第3話

 その日の放課後、私たちは教室に居残って、球技大会のメンバーをどうやって決めるかを話し合うことになった。もちろん、「私たち」とは私とアイツ。学級委員を決めた時のホームルームの時間にメンバーを決めることもできたけど、アイツの提案でこうなった。

「何の方針もなく、メンバーを決めようとしても、時間だけが過ぎるになりますから、僕たちで一度、検討したいです」

 中学一年生になったばかりとは思えない落ち着いた口調で話す彼の言葉に、先生も含めて、彼の提案を安心して受け入れることになった。お陰で私はただでさえ一緒にいたくないアイツと二人きりになるという現実から逃げたい気持ちでいっぱいだけど。

「相沢」

「何よ」

 アイツが私にルーズリーフを一枚渡す。その紙には、左側に競技名、右側にクラスメイトの名前が書かれていた。

「え、ちょっと、これ、あんたが考えたの?」

「あんたって、俺の名前、もう忘れたのか?」

 こういう言い方をされると本当にイライラする。イライラしていることに気づいているはずなのに、目の前の男は何事もないかのように話を進めた。

「この割り振りが、今のこのクラスの最善策としか言えないんだよ」

 それから、球技大会のメンバーをどうやって割り振ったかを説明し始めた。

「ねぇ、もしかして、自己紹介の話を聞きながら、いろんなことを考えて、これ、作ったの?」

「やるなら、みんなが納得して、なお勝つ方法考える方がいいに決まってるだろ」

 私は、ルーズリーフをもう一度見た。「渡辺」の横には「サッカー」の文字が書かれている。私はアイツにルーズリーフを手渡しながら聞いた。

「やっぱり、サッカーなんだね。昔からうまかったもんね、サッカー。中学でもサッカー部に入るの?」

「入らない」

 アイツは受け取ったルーズリーフを机の上に置き、ルーズリーフに各競技の補欠要員の名前を書いていく。私は、サッカーが大好きだと思っていたし、あの時、一番上手だったことも知っていた。だから、気になって聞いてしまった。

「じゃぁ、どこに入るの?」

 アイツはまだ名前を書き続けながら答えた。

「将棋部」

「ええええっっ‼」

 うちの中学校では、美術部と将棋部は「帰宅部」とも言われていた。アイツは、勉強もできるし、運動もできるし、誰とでも仲良くなれる。どんな部活に入っても、アイツなら上手くやっていけるはず。それなのに、将棋部に入るって、どうしてだろう?

「そんなに驚くことかよ」

 アイツがものすごく不快な顔をして私に言った。まるで、俺が将棋部に入るのがそんなにおかしいのかよとでもいうようだった。

「だって……将棋部に入って、何するの?」

「将棋に決まってるだろ」

「そうだけど」

 私はなんとなく自分のもやもやとした気持ちを上手く言えなかった。

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