第5話 滲む感情
「マザー! 今のうちに回復を……!」
振り向くとそこにはリーネが立っている。後ろにはソラの姿も見える。
「リーネ! やめろ! 今すぐ離れるんだ! ソラ! ここから……早く!!」
突然の助太刀に、動揺を隠せないテレサ。相手の二人は、子供達がどうこうできるレベルではない。
「ほぉ……あの歳で魔法を……なかなかに強い感情だな……マグリット!」
ゲルニカがマグリットに合図を送る。それを確認すると、再びマグリットが接近してくる。
「お前の相手は俺様だ! 一緒に戯れようぜ!!」
子供達が気になるというのに、この獣人はしつこ過ぎる……!! テレサは両手に光を纏いすぐさま応戦する。
「くそっ、慈愛の魔法!
飛び込んでくるマグリットに、焔を纏った拳でカウンターをくらわせる。体にめり込む拳は焔の熱で更に威力を増した。
ただ、マグリットはこれに構わず応戦する。くらったカウンターに耐え、何とか踏みとどまると、鉤爪で空間を横に削り取る。
テレサはそれをしゃがんで避けると、姿勢を低くしたまま相手の足に蹴りを見舞い、体勢を崩しにいく。
マグリットは片足を払われて一瞬、体勢を崩すが、尻尾で体を支え、倒れる勢いのまま上から鉤爪を振り下ろす……!!
「くそ、負傷した腕じゃ威力が足りない……」
堪らずテレサは距離を取り、その一瞬でゲルニカに目を向ける。
(おかしい。嫌悪の付与が来ない……まさか……!!)
さっきまでそこにいたゲルニカの姿が見えない。視線をすぐに子供達に移す。いた──
──リーネの瞳に映る景色が歪む。
「また会えて嬉しいよ」
ゲルニカが不適な笑みを奥に潜め、こちらに向かってくる。歪んだ仮面、顔の見えない女神の紋章、揺れるマント……その全てが気味の悪さを助長している。
感じたことのない悍ましい敵意にリーネの身体は硬直する。視界は滲み、水分が頬を伝う。
「……い、いや……」
今すぐに逃げ出せと心は警鐘を鳴らしている。それでも、身体は全てを拒絶する。声すら……いや、呼吸さえも止まる。
その恐怖はソラへも伝染している。木の影から動くことは出来ず、視界の中は全てが止まり、仮面の男だけが静かに歩み寄ってくる。
リーネを……助けないと……!! その想いとは裏腹に足はすくみ、手は木から離れようとしない。恐怖が身体中を支配する。飛び込む勇気も実力もない。それでも……何とか口だけを動かす。
「リーネ!!」
ソラの呼びかけで、リーネは止まっていた呼吸を取り戻す。魔法を……魔法を撃たないと……! 大好きなマザーを助けたい。その想いが再び体を突き動かす。
「楽しみの魔法!」
必死で両手を前に出し狙いを定めた。わたしなら大丈夫。魔法さえ当たれば……あんな奴!
涙で滲む視界で辛うじて敵を睨みつける。まだ身体は強張り、手が震えている。でも、この距離ならば……いける……!!
「…………な、なんで、何で魔法が出てくれないの……!?」
まだ幼い子供が感情を理解するのは難しい。ましてや、魔法が発現して日が浅い彼女では尚更だった。
魔法は感情に起因する。
彼女の魔法は、喜びに類する感情がもっとも強い影響を与えている。その感情さえ保てていれば、自由に魔法を繰り出すことが出来るだろう。しかし、放った魔法が素手で防がれ、尚も近づいてくる圧倒的な敵の前に、リーネの心からは恐怖の色が滲み出ていた……
ゲルニカはリーネに近づき何やら魔法を繰り出そうとしている。
「お嬢さん、さっきはプレゼントをありがとう。こちらもお礼にギフトを贈ろう……」
ゲルニカの手が怪しく光出す……!!
「いや……来ないで……」
頼みの魔法は絶たれ、リーネは一歩、また一歩と後退りする。恐怖で表情が歪み、涙が頬を伝う。
──テレサは選択を迫られた。敵に背を向け愛するものを救うのか、目の前の勝利を優先するのかを…………否、選択などする余地もない。テレサは全ての力を脚に込め、大地を蹴り出す。
「今すぐその汚い手を退けろ!!
瞬間、テレサ背後で赤い光が輝く。
「
隙を見せたテレサに強烈な咆哮が迫る。その射程の先にはリーネとソラ……
加護で防御壁を……いや、間に合わない!!
「……
焔を纏った両手で何とか咆哮を食い止める! だが、負傷している腕に……力が……!!
「うおおおおおおおおお!!!」
魔法の衝突に空間が震える。地面は割れ、踏ん張る先から崩れてく……!!
テレサの腕は限界を超えている。だが、もうこれ以上、大切な人を失うわけにはいかない。その想いが身体を突き動かす。
「おおおおおあああああ……!!」
纏った焔はテレサと共に弾け飛び、咆哮の余韻は地面の欠片を弾丸に変え、全員に襲い掛かる。
凄まじい風圧と石
「ち、これだから脳筋と行動するのは嫌だったんだ……!!」
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