第12話 2人協力プレイ

『ちょっとシュウ! せっかくのロゼッタなのに火力クソザコなんですけどぉ!』



 夜23時、気温はそれほど高くなかったが声が外に響くと思って、オレは部屋の窓を閉め切ってエアコンをつけていた。

 ノワモワの標準機能にフレンドとの通話機能があるのだが、感度があまりよくないらしい。オレとアキはそれぞれ自分のパソコンで通話アプリを立ち上げて、そちらで会話をしながらゲームをしていた。


 アキはオレと同じくロゼッタを駆使して戦っている。しかし、ハウスのステータス補正の違いなのか、もっている武器の違いなのか、同一キャラクターでも明らかに火力の差があった。


 「協力プレイ」と聞いて、てっきり攻撃役と回復役と分担してプレイするのかと思っていたが、そうではなかった。

 ロゼッタは、必殺技で敵を撃破するとHPを奪い取る能力をもっており、多少のダメージを受けても敵を倒せば勝手に回復していくのだ。


 アキの話だと、ゲーム実装初期は多少の役割分担があったそうだが、リリースから半年くらいでそれはなくなったらしい。当時実装されたキャラクターが高火力と回復を両立できる、いわゆる「自己完結型」のキャラクターで、それがゲーム内で大流行りしたそうだ。


 それ以降、新たに実装されるキャラクターは火力は当然のこと、なにかしらの自己回復手段を有しており、それによって役割分担はせず、襲い来る敵を各個撃破して進めていくスタイルに変わっていったようだ。



 アキは操作はもちろんのこと、キャラクターの強さもオレとは比較にならず、本当に彼女のロゼッタの後をついて行くだけでステージクリアできる状態だった。

 彼女の口癖なのか「クソザコ」を連呼され、煽り散らされながらオレは彼女の後ろをつけていく名ばかりの「協力」プレイをしていた。


 ただ、協力プレイは初回クリア報酬のスフィアもさることながら、ハウスを拡張するための素材アイテムがストーリーのステージとは比較にならないほどドロップするのだ。それがアキのロゼッタへの寄生プレイ状態で手に入るのだからまんざら悪い気分でもなかった。


 彼女の「煽り」も一種のコミュニケーション手段だと思えばそこまで腹も立たない……? とオレは自分の心に言い聞かせながらゲームをした。


 この1時間でこれまでの人生のトータルを上回る回数の「クソザコ」をアキから言われたオレであったが、おかげで1人では到底クリアできそうにないステージもクリアまで導いてくれた。


『はぁー……、もう12時かぁ。ノワモワやってると明らかに時間加速するんだよねぇ?』


 アキの意見には同感だった。彼女と約束していた1時間はあっという間に過ぎ去った。正直、ゲームの戦闘ではなんの役にも立てていないのだがとても楽しい時間だった。そして、それはアキも同様のようだ。パソコン越しに聞こえてくる彼女の声は、なにか満たされたものを感じさせた。


「アキ、助かったよ。おかげでハウス拡張の素材がいっぱい手に入った」


『私もまあまあ楽しめたわ。シュウはSランクでいいからさ、ガチャで斧を引いときなよ?』


 武器か……。そういえば、最初の1回以降ガチャを1度も引いていないので、武器は初期のものだった。



 武器もキャラクター同様にBランクからSSランクまで存在する。


『ロゼッタならSランクで妥協しても、それなりに火力でるからさ。初期装備だとオートマやっても抜けられちゃいますよぉ?』


 「オートマ」……、オートマッチングの略でプレイヤー間の協力プレイを自動でマッチングさせてくれるシステムだ。ただ、自動で決まった相手のプレイヤーのステータスが弱かったりすると、ステージに進む前にパーティから抜けられてしまったりするらしい。


 Sランクで妥協するなら、たくさんのスフィアを消費しなくても武器はすぐ手に入る。それでも初期装備とは比較にならないほど火力アップが見込めるそうだ。


『シュウがよかったらまた付き合ってあげるよぉ? この時間はいっつもひとりでノワモワやってるからさ』


 オレは、その時間をもう少し勉強に充ててくれたらノートを貸さなくても済むんだけどな、と心の中で毒づきながら口には出さなかった。


 それから適当な雑談をして通話アプリを切った。24時までの予定だったが、時計を見ると1時が近付いていた。部屋の中が急に音を失って、とても静かに感じられる。オレは身体の体温が急速に下がっていくのを感じた。

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