第11話 ドハマり
「シュウ、顔色ヤバくない? 目の下真っ黒じゃん? ウケるんですけどぉ?」
遅刻寸前で教室に飛び込んだオレの顔を見てアキは笑っていた。オレの1つ前の席から後ろに振り返って話しかけてきている。
「ストーリー進めたら止まらなくなってな……。結局、3時くらいまでノワモワやってたよ」
オレは机に突っ伏した姿勢で、頭だけ軽く上げてそう答えた。
「ちょっ……、なにそれ!? いきなりめっちゃハマってんじゃん!?」
彼女はさらに続けてなにか言おうとしたが、担任の教師が教室に入ってきたので、前に向き直った。
今日の授業は終始眠くて眠くて仕方なかった。1限目が終わるとアキがミントの成分が入ったクリームを貸してくれたので、目の下に薄く塗った。スースーした刺激が目にやってきて眠れなくなる。テスト前とかに家で勉強するときは、母親のを借りてよくやっている方法だ。
一方、特に睡眠不足とか話していなかったアキは、オレの真ん前の席で授業中に堂々と居眠りしていた。この姿を見るたびに、ノートを貸してやるのが嫌になってくる。
授業の合間の小休憩やお昼の休憩時間をすべて睡眠にあてて、なんとか今日の授業を乗り切った。下校前のホームルームを終えると、アキがまたこちらに振り返って話しかけてきた。
彼女は、放課後によく話しかけてくるがそれ以外の時間は他のクラスメイトと一緒にいることが多い。
今日みたいに朝から話しかけてくるのは稀だ。おそらくオレは、よほどひどい顔をしていたのだろう。
「でさでさ、シュウはどこまで進んだわけ?」
話題は当然「ノワモワ」だ。彼女がいかにこのゲームにのめり込んでいるかが窺える。
オレは昨日1日でストーリーを第3章まで終えていた。ネタバレしない程度に今何章まで公開されているか調べてみると、第7章だとわかった。半分まではいかないが、1日しか経っていないと考えると相当進めた方だと思う。
「そこまで進めたんだったらさぁ、期間限定イベント消化した方がいいよ?」
アキの説明によると、第3章まで進めているとそこからさらにストーリーを進めたところでゲームの機能面の追加はないようだ。そして、ストーリーモードは当然だが、期間が定められていないのでいつでもできる。
一方、期間限定イベントはその名の通りで一定の期間が経つとプレイできなくなってしまう。だが、このイベントでもステージをクリアするごとに報酬としてスフィアがもらえるそうだ。
「全部は無理でもさ、いける範囲でイベントこなしてスフィア貯めていくのがこのゲームのコツなんよね? じゃぶじゃぶ課金する覚悟があったら別ですけどぉ?」
彼女の助言は、無課金を貫くと決意したオレにとって非常に的確だった。
「あとさ、協力プレイも期間限定わりとあるんだよね? 私が手伝ってやるからさ、今日の夜でも一緒にどうよ?」
昨日ゲームをそれなりに進めて操作面での不安はなくなった。ただ、キャラクターの能力を考えるとハウスの補正がない分、どうしても弱くなってしまう。それらをそのままアキに伝えると、彼女はケラケラと笑い始めた。
「私くらいなるとさ? 2人協力のステージを1人プレイでも無双できるわけよ? くっついて来るだけでクリアできるから安心しなよ?」
アキの誘いをどうするか迷ったが、結局それを受けることにした。せっかくの申し出を何度も断るのは悪い気がしたし、オレの中で協力プレイがどんなものかやってみたい気持ちもあった。
彼女とは夜の23時から1時間程度、通話アプリを使って会話しながらゲームをする約束をしてその場は別れた。また一時すると、ユージが話しかけてきて一緒に下校した。彼ともノワモワの話をして盛り上がった。
協力プレイを一緒にするなら間違いなく最初はユージとだと思っていた。それがまさか、アキが先になるなんて思っていなかった。
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