第5話

「ここは寝室かしら?」


二人で部屋に入ると、俄然には大きなベッドとサイドチェストが視界に入った。


「そうみたいだな……。貴族の家ってこんな作りなんだな」


ベッドの方に歩いて行きながらそう声を漏らす。


「変わった作りだとは思うけどね……。日記があるわ」


チェストの上のノートを持ち上げて、ルシアがページを開いていく。


こんな状態だから仕方ないが、人の日記を読むのは気が引けるな。


「何か分かったか?」


「そうね、どうやら異変は一週間前からのようね。この城に道化師が来たことが始まりみたい」


そこからザッと、ルシアは町で起こったことをまとめて話してくれた。


殺人事件が増えたこと。


門番が突然民や商会の人間を殺し始めたことなどが書かれていたようだ。


「酷いな……生き残りがいないかもっと探してみよう」


俺は寝室の出口に向かう。


「分かったわ」


俺達は城内を歩いて進んでいく。


だが城の中にはどこにも人の気配はなく、枯れ果てたツタと服が落ちているだけだった。


「もうだれもいきていないのか」


「城下町にはいるかも知れないわよ」


落胆している俺にルシアは明るい声でそう言ってくれる。


「そうだな。探してみるか」


城を出て城下町を目指す。


自分たちが来た道と反対側を散策する。


昨日見えた煙は火が鎮火したのか見えないが、家が所々崩れていた。


「中々酷いありさまね」


「そうだな……。もっと早く来れば救えたのかな」


「うぬぼれたらダメよ。一週間前から変化は起きてたんだから。いくら魔物を討伐できるからって、全員を救うなんて無理よ」


家の壁を殴って、下を向いた俺にルシアはそう怒ったような声で言ってくる。


「そうだよな。すまない」


「お、おいもしかしてその声はジンか?」


俺が殴った家の中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「もしかして、ハルバートさん?」


「町は危険だ。中に入って来てくれ」


俺はルシアと顔を見合わせて、警戒を保ちながら家の中に入る。


家のドアは破壊されているので、入ってすぐに襲われる心配はない。


「ハルバートさん。ここに居たんですね」


家の中に入ると、テーブルの下に身を隠しているが、見覚えのあるリュックサックがはみ出して見えた。


「おぉ、ジン。迎えに来てくれたのか? それにその服、やぶれてるようだが似合っておるな」


振り返った男の人の顔は間違いなくシンジの父のハルバートさんだ。


小さく笑みを浮かべて俺の側に駈け寄ってくる。


「その人だれなの?」


ルシアがキョトンとした顔で聞いてきた。


「シンジの父親で、エリトルの村長だよ」


「おぉ、偉く美人を連れているな。とにかく町は危険だ。三人ならあの門番をかわせるかもしれないから、警戒しながら進もう」


ハルバートさんはそう言うと、善は急げとばかりにキョロキョロと警戒しながら家を出ていく。


「あ、もう敵はいないと思います。一応親玉は倒したので」


後ろから声をかけると足を止めて、振り返って――


「ジンが倒したのかい?」


凄く驚いたように目を見開いている。


「はい。色々あって、倒す流れに」


「その刀……うむ、時が来たんだな」


俺の刀を見ながら、しみじみとそう呟いた。


「時が来たって? どう言う事?」


俺より早く、ルシアがそう聞き返す。


「ああ、念のため進みながら話そう。とにかく公国を出ないと」


ハルバートさんの後ろをルシアとついて行きながら歩く。


「何かこの事態の事を知っているんですか?」


「知っているとも。鬼がよみがえったようでな。倒したなら見たんだろ?」


「はい、倒しました」


「伝承どうりなら、女神の武器を携えし物がこの危機を救う事になっているんだ。その一つがその刀なんだ」


「おじさんはこの刀を知ってるの?」


ルシアはハルバートさんの横に行き、そう質問する。


「少しだけだけど。そうだな、ジンの父ジェルが友人から預かってると昔話してくれたな」


昔を思い出しているのか、少し嬉しそうな声だ。


「伝承ってどんな話何ですか?」


「どんなって、ほらあの絵本。勇者物語だよ」


どうやら俺が知っている程度の知識しか知らないようだ。


「それって絵本の話じゃないですか」


俺はそう言って、話を閉めようとする。


「バカ言うな、俺の爺さんがその大戦の生き残りなんだぞ」


まさかのつながりだった。


ルシアの話では人間の生き残りはいないはずなんだが……。


「もしかしてこの刀の持ち主も知ってるんですか?」


もう少し聞こうと質問を投げかける。


「いや、知らん。爺さんいわく剣、斧、槍を持った、四人の騎士が戦場を割るように駆け抜け化け物を倒し、その中心に見慣れぬ服装の男がこれまた珍妙な細い剣を持って、戦場を駆け抜けたのを見たって。死ぬ前によく言ってたよ。その武器を調べたら刀というそうでな、丁度ジェルの家にあったからもしやと思っていたんだ」


「ルシア、生き残りがいたんだな」


「たぶんだけど、戦場の近くの町にいたとかじゃないかしら? 戦争に出てたなら死んでたと思うし」


「そうか、確かにその考え方なら生きててもおかしくないな」


「何をごにょごよ話してるんだ?」


声を落として話していると、怪訝そうな顔で聞かれてしまった。


「いや、あ。出口ですよ。橋を下ろしてきますね」


俺はそそくさと梯子を上って、装置の場所に向かう。


ルシアの事は話さないことにしておこう。


・・・・・・・・・・


「いや~ようやく出られた。俺は村に向かうが、二人はどうするんだ?」


「俺達は旅の途中なので、このまま進みます」


「そうか。あ、これ売り物のあまりだがシャツを着替えておきなさい」


リュックサックから白い襟シャツを取り出し手渡してくれる。


「ありがとうございます。こんな上等な服」


「いいって、それより彼女を守りなよ」


ルシアを横目で見ながら小声でそう言ってきた。


「勿論ですよ」


「いや~、ついにジンにも彼女が――」


何やら言っているが声が小さすぎて聞き取れない。


何故か幸せそうなハルバートさんに手を振って、反対方向に進んでいく。


このまま道沿いに行けば分かれ道があるはずだからその時までには次の目的地を決めないとな。


何故かルシアは俺の少し後を静かについてくるし、疲れているのか顔が赤い気もするから早く休ませてあげたほうが良いかもな。


俺はそんなことを考えながら先を急ぐのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る