇われてからというもの、子供達に溢れたカレンデュラ家で忙しなく務めさせていただいております。
旦那様も魔法医学という分野でご進学あそばされたとお聞きしました。ご入学されてから益々、ダリアお嬢様の為にさぞ魔力核について勉学に勤しんでおられることでしょう。
さて、今回僭越ながらお手紙を綴らせて頂きました理由と致しましては、その旦那様の婚約者であるダリアお嬢様についてでございます。
私がお邸に使用人として戻って早数ヶ月。ダリアお嬢様の体調は幼い頃から相変わらずで、これまで人一倍療養に力を入れていた旦那様が離れてからというものお嬢様から寂しさを感じあそばされます。
めんどくせぇからここからは私の勝手で綴らせていただきます。
ダリアはアタシが学校に進学する以前からロイクのことを気がかりにしてた。
その理由はアタシが知るところじゃないけれど、ダリアはロイクに対して抱く想いについて日夜深く思い詰めてるんだ。
アタシが深夜の見回りでダリアのいる部屋に入る度、ダリアは眠りにつかずじっと窓の外を眺めてはため息をついていて、アタシがいたことに気付くといつもの可愛らしい顔でアタシに甘えてくる。(正直言えばカワイイけどさ)
スラムの花街出身であるアタシがダリアみたいな可愛い子の想いを知るところじゃないけれど、ちっちゃい頃ですら見た事のなかったあの顔を見る度にアタシもかなり胸が痛い。
婚約した時、シードに馬鹿と伝えてもらったと思うけど、(聞いてなかったらシードとお前諸共コロス)やっぱり考え直してこう呼ばせてもらうわ。
将来の事しか考えず今の女の気持ちを知ろうとしないクズ野郎。
お前がダリアにろくなフォローしないからダリアは心が病みそうだし魔力の暴走も収まらねぇ。いい加減素直にダリアに愛してるの言葉くらいかけろ。
ガーベラ
///
ガーベラが綴った手紙はロイクへ贈り物を届ける際に荷物へ紛れ込ませる形で送った。
その数日後ロイクからダリアへ水晶が届けられ、夕方になるとダリアのいる部屋から笑い声が時々聞こえるようになったのはここだけの話だ。
冬が来て、誕生日の無い人間はたま一つ歳をとろうとしており、年末行事の為に毎年商会とやり取りを交わすマーガレットは腰を痛め、代わりに他の使用人達が孤児院と商会を行ったり来たりしては準備を進めていた。
「……ただいま」
王都に行くため数日家を空けていたゲリーと共に何年も顔を合わせなかったロイクが孤児院へ帰ってきた。
ロイクの身長はゲリーとほぼ同じくらいになっており、容姿も相まって父親であるゲリーとよく似てきていた。
「よっ!久しぶりだなロイク!冬季休暇か?やっぱり学院の坊っちゃまは」
「退学してきた」
「……は?」
成長期で低くなった幼馴染の声を初めて聞いた言葉はとんでもない言葉で、隣にいたゲリーは被っていたハットを被り直してため息を着いた。
「何度も言わせるな。辞めてきたんだ。学院を」
「はぁああああああああ!???!!」
ゲリー曰く、ロイクがトラブルに巻き込まれてしまい退学処分されたそうだ。
なんでも元々純血で魔力が少なかった彼は貴族達の中では優秀だと称えられても学院内では、勉強だけ出来る魔法の使えない落ちこぼれ扱いだったらしい。
確かに彼、カレンデュラ家の血を引く人間は己の魔法を意地でも明そうとしない。そういう決まりなのか、それとも本当に魔法が使えないのか分からないが、肉体強化が出来るのに魔法を使えないなんて有り得るはずも無く、ロイクは学院内でも自身の魔法を明かす事はしなかったらしい。
実際ロイクは医者になりたいわけではないので、自身のキャリアなんてどうでもよかったのだろう。
その後ゲリーはロイクに跡継ぎとして、ガーベラの代わりにカレンデュラ領内を連れ回すことになるが、ダリアはそれらに対して複雑な感情を抱きながらも体調はすこぶる良くなっていった。
――――――
ダリアは永遠のロリ
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