第11話 手がかりを辿って


 空を旋回する魔物は、次々と放たれる光の矢で倒されていく。それを目の当たりにした残りの魔物達は、堪らず山に帰って行く。


「シスター達! 負傷者の手当を! 傷が深ければ私を呼んで!」


 彼女は手慣れた様子で指揮を取る。その場で一通り指示を出し終えると、薄桃色の短い髪を揺らしながらこちらに振り返った。


「私はフィリア、さ! 立ち上がる元気はまだ残ってる?」


 上陸したと思えば警告音が鳴り響き、魔物が飛んできては、強い衝突と舞い上がる砂埃。そんな突発的な出来事が続き、三人は未だ動けずにいた……ただ、ソラの驚きは別の部分にあった。


「マ、マザーと同じ魔法!?」


 思わずソラは彼女の元へ駆け寄る。先程までの勇ましい立ち振る舞いとは一変し、フィリアは優しさに満ちた表情で迎えてくれた。


「怪我はない? 私は加護は受けているけど、所属は護衛団だから、マザーじゃないわよ?」


「違うんだ! ぼく、マザーにフロディアを探せって言われて、それで船できて、えっと」


 必死に何かを伝えようとするソラ。フィリアは少年の気持ちを汲み取り、顎に手を当てて何かを考えている様だった。


「んー……私の他にフロディア様を訪ねられて、更にはマザーと呼ばれる何て人は……」


 しばらく目を瞑りながら黙り込んだ後、急に目を見開くと驚いた声を上げる。


「あなた達!! もしかしてテレサ様をご存知なの!?」


 急に迫り来る質問の嵐。


「どこから来たの? あなた達の関係は? テレサ様は今どこに?!」


 矢継ぎ早に質問をぶつけられたソラは余計に言葉が詰まってしまう。

 しかし、流石のフィリアも相手は少年という事実を取り戻し、一息つくと、込み上がる感情をぐっと抑える。


「ごめんごめん。今は他の人達の回復で手が離せなそうだから……後でシュレイロード様のお屋敷にきて! 私が知ってるテレサ様の事を教えてあげる!」


 そう告げると、ソラの返事も待たず、住人の手当てをしているシスター達の元へ走って行く。


「リーネ! タンジさん!」


 ソラは二人の方に振り返り、目を輝かせる。


 マザーが言っていた場所はここかも知れない。あの時、オジさんの言葉で差し込んだ希望が、いよいよ現実味を帯びてきた。


「ソラ、でかしたぞ! ご挨拶の事もあるし、そうと決まればもう向かっちまおう!」


 魔物を撃退し、街中のお祭り騒ぎは止まらない。負傷した住人も、何やら笑顔で楽しんでいる様子だ。そんな中を三人は、領主様のお屋敷を目指し歩いて行く。

 もうすぐリーネが元に戻れるかも知れない。その期待が胸を躍らせ、足どりを軽くさせる。更には街の雰囲気も相まって、歩いて行く三人はとても穏やかな表情をしている──




 ──サンティオーネの中心に位置する、一際背の高い建物。この街の領主、シュレイロードの屋敷の前に到着した三人。屋敷の中は一般に開放されているらしく、入り口を抜けた先には天井の高い礼拝堂があった。その一端で、住人やシスターと言葉を交わす、年を重ねた風貌をした修道士の姿が見える。

 タンジは修道士の方に目を向けると、あちらも気づいたのか会話を中断してこちらに向かってきた。


「これはこれはタンジ君。久しぶりですね、今回も荷を降ろしに来たんですか?」


「シュレイロード様、お久しぶりです。それもそうなんですが……今回は別件もありまして」


 領主であるシュレイロードとタンジは顔見知りの様だ。挨拶をよそに、後ろに隠れるソラとリーネを紹介し、テレサがフロディアを訪ねろ、と言っていた事を伝える。


「実は行方がわからなくなってしまって……それで、手がかりを頼りにこの街まで来てみたのです」


 テレサの名前を聞いてシュレイロードの表情が変わる。小さく息を吸い、一呼吸置くとそれを話し始めた。


「実は……テレサは幼い頃、この街で暮らしていたのです」


 突然の事実に驚く三人。と、そこへ誰かが話しに入ってくる。


「その話し、俺にも聞かせてください」


 振り返ると、弓を手に持つ、空色の髪をした青年がこちらに向かってくるのが見えた。


「はぁ、はぁ、待って、私も! 私にも聞かせてくださーい!!」


 その後ろからフィリアが走ってくる。街の方の手当てはもう終わった様だ。


「エルビスにフィリアも来ましたか。これは賑やかになってしまいましたね」


 タンジと子供達の後ろに並ぶ、後からやってきた二人。シュレイロードは彼らに目を向けると、二人の方へ歩いて行く。


「せっかくですし、まずは後ろの二人の紹介をしましょう」


 こちらのやる気に満ちた女性は、フィリア。そして、その隣の目つきが鋭い男性はエルビスです。二人とも、この街の護衛団の長を務める優秀な方達です。

 遠距離ではエルビスが、近距離ではフィリアがいる事で、ここ数年、魔物による被害はほとんど出ていません。もちろん、他の団員の方々や、シスター達の手当ての賜物でもありますけれどね。


 彼らは住民からの信頼も厚く、溢れ出すその才能を称え、人々はこう呼んでいます。


 貿易都市サンティオーネの守護者、親愛の魔法使いフィリアと、希望の魔法使いエルビスと。

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