第9話 アキ

「シュウってホント片桐さんと仲良いんだね?」


 オレはユージと一緒に下校していた。昨晩降っていた雨は明け方あたりまで続いたようで、道の所々に水溜りができている。地面から湿気が立ち昇ってくるようで、陽は沈んでいたがとても蒸し暑く感じられた。


 ユージが疑問形で尋ねてくるのも無理はない。オレが仲良くしている友人のグループと、アキが仲良くしているグループは、まったく雰囲気の異なる人たちなのだ。オレは友人グループ含めて明らかに「陰キャラ」の部類だが、アキは完全な「陽キャラ」だ。

 傍から見ると、オレとアキのどこに接点があったのだろう、と疑問に思うだろう。特にアキはクラスの男子たちから人気の女子生徒なので余計にだ。



「仲がいい、というか使われてる感じだな?」


「……使われてる?」



 片桐 玲とは1年の時も同じクラスだった。「か」と「く」なので1年の時も今も、出席番号の席順だと前後で並ぶ。


 彼女はお世辞にも真面目な生徒とは言えない。1年の時の数学で、彼女が教師からの出題に当てられたことがあった。アキはほとんど居眠りしていた状態で、まともに答えられなかった。


 この数学教師は授業中に寝ている生徒には特に厳しい人で、アキがその場で考えて答えを導き出すまで、授業を先に進めなかった。

 ただ、それまでの授業内容すらほぼ聞いておらず、元々数学が得意でもないアキは延々と答えられず、授業時間だけが確実に経過していった。


 後ろに座っていたオレはしびれを切らして、こっそり問題の式と解答を紙切れに書いて、アキに渡した。これをきっかけに時々彼女に勉強を教えたり、居眠りしていた授業のノートを見せてあげたりする関係ができあがった。そして、偶然2年でも同じクラスになったので、その関係が継続している、というわけだ。



「場合によっては、その日授業があったオレのノート、全部持って帰ることもあるんだよな? しかも翌日忘れてくることもあるし、なかなか大変なんだ」


「シュウは頼まれると断れない性格だもんね? けど、片桐さんもノワモワやってるんでしょ? 友達と協力プレイするとホントにおもしろいからオススメだよ?」


 協力プレイか……。アキと一緒にやるとしてもユージとやるとしても、とりあえず足を引っ張らない程度に自分のキャラクターを育成しないといけないな。まずは基本のストーリーだけでも最新まで追いつくことを目指してみるか……。


 継続していけるかどうかは、ある程度進めていくうちにきっとわかるだろう。オレは歩きながら、スマホの画面を点けてノワモワのアプリを起動させた。



『おかえりなさいませ!』



 コンシェルジュのクロエがにこやかな表情をして、お辞儀をして迎えてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る