鰐の王国

 おいしいモーニングを食べることができて、彼は満足だった。なぜ満足できるだけの余裕が彼にあるのかって?彼は、もう何もかもどうにでもなれ、と、開き直ってしまったのだ。だから昨日に増して強くなる周りからの視線にも耐えれたし、明日に迫る警察署への出向のことも考えずに済んだ。

 ようするに、彼は全てを諦めることによって無敵になったのだ!

 彼はもう、アイデンティティの確立や、自分の凡庸さをかき消すための努力をする必要が無くなった。それだけて彼は幸せだった。彼はお昼も外で食べた。食べごたえがあると評判のハンバーカーを食べた。彼はジューシーなポテトフライと厚みのあるハンバーガーを食べて、もう死んでもいいとすら思った。

 夜、彼は買ってきた肉を焼いてステーキにした。とても上等な肉だ、まずいわけがない。彼は塩と胡椒をベースに肉に下味を付け、それをミディアムレアで焼いた。そして、彼はそれを噛みしめるようにして大事に食べた。

 今日は、彼にとって人生で一番幸せな日であった。彼は部屋の電気を消し、満ちた心でベットに横たわった。そしてそのままぐっすりと眠った。

 気付いたとき、彼はありえないほどの顎の力と、恐竜のようにゴツゴツした尻尾、戦車のように重い肉体を手に入れていることに気が付いた。

 そう、彼は鰐となったのだ。

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佐寺奥 黒幸 @sajioku_kurosati

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