異変
「なんであんたはいつもいつも――!」「オ嬢さァん」
ぞわ。
首筋に冷たいものが走った。
だらりと触れた、何か。首に、何かが。
振り向こうとして、気が付いた。
周りがとっても暗い。急に重たい雲が重なったみたいに薄暗くなった。
それに、私の後ろに誰かいる。
「ね、ェ。私、キレイ?」
ふざけて遊んでいるときしか聞かない言葉。
ゾッとする、人間と動物のまんなかみたいな声。
音?
はあっと生ぬるい風が吹き抜けた。それが私の後ろに立っている何かからの息だとすぐにわかった。
怖い、を通り越して、わからない。
「た、太郎?」
「矢崎さん?」
よかった。太郎には声が届く。私の声は震えていないかな。
「ねぇ、声、聞こえる?」
「え? な——」
太郎の声がぶつりと途切れた。テレビ番組を途中で切り替えたような、奇妙な音の断絶。
今すぐこのドアを開けて太郎にすがりつきたかった。
でも、できない。
だって、ドアには鍵が掛かっているんだもん。いくら引っ張っても開かない。
それに、太郎の声も聞こえなくなった。ガラスの向こうにはさっきまで見えていた頭が見えなくなっていた。からかってるの?
「太郎! ねえ、ちょっと!」
ドアを叩いても、反応はない。
「私ィ、き、れぇい?」
後ろにいる何かは、構わず私の背中に問い続けている。
どうすれば、この状況から抜け出せるの?
わからない。
わからないよ……!
後ろにある気配が段々濃く、強く感じる。
何かもわからない、大きくて重たいものが、私に向かって話しかけてくる。怖い。怖いよ。
「お嬢、さぁぁん」
首に何かが下りてくる。あ、髪の毛だ。
泣きたくなった。
何で急に、こんなことになるの?
それか、大人の、先生がふざけてるの? でも、なんで?
わからない。怖い。わからない。助けて。ママ、パパ。
冷たいママの顔が出てきて、もうだめだ。
パパのどうでもよさそうな笑顔。
暗い、私に興味の無い太郎の顔。
どこか変な、ミカ、アヤ。
あれ? 誰も味方がいない。
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