第49話 残弾0

「こ……、こんなもんなのか?」


 かつて大苦戦した破戒級、それより1つ上の難易度で初挑戦だった地獄級。それを最初の1回であっさりとクリアしてしまった。苦労や苦戦をした感じはまったくなく、「敵が溶けていく」ようだった。


 これが、ぶっ壊れキャラクターの性能なのか……。たしかに、過去キャラクターの能力と比較して、ゲーム環境を破壊していると言えなくもないと思った。


『いやぁ、マジで超余裕じゃない? 敵がクソザコ過ぎて味気ない感じよねぇ』


『やっぱりこのホメ子さん、性能が桁外れだね。本当に人権キャラだよ』


『そうね、みんなしっかりゲットできててホッとしたわ。ホメ子ちゃん可愛いしお気に入りなのよね』


 ナッキーさんの話に反応してアキは、オレがホメ子さんを手に入れるまでの経緯いきさつを丁寧に、多少の脚色を交えながら説明し始めた。まったく人を笑いのタネにしやがって……。



『シュウくん、今回はなかなかぬまった感じだね? これは次のガチャが怖いわよ?』


 ナッキーさんの言葉を聞いてオレはその意味を察した。なんだかんだで半年近くノワモワを続けているからこそ、次の期間限定イベントとそのガチャの傾向が予測できるのだ。


 ホメ子さん超強力な弓装備で火のエレメントを使う、すなわち「突」の「火属性」なのだ。――となると、次のイベントは、確実にこの両方に強烈な耐性をもった敵が実装される。そして、その敵の弱点をつけるキャラクターがガチャで実装されるのだ。


 これまではスフィアを貯め込んでいたため、新しいガチャ……、強めのキャラクターの実装もいつでも来い、という感じだった。

 だが、今回オレは手持ちのスフィアを使い切ったことによって、次のイベントに対する「備え」がないのだ。まるで、ゾンビを倒して進むホラーゲームで銃の残弾が0になったような気分だ。



『シュウ、そこから先が僕の領域だよ?』


 重課金の戦士ユージが諭すように話しかけてくる。


『シュウもじゃぶじゃぶ課金しちゃいなよ? どうせ大したお金の使い道ないんでしょう?』


 アキは、根本的にオレのお金の使い方をディスってくる。


『ゲームの課金を別に止めはしないけど、無理はしちゃダメよ? 無理のない課金を忘れないようにね?』


 ユージもこの件に関してはどっぷり課金沼に浸かっている人間なので、ナッキーさんの言葉だけが救いに聞こえた。

 理のないか……。いやいや、流されていはいけない。オレは純粋な0円の無課金を貫くと決めたんだ。


 新キャラクターのホメ子さんを手に入れ、その性能を確かめたばかりだというのに、頭はすでに次のガチャの対策に向かって考え始めていた。これが「ガチャゲー」の本質なのだろうか?

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