第53話 入り口

『やったね! 1回でクリアできたよ!』


『あーあ、これでシュウも完全にザコ卒業ねぇ?』


『いやいや、1回でクリアは大したもんだよ?』


 1つだけとはいえ、ノワモワの最高難易度のステージをクリアできた。知り合いだけでパーティを組んでの初クリアは喜びもひとしおだった。

 3人の協力、そしてホメ子さんの人権ぶっ壊れ性能に助けられてのクリアだった。


『天獄級は素材集めで周回するには効率悪いしねぇ? とりあえず1回クリアしたらそこまでやらないと思うのよ? それにシュウももうハウスの素材にはそんなに困ってない感じでしょ?』


 たしかにアキの言う通りだった。ハウス増築は、リアル時間の経過を伴うために、最大値に辿り着いていないだけであって、それに必要なアイテムとなる素材に関しては十分な量所持していた。



『シュウもいよいよやり込み勢の入り口に立った感じだね?』


 入り口? ユージの言っている意味がオレにはよくわからなかったが、アキもナッキーさんも特に疑問を投げかける気配はなかった。


「『入り口』ってどういう意味だ?」


『最高難易度をクリアして、ハウスの素材も十分に足りてくると、デイリーミッション以外は1人でやること無くなってくるだろう?』



 たしかに今のオレのゲームスタイルは、ログインボーナスとデイリーミッションを終えると夜に協力プレイで遊ぶとき以外はそれほどゲーム画面を開かないようになっている。


『1人でやることをやり尽くして、アップデートの日を今か今かと待ちわびるようになるとやり込み勢だと思うからね? シュウもついにそこまで来たんだよ?』


『ユージくんの言うことわかる気するな、私なんかアプデきたらその日のうちにできるところ全部終わらせちゃうもんね?』



 つまり先行組を追いかける段階は完全に終わったということか。今後追加される内容を都度都度やっていくだけでいいところまできたわけだ。

 ノワモワのユーザー意見交換用の掲示板で、毎日ちょっとでもいいから追加イベントがほしい、みたいな意見を目にしたことがある。今になってその意味がようやく理解できた。


 やり尽くした人はログインしてもやることがなくなるのだ。オレみたいに報酬目当てでもなく一緒に遊べる固定の仲間がいるのはおそらくかなり恵まれた環境なのだろう。



『12月は、クリスマスとか年末とかリアルイベントが多いからね。ノワモワもそれに合わせたイベントをどんどんやってくるよ』


『今のシュウはスフィアすっからかんですからねぇ? 次のガチャが待ち遠しいですねぇ?』


 まさかガチャが絡むゲームでここまでやり込むことになるとは思わなかった。今でもはじめた当初かそれ以上に楽しめている。アキとユージ、それからナッキーさんと、固定で協力して遊べる人がいるのはなにより大きい要因だろう。


 そしてもう1つ‥…、今でも画面に残しているオレと同名のコンシェルジュの存在だ。

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