【第十四話】「端麗! S区中央商店街・淫魔キアラとブティック・ツキミ」
お昼時を過ぎた株式会社サウザンド、本社のランチスペース。
「ここにしましょうか?」
「そうですね!」
昼休み会議を終え、遅めのお昼休憩に入った人事部採用担当者・守屋 美希。
通称ミキちゃんと人事総務担当者・茶摘 卓男はは向かい合わせ席に座り、各々と同居中の淫魔が持たせてくれたお弁当を開ける。
「この前はキアラちゃんの件、ありがとうね」
ハイブリッドサキュバス・キアラの力でスーパーエリート新卒社員の早期離職を回避し、会社の未来と人事部の平和を取り戻したミキちゃんはアランが用意してくれた照り焼きチキン&ほうれん草入り卵焼き弁当を食べつつ茶摘に話しかける。
「いえいえ、こちらこそ! キアラも想像以上のサンクスが一気に稼げました!またいつでも呼んでくださいって喜んでいましたし……」
キアラが『茶摘ハニートラップ篭絡作戦』の一環として持たせてくれた焼き鮭&ハム入りスクランブルエッグ弁当を食べる茶摘もお礼を言う。
「あら、そうなのね。それは良かったわ!……そういえば、あの時彼女とライン連絡先交換したんだけど。キアラさんって生粋のSNS世代っ子なのね」
「それはどういう意味……?」
ミキさんが茶摘に見せたキアラとのチャットアプリ画面を埋め尽くすミニスカポリス、白衣の天使、黒軍服大佐、チャイナドレス、チアガール……コスプレ自撮りの数々。
「とりあえず、うちの同居人がすみません……!」
茶摘はミキさんにスマホを返しつつ、同居人の非礼を詫びる。
「そんなとんでもない! 私はこういうの見てて楽しいから気にしないで、茶摘さん。それでこの前、チャットしてたら私服の話になったんだけど……これって本当なの?」
ミキさんが再度手渡して来たスマホには『これが私の私服です!』のメッセージと共に無地のだぼだぼオーバーサイズTシャツ、茶摘の黒ジャージ上下、そして歩ける二股寝袋の自撮り写真が投稿されており、『裸は淫魔の正装です!』とさえのたまうキアラが例のマイクロビキニ写真を投稿しなかった事に茶摘は感謝する。
「それでね、インマとは言え流石に若くて可愛い女の子がこれじゃあ可哀そうだし……もし茶摘さんが嫌じゃなければ服とか買ってあげられない? 何なら私も一緒に選んであげるから、どう?」
「……わかりました、キアラにチャットアプリで連絡して日時調整しますね」
「うん、お願いね。じゃあ午後も頑張りましょう!」
……週末。S区中央商店街にある洋品店『ブティック・ツキミ』。
「月見さぁん、これ何なんですかぁ?」
ニット帽に謎英語黒Tシャツに鎖ジャラジャラな裾の広いジーンズ姿のアルバイト店員の盃 桜(さかずきさくら)は昨日届いた下着メーカーからの大きな段ボール箱を奥から運んでくるように指示したスマホゲーム中の店長・月見 酒子(つきみ さかこ)に聞く。
「ああ、それはねあの守屋さんが取り寄せ注文なさった物よ。何でも知り合いの女の子であの人と同じぐらいお胸がご立派な子がいるらしくて……もうそろそろ来る時間だから開けておいてね」
「へえそうなんですね……やっておきまーす(死ね! 乳牛女!)」
高身長はさておき、貧乳コンプレックスを持ち続けている桜は思わずカッターを段ボールに突き立てそうになる。
そんな弛緩した空気で淀んだ店内にカランコロンと爽やかなドアベルが鳴り響く。
「いらっしゃいませ……ぇ?」
「いらっしゃ…… !」
わんこそば大会で地域の有名人となった守屋姉弟&モブ男と共に入って来た淡い金髪を三つ編みツインテールにし、野球帽にオーバーサイズTシャツ、巻きスカートにサンダル姿のボンキュッボン日焼け美少女にブティック・ツキミの2人は言葉を失う。
「はじめまして、キアラ・アンジェラです」
褐色美少女は帽子を取って礼儀正しく挨拶する。
「月見さん、今日はありがとうございます」
「いえいえ、守屋さん! その方がご紹介したいって言う人ね?… …桜ちゃん! 商品をお出しして並べるのよ!」
「はいっ!」
勝ち目のない美少女オーラを目の前にして、先刻までの体型嫉妬コンプレックスが浄化された桜は慌てて商品を段ボールから出して机に並べる。
「本日はご来店ありがとうございます、キアラさん。 失礼ながら守屋さんとはどういうご関係で?」
「ええと……」
人間界の男を誘惑しにやって来たサキュバスであると事実を告げるわけにもいかず、困ったキアラは後ろで見守る茶摘に目線ヘルプを求める。
「ええと、彼女は僕の所に同居中の劇団員です。大学生の頃、アルバイト先で知り合ったんですけど……家賃が払えなくなってアパートを追い出されてしまい、僕に助けを求めて来たので同居しているんです」
「まあ劇団員だったのね? 所属はどこ? おばちゃん見に行っちゃうから教えて!」
「ごめんなさい、色々あって解散してしまったので……今は無所属なんです」
茶摘の口から出まかせに嘘を上乗せしたキアラは月見店長の申し出を丁重にお断りする。
「店長、準備出来たっす!」
「ありがとう、桜さん。さあキアラちゃん、選んで試してみましょ!」
「はい! 守屋さん!」
ミキちゃんとキアラ、ブティック・ツキミの2人はテーブルを囲んでキアラに似合う下着デザイン協議を始める。
「茶摘さん! これはどうですか?」
キアラのサイズにぴったりな下着を選び終え、私服チョイス&試着と言う名のファッションショー会場と化した『ブティック・ツキミ』店内。
桜がチョイスしたピンク色のバンダナ風ヘアバンド、ショート丈でへそチラな謎英語白Tシャツ、デニムショートパンツにサンダルを着たキアラは嬉しそうにくるくる回りながら茶摘に聞く。
「キャー、可愛くてワイルド!」
「キアラさんの美しいお腹に形のいい美へそ……最高っすね!」
「若々しくていいんじゃない?」
ミキちゃんに桜、茶摘のコメントにキアラは嬉しそうに笑う。
「じゃあ次は私のチョイスね……キアラちゃん、着替えて!」
「はい、ミキさん!」
ミキちゃんの選んだ服を受け取ったキアラはフィッティングルームに入ってカーテンを閉める。
(キアラのみならず皆さんが楽しそうで……本当に良かった!)
キアラやミキさんに頼まれてスマホ撮影をしていたアランはそんな空気感を楽しむ。
(かつては嫌われ者だった淫魔がこうして人間と共存できるなんて……本当に素晴らしい事だ! あと少しだけど……せめて今は楽しもう!)
ミキさんの選んだブラウスにスカート、ローヒールパンプスと言う組み合わせに着替えたキアラと黄色い声を上げて喜ぶ皆さんを撮影しつつ、アランはミキさんや茶摘と出会えた奇跡に感謝するのであった。
(FIN)
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