第41話 招待
文化祭当日、アキのスマホにナッキーさんから連絡が入ったようだ。
「ナツキ姉さん、今学校の校門前に着いたって! 私ちょっと招待状渡してくるから!」
彼女は嬉々とした表情で教室を出て行った。オレの高校の文化祭は、在校生1人に3枚ずつ配られる招待状を持ってきた人のみ、学校関係者でなくても文化祭に参加できる仕組みだ。
セキュリティの都合なのか、この招待状は紙に印刷されたもので、予め学校のハンコが押してあるもののみ有効なのだ。つまり、予めハンコをもらったものを入場する本人に直接手渡しする必要がある。
夏休みに偶然出会って以降、ナッキーさんとは通話でよく話をしているが、実は一度も会っていない。そのため、アキは文化祭当日に校門前で招待状を渡す約束をしていたようだ。
オレたちのクラスの舞台が始まるまではまだかなりの時間がある。きっと適当に他の学年やクラスの催しを見ながら時間をつぶすつもりなのだろう。
「シュウ、まだ何時間も先なのに僕、緊張してきたよ……。やっぱりたくさん人入るのかな?」
ユージの言う通りでオレたちの出番はまだずっとずっと先なわけだが、彼は誰が見てもわかるくらいにわかりやすい緊張状態にあった。人前に出るのは慣れていないのだろう……、もっともそれはオレも一緒なのだが。
不思議と、明らかに自分より緊張している人間がいるとこちらの緊張はほぐれるものだ。ユージには悪いが、彼の存在ゆえにオレはそれほど緊張していなかった。
――とはいえ、出番が近付いてくるとどうなるかわからないが……。
「ナツキ姉さんに招待状渡してきたよ、ついでに舞台の場所も案内してきた!」
アキが元気よく教室へと戻ってきた。そして、オレとユージの顔を交互に見てからこちらに近付いてきた。
「ちょっとぉ灰原くん、すでにガッチガチなんですけどぉ? 大丈夫なのお?」
彼女はユージの背中を音が出るほどバシバシと叩いている。
「シュウは意外と緊張してない系ですかぁ?」
「ユージがこんなだからな……、妙に冷静になれてる。けど、出番近付くとどうなるかわからん」
アキは、いつものようににやりと笑った後、今度はオレの背中も一発だけ叩いてきた。
「2人とも練習しっかりやったんだからさぁ、自信もちなよ? ここまで来たら楽しまないと損だよ?」
彼女はそれだけ言って、実行委員が集まっている席のところへと歩いて行った。たしかにアキの言う通りでここまで来て逃げるわけにもいかない。ナッキーさんも来ているんだ。練習もやれるだけやったし、あとは楽しんだ者勝ちなんだろうな。
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