拾弐.彼岸花
63.これは私の弟子だ!
(どうして――こんなことに)
冬の真昼は白く、そして静かだ。
遠い空まで灰色の雲に覆われ、いつかは地上を圧迫するのではないか。そんな思いに
錵鏡は中途で脚を止め、ふわり目蓋を閉じた。
胸の中に何かがある。黒い表皮に包まれた、一個の物体。それは、赤い宝石をいっぱいに湛えた、一個の
――と、背後に暖かな気配が生じる。
そう。そこには暖かな青年の気配があるのだ。どんな眼をしているのか。どんな髪形をしているのか。そしてどんな背格好をしているのか。それは曖昧で不明瞭だ。だけれど、彼が微笑んでいることだけは、わかる。自分と同じ、
柘榴が一口
――大丈夫。
己で己に云い聞かせる。柘榴はもう彼に全部食べてもらった。
――大丈夫だよ。
緩やかで、ぼやぼやとふやけた
(そう、もう大丈夫……)
気付けば、胸の重りは消え失せている。こうやって、いつも彼は
と、かさりと下草を踏む音がした。
「おやおや。一体どうしたんだい?」
「えっ」
背後から底抜けに明るい
そこにいたのは、茶金の髪をさらりと流し、どこかきょとんとした風情で立ち
「どうしたんだい? ん? どこの子かな?」
「私は――
「あーあ」
男は、ぽんと手を打ち、更に犬歯をきらきらっ、と輝かせた。何故この
「君が彼のところの唯一の女性門下生なんだね。うん。噂は聞いているよ。まにまにのお姫さまなんだってねぇ。僕はねぇ、シネラマ=シネラリアと云うんだよ。彼の……ああ、君のお師匠様の同業者さ」
シネラリアは尋ねもしないのに名乗り、しかもどんどん近付いてくる。錵鏡の首筋に走ったのは明確なる
「こんなところにいては風邪を引くよ。お師匠様は
手がこちらに伸びる。ぞわりと走った怖気。つかまれたのは手首だった。有無をいわせぬ力がある。これは怖気どころで済む話ではない。呼び覚まされるのは本能的な警戒心だ。
「いやっ……!」
シネラマ=シネラリアは邪気のない微笑みを浮かべるばかりだ。それにこんなにも恐怖を感じるのは何故か。決まっている。こう云った男は、女の子が何を嫌がるか絶対に理解しないからだ。
「どうしたんだい? 何も取って喰おうと云うのではないのだよ?」
「離してくださッ……!」
腕をつかんだ手を振り払おうと、
「このっ、
がつん! と厳しい音。はっとして顔を上げるのと、手首を戒めていた手が離れるのとが、ほぼ同時だった。地面に尻を着けたシネラマ=シネラリアが眼に入ったのと、
きょとんとした顔で見上げるシネラマ=シネラリアに、蜻蜒は怒気も激しく一喝した。
「いいか! これは私の弟子だ!
急ぎ足で蜻蜒は
冬の
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