第54話 ダウンロード数

 最高難易度の「天獄級」をクリアした数日後、ノワモワのアップデート情報の予告が公開された。どうやらノワモワの累計ダウンロード数が累計3,000万に到達したようで(数字的にリセマラ込みと思われる)その記念イベントとクリスマスの期間限定イベントを被せてくるようだ。


 オレたちの身内に関わらず、世間的にも非常に人気のあるゲームアプリのため、こうした情報が公開されるとSNSのトレンドに上がることもしばしばあった。

 だが、今回のアップデート情報の盛り上がりは過去に幾度か目にしてきたいずれよりも熱量が大きく見えた。そこには明確な理由がある。


「シュウ、アップデートの予告見た? 4人協力プレイに新たな難易度追加だってねぇ?」


 そう……、オレがようやく現状の最高難易度をクリアした数日後に、さらに上の難易度を追加する、といった情報が流れたのだ。


「残念だねー? せっかく天辺まで登り切ったと思ったら追加ですってよ?」


「新しく追加されるんだからアキも条件は同じだろ? みんなで遊べるマップが追加されるんだったらむしろ歓迎だよ?」



 例によって、学校の授業が終わり下校の準備をしながらアキとノワモワの話をしていた。今の段階で流れている情報は天獄級の上に「閻魔級」と「神域級」が追加されということ。マップの数は不明、同じか近いタイミングで実装されるであろう期間限定イベントとその追加キャラクターに関してもまだ不明だった。



「ダウンロード数の記念イベントはスフィアを結構配ってくれるけど、その分イベントの追加キャラも強いのがくるイメージなんだよね?」



 下校準備を済ませたユージがオレの席へとやってきた。アキとノワモワの話をしているのを聞きつけてすかさず会話に加わった。


 ユージとアキはすでに課金前提でどの程度の出費で抑えられるか、を話題の焦点にしていた。2人とも手持ちスフィアはほとんどない状態のようだ。

 そして、ホメ子さんを手に入れるためにガチャを引き続けたオレも例外ではない。無課金を貫くうえで、次のイベントはそれなりの障壁になりそうな予感がした。


「そういえばシュウってまだ無課金でやってるんだっけ?」


「ああ、課金してる2人を前にして言うのもなんだけど、このまま無課金を継続するつもりでいるよ」


「シュウ……、誰だって、僕だって最初はそう思っていたよ。ところが、ガチャの運は非情なんだ。容赦なく確率を絞ってくるからね?」


「絞ってくる……か。まるでゲームに意思があるみたいな言い方するな」


「あはは! けど、実際あるよね? このゲームの中に絶対誰か住んでるよねって思うこと?」


「うんうん、僕も推しキャラだけ全然出ないときは絶対中の人に操作されてると思ったよ?」


 アキとユージは笑いながら、ガチャゲーあるあるを語っていた。オレは2人の話に耳を傾けながら、スマホ画面に映るコンシェルジュ「クロエ」の姿に目をやる。


 ゲームに意思がある……か。仮にそんなものがあったら課金を一切しないオレは絶対に嫌われているだろうな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る