第26話 リトライ
「シュウ、もうフレイヤ狙ってガチャ引いちゃったらいいんじゃない?」
今日何度目かわからないアキの煽りを聞きながら、オレは「リトライ」の表示が出ているスマホ画面を見つめていた。
4人協力プレイの破戒級が壁として立ち塞がる。ユージの話だと、過去のイベントでも地獄級と天獄級は異次元の難易度になっていたらしい。だが、破戒級はある程度のキャラクターとパーティメンバーに恵まれれば、ステータスに多少の遅れはあってもクリアできない難易度ではないと……。
「うーん……、最初のマップはほぼノーミスで突破できるようになったけど、ボス戦がやっぱり難しいね?」
フレイヤとライディースには共通して欠点があった。防御面があまり強くないのだ。「やられる前にやれ」を具現化したような攻撃特化のキャラクター。オレのライディースは今回適性の面から戦力的に見劣りしている。それなら仲間に防御効果を付与できるキャラクターで挑んだら……という話になるのだが、オレの手持ちにそういうキャラはいなかった。
ゲームを始めてから期間が浅いため、オレは所有しているキャラクターが少ないのだ。一定の期間を過ぎるとガチャ排出キャラクターが入れ替わるノワモワでこれはどうしようもないことだ。
だからといって、ユージやアキが防御寄りのキャラクターに変えてしまうと攻撃面が頼りなくなってしまう。試しにユージが別キャラに変えてみたところ、オートマッチングの1人が入っては抜けてを繰り返すようになった。戦力的に厳しいと判断されているのだろう。
結局、オレのライディース、ユージとアキはフレイヤのままでボス戦での立ち回りを見直す方向で幾回目の再挑戦をする。
序盤の動きはほぼ固まっていた。早い段階でユージのフレイヤと合流、協力して敵を一点に集めて高火力の特技で殲滅する。問題は次のマップのボス戦だ。今回もオートマッチングはフレイヤが参戦していた。
ボス戦で、オレは無理に攻撃技を使わず、通常攻撃でSPを回復しながら仲間の回復に徹した。敵の本体を攻撃できるときでもひたすらに通常攻撃を使い、とにかくSPの維持に努めた。
今日何度かの挑戦でこの戦法が一番惜しいところまでいっていたからだ。
アキとユージともう1人のフレイヤが着実にダメージを与えていく。アキは時間湧きするザコ敵の画面左と下を担当し、ユージは右と上の殲滅を担当、繰り返しやっていくうちに自然と役割分担ができていた。
そして今回の戦闘は、オレたちの動き以上に目を見張るのがオートマッチングのフレイヤの動きだった。とにかく被弾率が低く、隙を見て攻撃をしてからきっちり回避するヒットアンドアウェイの動きが絶妙だった。
「ちょっと、このフレイヤの人、めちゃくちゃ上手いんですけど!」
アキも思わず声を上げるプレイスキルだ。プレイヤーの表示名には「ナッキー」とあった。どこの誰かも知らないナッキーさんは煽り中毒のアキすらが褒める上手さのようだ。
ナッキーさんのテクニックもあってボスの体力は残り25%を切った。ところが、ここから敵の攻撃の手数がさらに増える。ゴリ押しで乗り切るにはまだ厳しい局面だった。
オレはかつてないほどにスマホ画面に集中して、ライディースを操作した。それはおそらくユージとアキも一緒で、今回の戦いに関しては終始無言。徐々に敵の体力を削り、終わりが近付いているのを感じた。わずかながら心臓が高鳴っている。スマホをタッチする指先が少しだけ震えてきた。
「あっ!?」
フリックをして回避行動をしたつもりが、うまく反応しなかった。オレのライディースは続けて敵の攻撃をくらいまさかのここで戦闘不能になってしまった。まさかの勝利を目前にして致命的なミス。
フレイヤは攻撃技で敵の体力を吸収することで回復ができるキャラクターだ。ただ、回復を意識し過ぎると体力が減っているときでしか攻撃技を撃てなくなってしまう。そうなると格段に火力が下がってしまう。それを補うためにオレのライディースは回復に専念していたわけだ。
オートマッチングのフレイヤの動きはすごい。このチャンスを逃すとオレはこのステージをクリアできないような気がした。オレは画面に表示されているリトライのボタンを押した。スフィアを消費するが、他の仲間が残っている間であれば、体力全快で戦線に復帰できるのだ。
「シュウ、リトライしたのかい?」
「いいんじゃない? ナッキーさんみたいに上手い人とはなかなかマッチングしないだろうからさぁ?」
ライディースが復帰したことで回復が機能する。結果的にフレイヤ3体の火力が大幅に上がるのだ。
そうしてついにボスは倒れた。オレはわずかにスフィアを消費したが、ようやく破戒級をクリアすることができたのだ。
戦闘が終了すると約10秒でパーティは自動的に解散となる。アキとユージはともかくとして、この「ナッキー」とは二度と巡り合わないかもしれない。オレは心の中で彼(彼女かもしれないけど)に何度もお礼の言葉を送った。
スマホ画面のカウントが「0」を表示し、戦闘画面は消え、報酬のリザルト画面に移行した。
「いやいや、手に汗握ったね! 最後はシュウのリトライのおかげで勝てたよ」
「オレが一番足引っ張ってたからな……、あそこまでいって復活しなかったらさすがに申し訳ないよ?」
「まあ、それはそうよねぇ? ――にしても、さっき組んだ『ナッキーさん』超上手かったよねぇ。私、尊敬しちゃいそうだわ!」
アキが興奮気味に今までの会話よりやや大きめの声でそう言った。
そのとき、オレたちの席を横切ったOL風の女性が立ち止まってこちらを振り返った。
「今……、『ナッキー』って言わなかった?」
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