第2話
次の日、校内は予想通りの状況だった。
「あの子が渡辺くんに叫んだ子なんだ。本当に好きなんだね」
「渡辺、目の前にして絶叫って、どんだけ好きなんだよ」
……みんな、好き勝手言っている。
事情を説明したくても、いったい何人に説明すればいいのかが分からない。
「遥ちゃん、あまり気にしないでね」
亜久愛ちゃんが私を心配している。私は「大丈夫」と言いながら大きな溜息を吐いた。
午前八時二十五分。今日の学校生活が始まる予鈴が鳴った。
校内にいる生徒は次の鐘の音が鳴るまでに早く自分の席に着こうとする。私もトボトボと歩きながら、自分の席に座った。
午前八時三十分。今日の始まりのチャイムが鳴るとともに、教室に担任の先生が「おはようございます」と言いながら、引き戸のドアをガララッと開けて入ってきた。
担任の先生は黒板を背後にして教卓の前に立って言った。
「えー、昨日から皆さんは中学生になり、小学生の頃とは違います。中学生としての自覚をもってこれから三年間を過ごしてください。それで、このクラスの学級委員を決めたいと思います。学級委員は、簡単に言うと、このクラスのまとめ役です。まずは、来月の球技大会の準備が初仕事になります」
「せんせー! 球技大会の競技は何があるんですか?」
「サッカー、バスケットボール、バレーボールですね。正式なルールと人数は違うところもあるかと思いますが、必ず一つの競技には参加しないといけません。クラスごとにチームが作られ、学年は関係なく、予選大会が開かれます。上位八チームが決勝トーナメントに出場できます。優勝と準優勝した場合、トロフィーがそのクラスに渡されます」
先生の話を聞いて、球技大会を楽しみにしている生徒もいれば、めんどくさそうな顔をしている生徒もいた。先生は生徒それぞれの反応を見て、少しだけ笑ってから言った。
「まずは楽しむことが大事でしょう。一年生のみなさんは同じクラスの人たちがどんな人か分からない状態だと思います。だからこそ、このクラスをまとめる学級委員の役割はとても重要だと言えるかもしれませんね」
そういって、先生はにっこりと私たちに笑いかけた。私は「うわぁ、そんなめんどくさい役割なんてやりたいとも思わないし」とものすごく嫌そうな顔をしていた。
「先生、僕、やります」
声の主に教室中の視線が集まる。視線の先には右手を上げたアイツの顔があった。
「それじゃ、学級委員の一人は渡辺さんにしてもらいましょう。あと一人、どなたか立候補はいませんか?」
あと一人、決めなきゃいけないのか……いくら人気の渡辺くんと一緒にいたいと思っても、学級委員なんて面倒ごとはやりたくないのが本音。クラスのみんなが下を俯き、時間がすぎるのを待とうとしていた。その時だった。
「先生、どうせ一緒にやるなら、相沢さんを指名しても良いですか?」
アイツが私の苗字を出した。今度はクラス中の視線が私に集中する。私は今何が起きたのかが理解できなかった。だけれども、今、何か言わないとものすごく面倒なことに巻き込まれかねない。
「先生、私は……」
涙を浮かべながら迫真の演技で「断ります」と演説を述べようとした時、私の言葉をアイツが遮った。
「相沢さんのことは昔から知っていますし、お互い、違う小学校出身だからこそ、クラスをまとめることができると思います」
クラス全員の視線が私にさらに集中する。「相沢さん以外にいい人はいない」と言わんばかりの視線が。
「他に推薦や立候補はありませんか?」
先生の問いに対し、片手を高く上げる者は誰一人としていなかった。
「相沢さん、もう一人の学級委員になっていただけますか?」
また、私に全員の視線が集まる。亜久愛ちゃんのいる方をちらっと見ると、彼女は「頑張れ!」と私にエールを送る。
「はい、分かりました」
私が答えると、教室中にたくさんの拍手の音が鳴り響いた。
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