第29話 ピンチ

 クロエ1822号は自身が担当するプレイヤーのスフィア所持数を見つめていた。ここ数日の間に、これまであまりプレイしていなかった4人協力の低難易度ステージをほぼすべてクリアしている。さらにストーリーモードも、現状の終着地点まで辿り着いていた。

 その結果、4,000個を超えるスフィアを所持している。一度はアップデート後の新キャラクターのガチャで1,000個ほど消費したが、そこからぱったりとガチャを回さなくなっていた。


「1822号、なんだかむずかしい顔してますね?」


 1730号が横から声をかける。この2人の担当プレイヤーはよく一緒にプレイをしているが、1730号の担当は少額だが定期的に課金をしている。そして、最近は他にもう2人のプレイヤーと、合わせて4人で頻繁に遊んでいるデータが上がっていた。


 しかし、この4人の中で唯一1822号の担当するプレイヤーだけが無課金を貫いているのだ。


「私だけ課金へ導けていないのよ……。まーた、ウィリアムの小言もらいそうで気が重いのよ」


「仕方ないですよ? 直近でよくパーティ組んでる人たちの中でも1822号のプレイヤーさんは明らかにゲームの期間が短いじゃないですか? これからですよ! これから!」


 1730号は両手で拳を握って元気付けようとしていた。たしかに、1822号が見ているプレイヤーはまだゲームを始めてからそれほど期間が経っていない。そこは自身を納得させる上でも言い訳材料になる。


 ただ、ゲームの進行度や、経過日数に対しての密度を考えると、かなりのめり込んでいるプレイヤーとも言えた。――にも関わらず、課金額は0。

 これは彼女の経験のなかで今後ゲームを継続はしてくれるが、課金はしてくれない「無課金勢」のデータに当てはまっていた。



 無課金のプレイヤーとはいえ、もちろん無価値ではない。課金額以外にもフレンド登録数や紹介コードなどから、ユーザーの輪を広げていく可能性のある者に対しては、ゲームを続けやすいようにガチャの排出を調整するのが彼女たち「クロエシリーズ」の仕事でもある。


 ただ、そういった観点で見ても1822号の現状はあまり良い状況とはいえなかった。あまり実績が伴わない期間が続くと、担当を外れたり、場合によっては別シリーズへの変更もあるという。


「私、この前担当した人もアンインストールさせちゃったのよね? そろそろ目に見える実績残さないと危ない気がしてきたわ……」


「だっ…大丈夫ですよ! ゲームを消しちゃうのは別に私たちだけの責任ではありませんから!」


 1730号のフォローを聞きながらも1822号は考えていた。これまでのプレイスタイルからどうにか課金へ導く方法はないものかと……。

 今のところ、スフィアをかなり蓄積する傾向にあるのと、周囲の環境にあまり流されないことはわかっている。まったく無意味に貯めているわけではなく、使う時はそれなりにスフィアを放出してくれるようだが、一定のラインでブレーキがかかるようだ。


 他になにかこのプレイヤーに特徴があるだろうかと1822号はなおも考え続ける。しかし、これといってガチャを回すのに繋がりそうな要素は思いつかない。ただ、彼女はある一点だけ気にしているところがあった。


『このプレイヤー、妙に画面を放置してることが多いのよね……』

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