第35話 弱体化
10月に入ってすぐ体育祭が開催された。個人的見解で言わせてもらうなら、体育祭と文化祭は陽キャラたちの祭典であり、陰キャラにとっては非常に居心地の悪いイベントだ。
ただ、文化祭は役回りの中に「裏方」があり、陰キャラのポジションが準備されている気がする。陰キャラ代表みたいなオレにとっては「救い」と思えた。
一方の体育祭は、最低でも1競技以上はなにかしらの競技に出場しなければならない。オレみたいに目立つところに出たくなく、運動神経もよくない人間にとっては地獄の祭典といえた。
ユージは、決して陽キャラとはいえないが、隠れマッチョで意外と運動ができる人間だ。体育祭ではそれなりに活躍できる。アキは、オレたちとノワモワをやっているとき以外は完全に陽キャラだ。むしろ、クラスの陽キャラ集団の筆頭ともいえる位置付けにいる。
すなわち……、なにが言いたいかというと、オレは体育祭が嫌いだ。極力目立たないよう「忍」のように振るまって1秒でも早く終わることを願うつもりでいた。
数日前にあった体育祭の出場種目の割り振りで、オレは騎馬戦と棒倒しに立候補した。どちらも集団に紛れることができる種目だからだ。多少体がぶつかり合う競技のため、力自慢の生徒も立候補していたが、参加人数が多いため、オレと同じような目的の人もいるようだった。
騎馬戦は当然「足」役をやる。幸い、上に乗る生徒が体重の軽い人だったので、それほど苦労はしなかった。棒倒しは棒にしがみついて守りに徹する。相手チームから無数の軽い膝蹴りをくらったが、知らない間に自チームが相手の棒を倒して勝利をしていた。
オレの出場種目は午前中に集中していて、午後は出番がない。昼の段階でこう思った。オレの体育祭は終わった……と。
昼休憩はユージと2人で弁当を食べた。彼は普段は表に出さない筋力をフルに発揮して、綱引きと棒引きで活躍していた。一応、体力はそれなりに使っていたのか、弁当をあっという間に食べ終わると残りの時間は適当に雑談を交わしながら過ごしていた。すると、そこにアキがひょっこりと顔を出した。
「お疲れーっ! いやぁ、灰原くんってパワー半端ないじゃん! クラスのみんなびっくりしてたわよ?」
ユージは照れくさそうにしながら謙遜している。彼は普段あまり目立つタイプじゃないからギャップの意味でも余計にびっくりさせたのだろう。
「それに比べてシュウはマジで空気なんですけどぉ? 忍者にでもなったつもりですかぁ?」
「ああ、そうだ。今日のオレの目標は『忍び』だ。よくわかったな?」
アキは「ふん」と大きく鼻で息をしてから、腰に両手を当ててオレを見下すような目をした。煽ってくるときの彼女の顔だ。
「まぁシュウがそんでいいならさ、別に文句はないけどぉ。ナツキ姉さんも言ってたじゃん? 今しかできなことを疎かにすんなってさ?」
アキはそれだけ言うとオレたちの前から去っていった。いつもと比べると煽り攻撃は弱体化されているようだった。
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