第21話 神引き

 一冊一冊開かれて飛び出すキャラクターの姿にオレを含めた3人が息を呑んで見つめている。すでに所有しているキャラクターが登場した場合は、演出がカットされる。

 今で金色の本は5冊ほど開いたはずだが、フレイヤもライディースも登場していない。本が開くまでの時間のわずかな静寂と、その後の落胆のため息を何度も繰り返していた。


「ああん! 6つ目の金も被りだわ! あと1つしか残ってないじゃない!」


 残されたSランク以上確定はあと1つ。テーブルの中央に置いたアキのスマホ画面を3人で食い入るように見つめている。そして、金の表紙をした本の最後の一冊が開かれる。


 この瞬間、わずかに動きスローになったように見えた。画面にほんのわずかだが砂時計のマークが表示された。そして……。



「きったー!! フレイヤきたわよ! 神引きだわ!」



 アキは見事目当ての「フレイヤ」を引き当てた。席を立って両手を上げている。店員に注意されないといいけど……。


「片桐さん、もってるなぁ……。僕はそれなりに課金してやっと引き当てたのに……」


 ユージは、喜びと同時に若干の悔しさを滲ませているようだ。たしかに他人の幸運、は必ずしも素直に喜べるものではないかもしれない。自分が同じ挑戦をして運に恵まれていなかったら尚更そうなるだろう。


「いやー、日頃の行いってやつですかぁ? ――つっても、私も今手元にあるスフィアは課金した分だけどねぇ」


 アキの「日頃の行い」はよく知らんが、とにかく今回は運を引き寄せるのに成功したようだ。他人の指なんかを頼る必要はないのだ。


 ユージはアキの口にした「課金」の一言で、急に仲間意識が芽生えたようにガチャ運について語り始めた。課金と無課金の間には境界があるのかもしれない。アキに対して、金額の大小は別として課金して、ほしいキャラクターを引き当てたことに自分と同じものを見たのだろうか。


「ほらほら、シュウ。このビッグウェーブに乗らないでどうすんのよ?」


 すると彼女は急にオレに話を振ってきた。オレにも同じようにガチャを引けと言うのか……?


「まさか属性もエレメントも最悪のロゼッタで協力プレイしようってんじゃないでしょうねぇ? 私と灰原くんの介護プレイをお望みな感じですか?」


 アキはオレの正面に座り、まるでふんぞり返るような姿勢でこちらを見てきた。この女は人を煽らないと死んでしまうように設計されているのか……?


 他人の幸運を見ると、それに便乗したくなってしまう。ただ、オレの経験上、場の勢いに乗せられると大体良くない結果が待っている。

 だが、どうだろう……。そもそも、今回のガチャを引こうか迷っていたわけで、アキやユージの話を聞いて引く価値があるのはわかった。アキに煽られなくても、引こうかと思っていたところでもある。


 なによりオレは最初のガチャのロゼッタとその武器以降はまったくガチャを引いていない。4,000を超えるスフィアを所持しているのだ。ここで強いキャラクターを手に入れられれば儲けものだし、外したとしても痛手は少ない。


「わかった、オレも引いてみるよ。決してアキに言われて引くんじゃないけどな」


 オレもアキに倣ってテーブルの中央に自分のスマホを置き、キャラクターのガチャの画面を開く。コンシェルジュのクロエがにこやかな表情でガチャの案内コメントを吹き出しに乗せていた。

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