第2話 クロエ

「マジで!? いきなり『ロゼッタ』じゃん! 神引きだよ!」


 ゲームの演出とかでなんとなく良いキャラを引き当てたのだけはわかった。ただ、それがどの程度の価値なのかオレにはわからない。ただ、隣りにいるアキの反応を見る限りだと、なかなかの強運に恵まれたようだ。


「とりあえずここまでいったらフレンド登録できるんだろ? その紹介コードとかいうのをくれ」


 「強運」といってもこのゲームをやる意思のないオレにとっては無意味だ。むしろ運に保有量が決まっているのなら、余計なところに使ってしまって損した気分でさえある。


「シュウさ、マジでノワモワやんないの? ロゼッタもってたら軽くドヤれるんだけどねぇ?」


 自分のスマホをアキのスマホ画面と突き合わせながら紹介コードを入力していく。その間、彼女は今引き当てたキャラがどんな性能で、このゲームの環境でどういった優位性があるかを説明してくれた。

 コードを入力し終えると、すぐに彼女のゲーム画面に「ギフト」の通知が表示された。


「これで一先ず終わりか?」


「えー? シュウもノワモワやりなよ? ロゼッタ引いたのにもったいないと思うんですけどぉ?」



 アキが隣りであれこれ言うのを聞きながら切りのいいところでアプリを閉じようと思った。すると画面にオレンジ色に近い茶色の髪をした2頭身にデフォルメされた女の子が姿を現した。こちらに向かってお辞儀をしている。


「……これは?」


 オレは、スマホの画面に映るその子を指差してアキに尋ねた。


「あー、『コンシェルジュ』よ。ゲームの操作とかお手伝いをしてくれるの。私みたいに慣れてる人はもう表示消したりしてるけどね?」


「ふーん……、人気のゲームだけあっていろいろ手が込んでるんだな」


「あっ、そう言えばその子が」



『クロエ・シャノルと申します。よろしくお願い致しますね!』



 スマホ画面のコンシェルジュから吹き出しが出てこう書かれていた。


「クロエ……」


「そうそう、その子『クロエ』っていうんだよ、こっちの黒江さんより100倍愛嬌あるけどねぇ?」


 オレはアキの顔を横目でちらりと見た。彼女はニヤニヤした表情でこちらを見ている。


「……ゲームをやるかはもうちょっと考えるよ。今日はこれで一旦おしまいだ」


「もったいないなあ? なんならこのアキ様が協力プレイで無双してやってもいいんだよ?」


 彼女は腕を組んで少し仰け反り、見下すような表情でオレを見てきた。この女、こういう表情をよくするんだよな……。これでクラスの男子に人気があるんだから、ここの男はドMだらけなのかとツッコミたくなる。


 オレはスマホの画面をおとしてポケットにしまった。ノワール・グリモワールにそれほど興味があるわけではない。けれど、さっき見たコンシェルジュ「クロエ」の姿が妙に頭から離れなかった。

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