人ガチャ!
武尾さぬき
第1章 流行りのアプリゲームとガチャ運
第1話 ノワール・グリモワール
※本作には、架空のゲームアプリ(ソーシャルゲーム)が登場します。現実に存在するゲームとは一切関係ありません。仮に……、万が一、奇跡的に類似したゲームがこの世に存在したとしても偶然の一致であり、本作とは無関係です。
「シュウ? ちょっとここ押してくんない?」
目の前に彼女のスマホ画面が突き出された。画面には、「10連(+1)ガチャスタート!!」と表記された赤いボタンが表示されている。過去にも何度かあった光景なので、オレは特に躊躇いもなく右手の人差し指でそのボタンに触れた。
すると、彼女はスマホの画面を自分の方へと向け、食い入るように見つめている。ほどなくしてなにか独り言を言い始めた。
「おっ!? 一瞬ロード走ったよ!? これは来るんじゃないの!? 金が1、2、3……6…7か、よしよし! けっこう熱いじゃん!」
オレの名前は「
前の席でスマホの画面に見入っているのは、「
彼女がやっているのは、「ノワール・グリモワール」。たしか1年くらい前にリリースされ、クラスで流行っているスマホのゲームアプリだ。
彼女曰く「物欲センサー」がどうこうで、ゲーム内ガチャをするときはスタートのスイッチを他の誰かに押させているらしい。スマホアプリなんていう現代科学の結晶みたいなゲームをしているにも関わらず、そういうオカルト染みたところを信じているのがなんともおもしろい。
「きったー!! シュウの指やるじゃん! 10連一発でSSランクゲットだよ!」
アキは左手でスマホをいじりながら、右手でオレの肩をバンバン叩いてきた。
「そうか、なんかわからないけどよかったな?」
「シュウは『ノワモワ』やんないの? マジでめっちゃはまるよぉ?」
「ノワモワ」とは例のゲームアプリの通称。公式の宣伝でもこの呼び名が使われているようだ。
「ゲームは好きだけど……、ガチャ系はちょっとな。オレ、くじ運悪い方がだから」
「そぉなの? まぁ神引きして無双してオレ強えーして、ガチャ運悪いやつをざまぁするのが楽しみだからねぇー?」
彼女の整った顔を眺めながら、こいつ性格捻じ曲がってるな、と思った。ただ、少なからずそういう楽しみの要素はあるだろうと納得もしてしまった。ある意味でものすごく正直な女なんだな。
「あー、でもさ! ゲームやんなくてもいいからアプリだけ入れてくんない? フレンドの紹介コード入れてくれたらこっちで特典もらえんのよ?」
アキの説明だと、新規でゲームを初めて紹介コードなるものを入力するとお互いに特典がもらえるそうだ。スマホになにかしらの記録が残るのか、あくまで機器に対して1度切りしか使えないらしい。
「適当にチュートリアルやって最初のガチャ1回引いたらフレンド登録できるからさ! 頼むよ、シュウ!?」
彼女はスマホを片手に拝む仕草をして見せた。制服のブラウスのボタンを上2つも外しているので胸元と下着がわずかに見えてしまった。
「わかったわかった、アプリ入れるだけな。ちょっと待ってろ」
オレは自分のスマホで「ノワール・グリモワール」を検索、白い髪をした可愛くもどこか儚げな表情をした女の子のアイコンが表示された。ゲームのインストールが終わり、オープニングムービーは画面のタッチを連打して適当に流した。
アキは、オレの机に脚を組んで座りながらスマホをいじり、時々こちらの進捗を確かめるように画面を覗いてきた。細い体躯のわりにやや太めの太腿が短いスカートから露出している。ゲームの画面にほとんど興味がないせいか、無意識にたまにそちらに目がいってしまう。
ムービーが終わり、プレイヤーの名前を付けるシーンになった。ほんの少し考えた後、オレは「クロエ」と入力した。ゲームの主人公名はいつもこれで統一している。性別は男を選んだが、名前的には女っぽいがそれはよしとしよう。
「シュウの名字っていいよね? なんかそれっぽい名前になるし、このゲームのなかにも女の子でいるんだよ?」
「ニックネームに使いやすい名字とは思ってるよ。おっと……、最初のガチャの説明に入った。これが終わったらフレンド登録できるんだっけ?」
「そうそう、リセマラするやつはここまでを何回もやるわけよ」
リセットマラソン、略して「リセマラ」。もはや説明不要なほど定着した言葉かもしれないが、ゲームの最初のガチャで使えるキャラクターを引くまでインストールとアンインストールを繰り返すことだ。
オレは画面の指示がある通りにボタンをタッチしていった。すると重厚な両開きの扉が開き、古い書籍が山積みされた部屋に入って、そこから1冊の本が浮かび上がってくる演出が始まった。
「おおっと、金色じゃん! S以上確定じゃん! 無欲なやつがやるとこうなるんですかねー?」
アキが興味深そうにオレのスマホ画面を覗き込んでくる。バニラみたいな甘い香りが鼻腔をくすぐってきた。
画面の中の金色に輝く本が開くと、そこから死神を思わせる大きな鎌をもった黒いローブを纏った白髪の女性キャラクターが姿を現した。
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