第6話
「分かれ道ね」
森の中を進んでいると、Y磁路に差し掛かる。
「えっと、右側が帝国領土で左が王国だよな」
左右の道を指さしながら、ルシアに確認する。
「そうよ。女神の里に近いのは断然帝国領だけど安全面だけなら王国経由よ」
俺としては帝国側から行きたいんだが……。
「……」
ルシアの顔色を窺う。
汗を左手で拭いながら、右手で顔を仰いでいる。
疲れてるようだな。
ここはやっぱり安全を期して……。
「ねぇ、帝国側から行かないかしら?」
突然俺の方に視線を向けて、ルシアがそう提案してきた。
「え? 危ないんだろ? それなら王国側から行けばいいんじゃ」
「それって、私に遠慮をしての提案よね? ジンはもう少しワガママになるべきじゃないかしら?」
「くっははは。何か、ルシアに言われると説得力あるな」
「どういう意味よ」
目頭を釣り上げて、睨んでくる。
ワガママなルシアからの提案につい笑ってしまったのだ。
「よし、俺は帝国領から行きたい。ついてきてくれ」
「ちょっと、待ちなさいよ」
言うだけ言って、歩き出した俺に怒りながらもルシアはついてきてくれる。
日がかける前に野営がしやすい場所を見つけないとな。
「なぁ、ルシア」
「何よ」
機嫌が悪いのか少し後ろを歩くルシアの声にはトゲを感じる。
「疲れてないか? 公国出るとき少し顔が赤かったし」
「……大丈夫よ。それより、ジンはどうなの? 戦闘続きじゃない」
「俺は大丈夫だよ。不思議なんだが、傷の癒えも早いんだよ」
「やっぱりもう少し、刀について知るべきなのかしら」
「どう言うことだ?」
歩く速度を落として、ルシアの横に並ぶ。
「その刀について情報がなさすぎるのよ。もしかしたら不思議な力があるのかも」
「イヤイヤ。女神の加護はないはずだぞ? 中にいるのは妹なんだろ?」
「だから可笑しいのよ。女神の力が残ってるはずはないし」
「……まぁ、そのうち分かればいいんじゃないか? この力で助かってるんだし」
明るめの声でそう返す。
「楽観的ね。制御できない力程、意味のないものはないわよ」
確かにその通りか。
「分かった。もっと真剣に向き合うよ」
「そのほうが良いわね。あら? あそこ、休めそうじゃない?」
ルシアが指さした方に視線を向ける。
明かりの灯った、木造の小屋が見えた。
「誰かいそうだな。まぁ、行ってみるか」
俺達は小屋に向けて、歩き出す。
コンコン。
ドアの前に行き、俺はノックをした。
だが返事がない。
「ねぇ、ジン。変じゃない?」
俺の後ろに立つルシアが、口を手で覆いながらそう聞いてきた。
「どうしたんだ?」
「変な……腐ったような臭いがしない?」
「? ……うぅ、確かに。腐敗臭がしているな」
ルシアに言われて大きく息を吸い込むと、微かに腐敗臭が漂ってくる。
ドアの向こう側からか?
俺は意を決して、ドアノブに手をかけた。
「開いてる……」
木が軋む音がして、あっさりとドアが開く
。
「警戒しましょう」
声を潜めてルシアはそう注意してきた。
「ああ……」
ドアの先は部屋はランプで明るく、タンスと本棚以外何も置かれていない。
もしかしたら山道の休憩室の役割なのか?
「酷い臭いね……」
「そうだな。でも、どこからだ」
何かを隠すような場所もないのに部屋の中は腐敗臭が充満している。
「……」
チンチン。
刀が突如鍔なりを鳴らす。
「そこか!」
頭上に現れた気配に向けて、刀を抜き突き上げる。
「ぐぎぇぇぇ」
上に現れた醜い異形は悲鳴を上げて、絶命し灰になった。
「臭いはこいつだったのね」
「そのようだな」
刀を振り、血を飛ばして鞘に納める。
「臭いがひどくて休めないわね」
凄く残念そうだ。
「仕方ない。休めそうなところを探すか」
俺はそう言って、ドアを開く。
「そこまでだ! 蛮族め」
ドアの向こうには、ウマに跨った騎士甲冑の大柄な男がいた。
さらにその後ろには、部下と思われる騎馬隊が、槍を掲げて俺達を見ている。
「え?」
俺は驚きながら短く声を漏らした。
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