第6話 決着
マグリットの咆哮で吹き飛ばされた子供達から苦痛の声を漏れる。撒き散らされた
「リーネ……ソラ……しっかりしろ……私がついているからな……」
視界がぼやける。それでもテレサは二人に手を乗せる。手元に集まる光が傷を癒やし、子供達の表情が良くなっていくのが分かる。ただ、その手からは血が滴っている。服は破れ、露出する肌は赤黒く滲む。
「マザー……血が……」
君達……私は大丈夫。助けにきてくれてありがとう。
生々しい傷を負いながらもテレサは優しく微笑んだ。
「そんな隙は与えないと言いましたよね? 嫌悪の魔法……!!」
ゲルニカが魔法を放ち、黒い霧が三人を包み始める。
「
回避を……いや、子供達を護るのが先だ……!
霧に包まれて周りが見えない。暗闇の中で、辛うじて手元だけが見える。霧が侵食し傷口が沸騰する様に痛む。子供達の傷を癒やしておいてよかった。
「マザー……」
瞳を滲ませ心配する眼差しで見つめる二人。暗闇の中、彼らを癒やしの光が包む。
「もう大丈夫だ。私はまた行ってくるから……良い子にして待っているんだぞ……」
焼ける身体をよそに、優しい笑顔を向ける。血を流し過ぎた。腕はもう上がらない。それでもテレサは二人を抱きしめる。
「もし私に何かあれば……フロディアを尋ねるんだ……いいね……?」
ソラが泣きじゃくりながら抱き返す。
ひっぐ、……そんなの嫌だ……マザー行かないで……
リーネは腫れた目を隠す様に顔を埋める。
うう……離れたくないよ……マザー……
よしよし。泣くな。今夜もまた、料理の腕を振るってやるからな……
テレサは力強く抱きしめると、二人のおでこにキスをした。
「君達……愛してるぞ……」
「「マザー! 行かないで!!」」
ソラとリーネの頬に涙が伝う。抱きしめていた手は離れ、愛しさに満ちた表情を最後に、テレサは暗闇に消えていった──
──くそ、
能力上昇が切れ、急激な疲労と激しい痛みがマグリットを襲う。何とかゲルニカの元まで移動したが、体が鉛の様に重い。
「哀れだな。さっきまでの威勢はどうした」
「うるせえ。最後は俺様がやる……お前はもう引っ込んでろ」
黒い霧からテレサが飛び出してくる。子供達はまだあの中だ。再び二人は対峙する。互いに満身創痍で、表情は苦痛に満ちている。次が最後になるだろう。一斉に走り出し互いの距離が縮まる。両者はこの一撃に全てをかけた。
「
「
強大な焔と真紅の鉤爪。眩い光を放つ両者の渾身の一撃が衝突する!!
直後、凄まじい衝突音が響き渡り空間が震える。地面を抉り、木々を吹き飛ばし、天を割るほどの衝撃が辺りを襲う。
物凄い風圧はソラとリーネを襲い、黒い霧を吹き飛ばす。だが、テレサの魔法で二人は無事だ。遅れて土煙が勝負の行方を包み込む。
くっ、凄まじい魔法の衝突……これ程の感情なら……きっとエリス様もお喜びに──
──しばらくの静寂が続き、煙が晴れる。一方は倒れ込み、もう一方は辛うじて重力に逆らっている。
「マザー!!」
リーネの呼びかけは届かない。僅かに保っていたテレサの意識は途切れ、地面に倒れ込む。
激しい咆哮から始まった両者の勝負は決した。
「はっはっはっ! 素晴らしい!! これこそ大陸の端まできた甲斐があったと言うものだ……!!」
静まり返る戦地にゲルニカの高らかな声が響き渡る。
「そして、予期せぬ土産も頂けそうだ……」
リーネに向けてかざされた手に黒い光が集まる。
嫌……ソラ……助けて……
「
リーネから光が弾き出されたと思うと、それは彼に吸い寄せられ、ゲルニカの手元に集まっていく。
何も感じない……身体から力が抜けていき、その場に倒れ込む。間一髪でソラが抱え込み、頭を地面に打ちつけることはなかった。だが、ソラが呼びかけても返事はない。
「さて、そろそろ引き上げようか。マグリット! そろそろ起きたらどうだ!」
ゲルニカが呼びかけても応答がない。
「ちっ、使えない奴だ。テレサの感情はここで抜き出せないと言うのに……」
ゲルニカがソラに歩み寄る。幼い心には抱え切れぬほどの出来事が重なり、ソラはただ震えるだけ。その場から動くことができなかった。
「君の感情は頂いても仕方がない様だ。ふっふっふ……もう二度と会うこともない」
もっとも、君は毎日の様に私を思い出すだろうがね……
そう言いながらゲルニカは歪む空間を歩いてゆく。同じ様に、マグリットとテレサも歪んだ空間に包まれ……次第に消えていった。
リーネを抱える様に座り込むソラ。恐怖の余韻は未だ身体を縛り、しばらく動くことは出来なかった──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます