第3話 vsマグリット


 ライオンの獣人、マグリットは目を釣り上げ怒りの表情を浮かべる。


「くそっ! たてがみを焦がしやがって!! ゲルニカ! 手を出すなよ!!」


「相手はあのテレサ・プロメッサだ。甘く見るなよ」


「分かってる! ああ、血管がブチ切れそうだぜ!!」


 鉤爪に赤い光を集めると勢い良く走り出す!


「怒りの魔法……!!」


 瞬時に半ばの距離まで詰めると、空高く飛び上がり腕を振り下ろす!!


俺様の八つ当たりライオネル・クロー!!」


 テレサは真横に体を投げ出すと、転がりながら受け身を取る。直後、凄まじい衝撃と共に、地面には十本の線が刻まれた。攻撃を間一髪でかわしたテレサは、すかさず体制を立て直し、手で作った銃口を向ける……!!


「慈愛の魔法! 愛の燈アドア・ルーチェ!!」


 その瞬間、導火線の様な小さな光が銃口から飛び出す。それは瞬く間にマグリットの元へ到達すると、火花が弾け、彼を遠くへと吹き飛ばした。


「だから甘く見るなと……」


 遠くでは激しい衝突音と共に砂埃が舞い、マグリットが声を荒らげている。


 テレサは涼しい顔をしながら、指先の残火で煙草を点ける。


「生憎、猫じゃらしは持ち合わせてないんだ。これで勘弁してくれ」


 煙草を吹かしながら再び銃口を向けると、バンッと撃つ真似をして相手を揶揄からかう。


「おおおおおお!! 絶対にぶちのめす!!」


 マグリットは沸点などうに超えている。それでも怒りは収まらず、雄叫びを上げながら更にヒートアップした。


「怒りの魔法!! 俺様の怒りライオネル・レイジ!!!」


 マグリットは身体中に赤い光を纏わせると、瞳孔は開き、筋肉は浮き上がり、身体中から汗が流れだした。そのまま体勢を低くし、しゃがみ込んだと思うと、地面が爆ぜるかの如く蹴り出し、加速しながら突っ込んでくる……!!


「吹き飛べや! おら!!!」


 その勢いのまま繰り出されるタックルは大地を揺らし、風を切り裂くと、一服しているテレサに衝突する!! 繰り出された一撃は二人の足元を陥没させ、半径数メートルの地形を変えた。再び土煙が舞い上がる。


「やったか!? あの状態のマグリットは、直撃さえすれば私でも無傷では済まない……」


 ゲルニカは仮面の下から期待の眼差しを向け、状況を見守る。だが、その眼差しもすぐに消えた。


「やれやれ、お前は直線しか脳がないのか。女神フロディア加護プロテクション。さっきのと同じだ」


 マグリットの一撃は再び魔法の壁に阻まれ、テレサの後ろの地面だけが地形を保っていた。煙草から出る煙は揺られることなく立ち昇る。


 ほら、もう少し頑張れよっ! テレサは姿勢を低くし相手の脇腹に拳を加える。次に回し蹴り、裏拳、再び拳と流れる様に打撃を叩き込む。


「ほら、お友達のところに帰んな!!」


 最後に溜めたてのひら鳩尾みぞおちに打ち込むと、マグリットは地面を跳ねる様に吹き飛び、ゲルニカが出した魔法の壁に衝突して止まった。


 手も足も出ないか……どうだマグリット、貴様に手を貸すのは不愉快だが、そろそろ共闘といこうか──



 ──家の方から物凄い轟音が繰り返される。


「マザー大丈夫かしら」


「はぁ、はぁ、分かんない。マザーがあれだけ魔法を使ってるのは見たことないもん」


 森を駆け抜けるリーネとソラ。家からは離れることができた。それでも、激しい戦闘の音が鳴り止まず、二人とも不安な表情を浮かべている。


「わ、わたし、マザーの様子を見てくるわ! 町まで行けば、助けも呼べるかもしれない……!」


「ダメだよ! リーネ! 待って!!」


 来た道を引き返すリーネと後を追うソラ。二人とも、大好きなマザーを守りたい、その一心で引き返す。それが、マザーの言葉とは違う行動だとしても、幼い二人にはそれどころではなかった。

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