第57話 プロセス
『テスト勉強ってね? 与えられた目標を目指す練習だと思うのよ?』
ナッキーさんはいつもの落ち着いた声で話し始めた。オレもユージも、いつも騒がしいアキもナッキーさんの話にはしっかり耳を傾けている。
『ここからここまでテストに出します、ちゃんと勉強したらいい点とれますよって
教えてくれるわけでしょ? その勉強方法はみんなに任せますって』
まるで誰かを諭すように話すナッキーさん、親や教師以外でこうした話をしてくれる人は本当に貴重でありがたいと思った。
『勉強の中身よりもやり方。テストでいい点とるのが目標、そこに辿り着くにはどういったプロセスを踏めばいいかを考える。私はテストの意味ってそこにあると思うな?』
『うーん、ナツキ姉さんの話、私はわかるようなわからないようなって感じです』
『例えばね? アキちゃん、ノワモワでシュウくんと2人協力したらがんばるでしょ?』
『がんばるっていうか、シュウより下手なプレイはしたくないなって思います』
『それよ! アキちゃんは誰かにカッコ悪いとこ見られたくないなって思ったらがんばる子なのよ』
『ええと……、私ってそうなのかな?』
『人ってね、自分がどうやったらがんばれるか案外わかってないものなのよ? 勉強嫌いでもご褒美あったらがんばれる人とかいるじゃない?』
『ああ、たしかにそれはけっこういる気がします』
『自分がどうやったらがんばれて、結果を残せるようになるか? その方法を試行錯誤して見つけていくのがテスト勉強だと思うの』
『よく言うでしょ? 山の頂上を目指すけどそのルートは自由ってね? ルートはやり方で当然自由なんだけど、頂上に行くまでのモチベーションも必要。テストは、頂上はここだよって教えてくれてるんだからプロセスをどうやってつくっていくかが大事だと思うな?』
ナッキーさんの話だと、テスト勉強は範囲が決まっていて問題集や参考書もある。つまり、ある程度頂上へ向けたルートが準備されている。
だが、社会人になると頂上は設定されるけど、そのルートから自分で見つけないといけないらしい。
そのため、内容に関わらず自分の成功プロセスを見つけ出すこと、自分を焚きつける方法を見つけるのが非常に大事だと話してくれた。テストとその勉強は、学生のうちにそれを見つける練習になると。
『なんか説教臭いこと言ってごめんね? けど、大人になってからやっぱり勉強って大事だったのかなって思うこと多いのよ? 学生の時に目標に向かってがんばれない人は、きっと大人になっても変われないから……』
『……ナツキ姉さん、ありがとう。私、今回の学期末、ちょっとがんばってみようと思う』
オレは声には出さなかったが、衝撃を受けた。1年の頃からアキの勉強嫌いは知っている。そのアキに「テストをがんばる」なんて言わせるとは……。
ナッキーさんは、オレやユージには絶対できないことをやってのけたのだ。
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