第17話 アプデ

 期末テストの期間はノワモワのプレイを自粛した。アプリを起動するとログインボーナスがもらえる。それとは別にデイリーミッション、という数分で終わる課題をクリアすると数個のスフィアがもらえた。これだけをこなすなら10分程度で終わる。


 オレは学校の休憩時間にそれらだけを済ませて、今だけは家にノワモワを持ち込まないようにしていた。ユージもどうやら似たような考えで、お互いにゲームへの欲求を抑えるために、ノワモワの話題をなるべく控えていた。


 ところがアキはテスト期間などまったく意に介さず、授業中は頻繁に居眠りをして、下校前にはノワモワの話題を振ってくる。ある意味でまったくブレない女だ。ただ、成績を見ると一番勉強をしないといけないのはアキのはずなのだが……。


「ほらほら、シュウ? せっかく順調に進んでたのにここで休んだらまた私との差が開いちゃうよぉ? またクソザコに戻りたい感じですかぁ?」


 例によって彼女は、6限の授業が終わると後ろに振り返って話しかけてくる。こちらが必死にゲームへの欲求を抑えているというのに煽り散らしてくるのだ。


 ひょっとしたらオレやユージのように、彼女のゲーム仲間の多くも一時的にノワモワを自粛しているのかもしれない。遊び相手がいない鬱憤をオレにぶつけてきているのだろうか? 


「オレがどうこう言うことじゃないかもしれないけど、アキも今くらいはノワモワやめて勉強したらどうだ?」


 思ったことを正直に言ったら、ものすごく面倒くさそうな表情をされた。


「シュウまで親みたいなこと言わないでくれる? 自分の面倒くらい自分でみれますっての」


 だったら、オレのノートを借りるなよ……、とも思ったがこれは口に出さなかった。

 なおもゲームの話題を振ってくるアキ。テスト前になって勉強もろくにしていないのにこれほど焦りがないのは、一周まわって逆に尊敬に値するかもしれないな……。


「テスト終わったら夏休みじゃーん? ちょうどその辺りでアプデ入ってガチャの追加もあるんよねぇ? 今から待ちきれないわー」


 オレは鞄に教科書やノートを仕舞いながら、アキのほぼ独り言に近い話に耳を貸している。テスト期間は意識をゲームから遠ざけるためにアップデートに関する情報も調べないようにしていたのだが、彼女の口から勝手にその情報は流れてきていた。


「夏休み入ってもノワモワの協力やろーね? 素材集めは私もしたいし、シュウなんてハウスはまだまだでしょ?」


「ああ、わかった。心置きなくゲームに集中できるよう補修にだけはならないようにしないとな?」


 「補修」の単語を聞いたアキはまるで臭いものを嗅いだかのような露骨な嫌な表情をして見せた。

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