第58話 対戦
「シュウ? 放課後、数学の問題集解くの教えてくれない?」
普段ならなにかの冗談かと思うアキの台詞。ただ昨日、ナッキーさんとの話から飛び出した彼女の勉強する発言は嘘ではなかったらしい。
「オレはかまわないけど、勉強ならユージの方がずっとできるぞ?」
「灰原くんとはノワモワきっかけで仲良くなったけど、2人で勉強するって感じじゃないのよね? シュウから灰原くん誘ってくれない?」
なるほど、本当はユージに勉強を教わりたいのだろうが、2人だけになるのは抵抗があるようだ。そう思うと誘われたオレは少し複雑な気分になるが、気持ちは十分理解できた。それに、オレもアキと2人で学校に残るのには少しだけ抵抗がある。
「わかった。数学ⅡもBも日程は後半だったはずだけど、他の教科は大丈夫なのか?」
「暗記系は1人でなんとかなるわけよ。だけど、数学は教えてくれる人いないと参考書読んでもマジでわけわかんなくてさぁ?」
この口ぶりだと、数学以外の教科含めて勉強する気があるようだ。いやはや、ナッキーさん本当にすごいな。そして、今日あたり地震でもこないか心配になってきた。
「シュウ、今『地震でもくるんじゃないか』って思ったでしょ? 表情でバレバレなんですけど?」
「ああ、別に隠すつもりもない。そう思ってたよ」
「あーあー、悪びれる感じもないのが腹立つなぁ」
オレたちが前後に並んだ席でつまらない言い合いをしていたら、ちょうどユージがやってきた。アキが一緒に数学の勉強をしたい、と伝えると快く引く受けてくれた。
「人に教えてるのって案外勉強になるんだ。自分の理解度の確認にもなるしね。この時期はバイトも少なくしてるから勉強の誘いは大歓迎だよ」
さすが優等生のユージ、オレには自分の理解度を確認している余裕なんてない。
「でも、シュウだって数学は得意な方じゃなかった?」
「得意科目ではある……、それでもユージの方がいい点取ってそうだけどな」
「そういえば、片桐さんて数学苦手みたいだけど、得意科目はあるの?」
「英語だけはなんにもしなくても平均以上は大体とってるけど……、あとは全部苦手でーす」
アキの返事を聞いたユージはひとつ頷いて、オレの方に視線を向けた。
「シュウはたしか英語苦手だったよね?」
「ああ、いくら勉強しても全然頭に入らん」
「だったら、シュウと片桐さんで数学と英語の合計得点で勝負してみたらおもしろいんじゃないかい?」
「「え?」」
オレとアキは同じタイミングで同じ言葉を発し、同じ反応をした。
「得意科目と苦手科目の合計で勝負するんだ。その方が片桐さんもやる気になると思うし、シュウだって今までの成績は片桐さんよりずっといいんだから、負けたくないプライドがあるだろう?」
たしかにアキと競って負けるとは思わないが、――とはいえ、万が一負けるとなにを言われるかわからないので、それなりに気合が入る。では、アキの方はどうかというと……。
「いいじゃない! シュウに勝ってゲームでもリアルでもクソザコ扱いしてあげるわよ!」
「待て、ノワモワのオレはもうクソザコじゃないぞ。それに、英語だけならともかく、数学との合計ならまずオレは負けない」
「はぁ? アキ様のポテンシャル舐めないでもらえますかぁ?」
「あはは、いい具合に闘志に火が着いたんじゃないか。みんなやる気の方が僕も教え甲斐があるよ」
こうしてオレたちは珍しくノワモワ以外の話題で盛り上がりながら、放課後、教室に残って勉強をした。
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