第37話 女装

 体育祭で熱し切ったクラスの空気はそのまま文化祭の準備へとスライドしていった。先に中間テストが待ち構えているにも関わらず……だ。

 アキはここでも実行委員に立候補し、体育祭の応援団を務めたメンバーとほぼ同じ構成がクラスの文化祭実行委員となった。


 アキの進行の元、クラスの出し物は数年前に大流行した恋愛系のアニメ映画を、コメディ寄りに変えて劇で催すのに決まった。どうやって笑いをとっていくかクラスで話し合われ、役柄の性別をすべて入れ替えることに決まった。

 台詞、設定をそのままに女性のキャラクターをすべて男子生徒が、男性キャラクターをすべて女子生徒が演じるのだ。



「シュウさぁ、ちょっと目立つ役やってみない?」



 配役の相談中、アキにそう話しかけられた。音響か照明の2択で考えていたオレにこれは不意打ちだ。


「女子で話合ったんだけどさ、シュウって多分うちのクラスで一番女装映えると思うんだよね?」


 彼女曰く、コメディよりに演出するにしても原作の感動的なシーンはしっかりそのまま活かしたい、という意向があるそうだ。そのためには、笑いに振り切っていない配役も必要だとかなんとか……。


「シュウってきっちりお化粧したらかなりイイ線いくと思うんだよねぇ? また『忍者』みたいに気配消すのはやめてくれませんかねぇ?」


 正直、役柄の性別入れ替えの案が出た時点で嫌な予感はしていた。小学校の頃に姉に散々お化粧で遊ばれた経験があったからだ。姉曰く、シュウの顔は女子も羨む美人顔、らしい……。


 オレはどうやって断るかを思案していた。ただ、同時に体育祭の記憶とナッキーさんの言葉がまたしても脳裏に過った。


「『今しかできないことを疎かにしないようにね?』……か」


「うん……? 今なんか言った?」


 アキはふざけた感じで話しかけているが、実は大真面目なんだろう。真剣に、どうやったら文化祭の出し物がいいものになるか考えた上で、今の話を持ち掛けているんだ。そう思うと簡単に無下にはできない。


「……主役とかは無理だけど、出番がそれほど多くなければ引き受けてもいい」


 アキが一瞬虚を突かれた顔をしたのをオレは見逃さなかった。きっと、秒速で断ってくると予想していたんだろう。いつものオレなら絶対そうするからだ。

 ほんのわずかな時間、目を見開いていたアキはすぐに、にやりと笑って悪巧みするような表情に変わった。


「今のちゃんと聞いたからねぇ? もう前言撤回とか受け付けませんからぁ? シュウにぴったりの役つくったげるね」


 彼女はそう言って満足気な顔をしてオレの前を去っていった。


「シュウ、舞台に立つ気なんだね! すごいじゃないか!?」


 近くにいたユージがそう言ってきたので、オレはすかさず彼の両肩に手を置いた。


「すまん、ユージ。付き合ってくれ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る