第22話 放置
「1822号……、予定通りこちらは『フレイヤ』を排出させましたよ?」
クロエ1730号と1822号は隣り合った席でモニターと向かい合っていた。1730号の声に1822号は無言で頷いて返す。プレイヤーのゲーム中にあまり話をしていると、ウィリアムシリーズからのお叱りがくるからだ。
「さて……、協力プレイをするフレンドが新キャラを引き当てたのよ? あなただって引きたいでしょう? スフィアもたっぷり貯め込んであるんだもの。絶対引くわよね?」
クロエ1822号モニター越しに自身が担当するプレイヤーに問い掛ける。ガチャゲーにおいて身近なフレンドの存在は大きい。ゲームを継続する理由になるし、知らない相手よりもずっと強い競争意識が働くからだ。
1822号と1730号は各々が担当するプレイヤーがフレンドで、頻繁に協力プレイをしていると知ってからある作戦を考えていた。
課金をしている1730号のプレイヤーがガチャを引くとSSランクを引かせる。一方、現状まだ無料の範囲内でプレイしている1822号の担当の方がガチャを引いた場合には排出を絞る。
そうすれば、競争意識から強いキャラクターを引き当てようとスフィアを消費してくれると考えたのだ。課金に誘導するにはまず蓄積しているスフィアを消費させなければならない。
1822号の担当プレイヤーは4,000個以上のスフィアを貯め込んでいる。理想を言うとこれをすべて吐き出してほしいところだが、1822号は今、そこまで望んではいなかった。
『まずは傾向を見たいわ……。この状況でガチャを回すのか? それともこれまでと変わらず貯め込んだままにするのか? それ次第で今後、課金への導線をどうするかが決められるわ』
1822号のプレイヤーはガチャを引く画面を開いた。彼女は心の中で小さくガッツポーズをする。しかし、そこからなかなかガチャに進まない。彼女はその瞬間を今か今かと待っているが、ガチャを引く画面でずっと静止している。
コンシェルジュで表示されている2頭身のクロエも放置の時間が長すぎて、居眠りの仕草に入ってしまうくらいだ。
『なんでここまで来て引かないのよ? 逆にここで引かないならそのスフィアはいつ使うのよ?』
ガチャの画面の状態での放置は続く。クロエ1730号もその様子に気付いたようで心配そうな表情を向けていた。
1822号は悪い予測を立てていた。自分の担当しているプレイヤーは、無計画にただただスフィアを貯めるタイプ、ではないかと……。このタイプの場合、過去のデータから課金への誘導は極めて厳しい。もし、そうなら彼女はプレイヤーの「ガチャ」という意味で、外れを引いたと言わざるを得ない。
しかし、そのとき……。
「1822号! モニターをっ! ガチャが回りますよ!」
先に気付いたのはなんと1730号だった。1822号は諦めの感情が先に出てモニターから目を離して俯いていのだ。
しかし、1730号の声でモニターに意識を向ける。
『10連ガチャっ!? 来たわね!!』
先ほどまで項垂れていた1822号の表情は一変して、期待の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます