第34話 消去

『クロエ1822号、プレイヤーへの課金誘導がうまくいっていないようですね?』


 正面のモニターには、ウィリアムの顔。モニターと彼の眼鏡越しに見つめられているクロエ ST-401-1822号は俯いて視線を合わせないようにしていた。「モニター越し」で合うはずもないのだが……。


『データを見る限りですと、あなたが担当するプレイヤーと一定のコミュニティを築いているプレイヤー3人はそれなりに課金をしてくれているようです』


「……はぃ、存じています」


『課金プレイヤーの輪の中にいる者は、その誘導も比較的容易と言われています。ですが、ずいぶんと苦戦しているようですね?』


「はい……、申し訳ございません。手は尽くしているつもりなのですが、うまくいっていないのが現状です」


 モニター内のウィリアムは軽いため息を付いた後、さらに続けた。


『このまま、無課金でも十分遊べる、と認識されてしまうとまず課金は見込めません。また、残念ながらプレイヤーを拡散していく気配も無さそうです』


 クロエ1822号は「はい、はい……」と返事をしながら心の中では、「わかりきったことをくどくどうるさい」と吠えていた。


『水着キャラクターのガチャ期間が終わり次第、次の期間限定イベントと新キャラクターのガチャが実装されます。そのときにまずは課金まで無理でも、保持しているスフィアをしっかり消費させてください。前回のような1,000個程度は全然ダメですよ?』


 クロエ1822号はその後もウィリアムからの小言を聞かされていた。内容はほぼ頭に入っておらず、彼女はそれをただの「不快な物音」の思いながら耳に入れていた。


 クロエシリーズは、人の心理を理解するために他シリーズと比べてより「人間的」につくられている。ゆえに、こうした指導・叱責を受ければ「人並み」に凹んだりもするのだ。



「あーもう……、ウィリアムの顔を見るのもイヤんなってきた」


「1822号、声が漏れてますよ? けっこう絞られた感じですね?」


 近くの席にいたクロエ1730号が話しかけてくる。1822号のメンタルがやられているのを察してかいつも以上に明るい笑顔を見せて話しかけていた。


 今は彼女たちの担当するプレイヤーはどちらもゲームを起動していない。1822号は1730号に愚痴をこぼすことで沈んでいた気持ちを幾分か修正した。


 彼女たちのようなシステム世界の住人に人間と同じ生存の欲求があるのかはわからない。ただ、クロエ1822号は薄々感づいていた。

 あまりに結果が振るわない期間が続くと、担当変更や他シリーズの転属レベルではなく、この世界の住人から「消去」されるということを……。

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