第4章 課金誘導と無課金

第13話 タイプ

 プレイヤーのスフィア消費にはいくつかのパターンがある。目当てのキャラクターや武器が手に入るまでどんどん消費していくタイプ。1,000や2,000といった一定の数値までは貯め込んでいき、それをオーバーした分は遠慮なく使っていくタイプ。なにかの備えのように延々と貯め続けるタイプ。


 大きく分けるとこの3パターンに分類できた。


 最初のパターンの人は計画性がない人が多い。ただ、金銭的に余裕がある場合は重課金者になってくれることもある。クロエシリーズにとっては、ありがたいタイプのプレイヤーだ。


 2番目のパターンの人は、逆に計画性がある人が多い。それゆえにその「計画」の中にうまく課金を組み込むよう誘導できれば継続的な課金が期待できる。週や月に一度、決まった金額で課金をしてくれるプレイヤーはこのタイプが多かった。


 最後のパターンは、もっとも課金誘導がむずかしいタイプだ。そもそもスフィアを消費しないために、ガチャの排出を用いた誘導ができないのだ。



 クロエ1822号は、自分の担当するプレイヤーがどのタイプなのかを見定めようとしていた。


『初回のガチャでロゼッタを引き当ててからは武器ガチャすら引いていない……。たしかにキャラは現環境では最強クラス。でも、武器が初期のままでは性能を発揮しきれないわ』


 彼女の担当するプレイヤーはすでに1,000に近いスフィアを所持している。ストーリーは第3章まで終え、期間限定イベントもいくつかクリアし、今日は2人協力のステージもいくつかクリアしていた。


『ゲームを開始してまだ3日……、システムをまだ理解していない可能性もあるわね……。けど、もしガチャゲーに慣れているプレイヤーなら貯め込むタイプの可能性もあるわ。もし、そうならどっちのタイプの貯め込み型か、だけど……』


 クロエシリーズは、ガチャの排出キャラクターをコントロールすることによって課金誘導するのを使命としている。そもそもガチャに手を出していないプレイヤー相手には傾向を分析するくらいしかできなかった。



 休憩室の定位置と化しているソファに1822号は座って休んでいた。そこに1730号が姿を見せて声をかける。


「お疲れ様です、1822号! 私の担当と1822号の担当、協力プレイしてましたね!?」


 隣に腰掛けた1730号の姿を横目で追ってから、1822号は答えた。


「ええ、紹介コードからうまくゲームプレイまで進んでくれたみたいね。昨日のプレイ時間もそれなりのものだったから、継続も期待できそうかしら」


「あとはいかに課金へ引き込むかですよ!」


「1730号のプレイヤーがいい競争相手になってくれるといいんだけどね?」


「そうですね! 私のプレイヤーさんの水準と並ぶには無課金ではかなり厳しいですからね! 対抗心を燃やしてくれると一気に課金してくれるかもですね!」


 他プレイヤーとの対抗意識、これは課金をする大きなきっかけとなりえる。特に身近な人がレアキャラを引き当てて、自分が同じものを手に入れられないと、それを追いかけるプレイヤーは多いようだ。


「次のアップデートあたりでちょっと仕組んでみましょうか? どうかしら、1730号?」


「もちろんいいですよ! クロエシリーズの利益はこの世界みんなの利益ですからね! 協力は惜しみません!」


 1822号と1730号は、まるでそこに鏡があるようにお互い不敵な笑みを浮かべて向かい合っていた。

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