第7話 システム世界
クロエたちとステラ、彼女たちが話してる場所は、ゲームアプリ「ノワール・グリモワール」の内なる世界。――といっても、ゲームの舞台となっているファンタジー世界「エルガイア」ではない。ゲームを管理しているシステム側の世界で、彼女たちはそこの住人だ。
システム世界は、当ゲームのコンシェルジュである、クロエ、ステラ、ウィリアム、ジェイドの4種類のキャラクターが各々の役割を担っている。その中でクロエシリーズは、ゲームプレイヤーのガチャを管理しているポジションにある。
クロエシリーズの共通目的はプレイヤーに、より多くの課金をさせることにある。1プレイヤーに対して、1人のクロエが配属される。プレイヤーがゲームのコンシェルジュにクロエを設定していようとステラを設定していようと、非表示にしていようと……、彼らについているのはすべて「クロエ」なのだ。
彼女たちは、各自の判断でガチャの排出キャラクターや武器を決める権限をもっている。
プレイヤーのゲームスタイルから、ガチャの排出を調整してうまく課金へと誘導する、そしてそれをより高い金額へと導いていくのが彼女たちの使命だ。
「どうにかして最初の1回課金させるのが大事なんです! そこから継続課金へと誘導するのは案外簡単なんですよ!」
クロエ1730号はクロエシリーズが培ってきたノウハウについて、ステラ8823号へ饒舌に語って聞かせていた。
ステラシリーズはゲーム内メンテナンスの役割を担っており、普段触れることのないポジションの話に興味津々のようだ。
「全然課金してくれない人でも、多くの人へゲームを紹介してくれる人は多少優遇したりします! ユーザーを増やせば課金する人も増えますから!」
「うんうん! さすがクロエシリーズの皆さんですね! 皆さんが利益を出してくれるから私たちが存在できるわけですからね!」
ゲームアプリを存続させるためには当然利益を生み出さなければならない。それが無ければサービスの維持・管理・開発ができなくなりサービスは終了してしまう。
彼女たちのシリーズに関わらず、システム世界の住人にとってゲームサービスの終了は世界の崩壊であり、自身の消滅であり、死を意味しているのだ。
「ほらほらステラ8823号さん? そろそろメンテナンスの時間に入るわよ? こんなところで油売ってていいの?」
1822号は、左手の腕時計をステラの前に出してそう言った。
「いっけなーい! もうこんな時間!? 残念だなあ……」
ステラ8823号は、名残惜しそうにクロエ2人の顔に目をやった後にこの部屋を後にした。
ゲームのメンテナンスが始まるとプレイヤーはゲームをできなくなる。この時間はクロエシリーズにとっては休息の時間であり、逆にステラシリーズにとっては任務の始まりを意味している。
ほどなくして、一旦の任務を終えた大量のクロエシリーズがこの休憩室へとなだれ込んでくるのだった。
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