第3話 魔法と魔法使い(魔王)
思わず3人に向けた魔法は、霊光石を利用したドレスがキラキラと光る魔法だ。その輝きでいつもより3倍増しに美しく見えるのだ。ドレスもアクセサリーもそしてその人自身もである。
「まあ…、まあ…、なんてこと…。これ、魔法をかけてくれたの?」
「うん。ごめんなさい。勝手なことして…。」
「いいえ。ヘーデルもカーラもとても素敵。」
3人は、顔を見合わせて、お互いの顔を見つめてうっとりとし始めた。
「あのね。お母さま、その魔法は、多分、制限時間があると思うの。だから…。夜の12時には、魔法が解けてしまうかも知れない。それだけ、覚えていて…。お願いね。」
「ええ。分かったわ。本当にありがとう。たとえ、少ない時間とはいえこんな風に魅力的に見えるようにしてくれたんだもの。だから、謝らないで。感謝しているわ。」
「ほんとよシンデレラ!!ありがとう。さあ、お母さま。折角の魔法が無駄にならない様に早く出発しましょう!!」
「いってらっしゃい!!お母さま。ヘーデル、カーラ。楽しんでね。」
「行ってきます。」
3人が馬車に乗り込み出かけるのを見届けた後、執事のダニエルが声を掛けてくれた。
「お嬢様。お茶にしましょう。先ほどの素晴らしい魔法のお話も聞かせてください。」
「ええ。ダニエル。」
お茶をしながら亡き母の思い出話を執事のダニエルが語ってくれた。
亡き母の魔法の話や、商才があったこと…実は、父は、商才がなく母がカバーしていたことなど、3人がいない時にしか話せないような話をたくさんしてくれた。
そんな話に花を咲かせた後、私は、自室に戻り窓を開けて、今頃、楽しんでるかな?と思いつつ都城の方角を見つめていた。
すると、不意に後ろで人の気配を感じて振り返った時だった。
「やはり、舞踏会に行けなかったのか?」
「えっ?あなたは?いったい誰?」
そう問いかけるのを無視して、その人は、更に話し始めた。
「我が、其方を舞踏会に行かせてやろう。」
「いえ。結構ですというか…行けませんし。」
「何を言う。我に出来ないことはないのだ。今から、そのみすぼらしい服を黄金のドレスに変えてやろう。そして誰が見ても美しく見えるようにしてやるから行ってこい。」
「いいえ。だーかーら。行けないんです。それに黄金のドレスって…趣味悪。」
「は?なんだと趣味が悪いとはなんだ?。とにかく、お前を舞踏会に行かせねばならない。それが、契約だからな。」
「あの…。勝手に私の部屋に入ってきて、契約とかの話をされてもですね…。非常に困るんですけど。」
私が手を振って、さっさと出て行けと合図したが、その人は一向に出て行こうとしない。それどころか、ベッドに腰を掛けて居座る大勢だ。
「さっきからなんなんですか?帰ってください。契約なんてしていませんから!!それと舞踏会は16歳からしか行けません。私は、15歳なんです。分かりました?」
「16と言えば良かろう。15も16も変わらん。」
「貴方から見えればそうかもしれませんけど。16歳以上の女性となっているんです。とにかく興味もないですし、行きませんから。」
こんな不毛な言い合いを続けていると執事のダニエルが、不振に感じたのか私の部屋までやってきてくれた。
「あーダニエル。丁度、良かった。この人不法侵入者よ。」
ダニエルは、その人の顔をマジマジと見つめてから、ハッとした顔をして声を上げた。
「お久しぶりでございます。魔王様。」
「へっ?魔王?魔王って何?ダニエル。」
「お嬢様この方は、亡き母君が契約していた魔王様です。相変わらず怖いけどお美しいですね。魔王フェリペ1世様。」
目の前で、傍若無人に振舞っているその人は、ダニエルに魔王と呼ばれて、にっこりと頷いた。
さっきまでの怖い赤い目がなんとなく垂れて見える。
「アリシアとの最後の契約を果たしにやって来たのだが、この娘が言うことを聞かんのだ。」
「そうだったのですか…。で、契約とは?」
「娘が年頃になった時に、舞踏会に行けない状態だったら魔法で、舞踏会に行かせてくれと。それが最後の契約だ。それが終われば、我は、アリシアとの契約がすべて解除される。アリシアが亡くなってから随分となるのにまだ縛られているのだ。」
「うーん。魔王様。今回ばかりは、無駄足になってしまいましたね。別人になってまで行くようなこともできませんし。それでは、意味がありませんし。」
私は、うんうんと頷き、ダニエルの言葉に同調して、早く帰れと手を振って見せたが魔王は、一向に帰る素振りを見せないどころか、ここに居座ると言い始めたのだ。
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