第27話 ナッキーさん

「今……、『ナッキー』って言わなかった?」


 そういった女性はオレたちの席の近くへやってきた。落ち着いた雰囲気のある人で、胸の辺りまで伸ばした黒のストレートヘアをしている。薄手のブラウスとカーキ色っぽいスカートをはいていた。


 その女性は、テーブルに置かれたオレのスマホ画面を見つめている。さっきクリアしたノワモワの4人協力プレイ破戒級のクリアリザルトがそのまま映っていた。


「やっぱり……、あなたたちさっき破戒級やってた『クロエさん』、『ユージさん』、『アキさん』よね?」


 そう言って彼女は、ドリンクバーのコップを一旦オレたちのテーブルに置いた後にスマホを取り出して、同じくテーブルの上に置いた。そこにはフレイヤの画像とプレイヤー名に「ナッキー」と表示されていた。


「あはは、こんな偶然ってあるんだね?」


 彼女はこちらに爽やかな笑顔を向けた。オレたちは一瞬無言になって互いの顔を見合った後、同時に彼女の顔へ視線をやった。



「「「ナッキーさんですか!?」」」



 3人示し合わせたように同じセリフを同じタイミングで言った。


「はーい、『ナッキー』でーす」



 世の中、不思議なことがあるもんだ。当たり前の話だが、ノワモワのオートマッチングに物理的距離は関係ない。本当にたまたま、ついさっきランダムで組んだ人が同じファミレスで食事をとっていた人だったのだ。


 どう見ても年上の彼女だが、高校生のオレたちにとても丁寧に自己紹介をしてくれた。名前は鈴村すずむら 夏樹なつきさん、年齢は24歳で大手キャリアの携帯電話ショップで働いているそうだ。今日は仕事がお休みのようで、買い物の帰りにファミレスへよって昼食をとっていたところらしい。


「へぇー、3人は同じ高校の同級生なんだ? さっきのパーティは私だけが野良だったわけね?」


 オートマッチングで組む人を相称して「野良」と呼ぶそうだ。



 「ナッキーさん」こと鈴村夏樹さんはとても気さくで話しやすい方だった。アキはやや興奮気味にさっきの破戒級のナッキーさんのプレイを褒めちぎっていた。ユージはあまり年上の女性に慣れていないのか、ただ頷いてばかりであまり会話に参加してこない。


「ねぇねぇ、3人はよく一緒にノワモワやってるの?」


 3人組んでプレイしたのは今日が初めてなのだが、なんとなく話の成り行きでオレたちは、そうだ、と答えていた。


「もしよかったら4人でグループつくらない? 4人協力を固定でいけたら超楽しいんだよ?」


 オレたちが返事をする前からナッキーさんはノリノリで、スマホのチャットアプリを開いてグループを作成し出した。グループ名は「ノワール・グリモワール」。


「ゲームを一緒にする知り合いいなくってさ、まさかこんな出会いがあるなんておもしろいよね?」


 半ば彼女の勢いに押されるようにしてオレたちはグループに登録をした。こうして4人協力プレイを固定で組めるノワール・グリモワールのグループが誕生したのである。


 まさか初対面の社会人のお姉さんが混ざるとは思わなかった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る