第30話

 公国を横目に、エリトルの村を目指す。


「公国は寄らないの?」


 エマが不思議そうに聞いてくる。


「うん、寄らない。また復興したら一緒に行こう」


 公国の塀には、何故か共和国の旗が立っていた。


 共和国が管理することになったみたいだな。


「ここには、お知合いはいないんですか?」


「え? ああ、いないけど?」


「そうなんだ」


 どこか安心したような表情だ。


「どうしたんだ?」


「何でもない。まさかお兄ちゃんが、姫様とお知り合いだったり、あんな美人と仲良しだなんて、調査をしないと」


 何かぶつぶつ言ってるが、うまく聞き取れない。


 まぁ、気にしても仕方ないか。


 夕日が昇ってきたので歩く速度を少し早める。


 しばらくすると、村の入口が見えてきた。


「見えてきたな」


「懐かしい、みんな元気かな?」


 俺とエマは顔を見合わせて、少し駆け足になる。


「お、おい。ジンが戻ってきたぞ!」


「え? ジンちゃん? エマちゃんもいるじゃない!」


 エリトルの村に入るなり、村の人が俺達を囲うように集まってくる。


「ただいま。すみません、通してください」


「はにゃ~」


 俺は目を回すエマを抱きかかえて、押し寄せる人にそう言って、シンジの家を目指す。


「お兄ちゃん、恥ずかしいよ」


「はぐれたら大変だからな、少し我慢な」


「もう、しかたないですね」


 どこか嬉しそうだな。


「後で、話を聞かせてくれよな」


「ジンちゃんのアクセサリー、また売ってね」


「エマちゃんまたご飯の作り方教えるからね!」


 後ろから聞こえる声に、帰ってきたんだなと感じた。


「ジン……。ジン!」


 家の前で薪わりをしていた、シンジが驚いたようにそう言って、側までかけてくる。


 エマを下ろして、ハイタッチをする。


「ただいま!」


「おう、エマちゃん、一段と可愛くなってないか?」


「あ、ありがとうございます」


 エマが顔を赤く染めて、俺の後ろに隠れた。


「おい、妹をナンパするな」


「してない、してない。そんな殺気立つなよ」


 つい睨んでしまった。


「色々話したいんだけど、今日寄ったのは聞きたいことがあったんだよ」


 俺はそう言って、柵に腰を下ろす。


「何だ? どうせ、燃えた家のこと聞きたいんだろ?」


 シンジは見透かしたように、ニヤニヤとそう言ってきた。


「そうなんだよ。よく分かったな?」


「まぁ、今日も行ってたしな」


「え? まさか、土地の権利が無くなったのか?」


 ほぼかってに家を建ててるので文句は言えないが、それではエマとどこで暮らすかが問題になる。


「安心しなって、そもそもあそこは誰も来ない森だぞ? 家の整備に行ってたんだよ」


「シンジ、もしかして家を建て直してくれたのか?」


「そんな、そこまでご迷惑をかけただなんて」


 俺の横に立って話を聞いていたエマが、そう心配そうに声を出す。


「いやいや、美人の頼みだったからな。ジンはモテモテだな」


「お兄ちゃん?」


 背中が冷たくなるような声だ。


「おい、俺はモテてないぞ? 誰に頼まれたんだ?」


「ふふ、行ってみてこいよ? まだいると思うぜ」


「「?」」


 エマと二人顔を見合わせて、ジンに別れを告げて家に向かう。


 村の皆にはあらためて、挨拶にいこう。


 懐かしい山道を登り、ほぼ当時のままの姿に戻った家が見えてきた。


「お兄ちゃん。凄いね、元通りだよ」


「ああ、立て直すつもりだったけど、もう必要ないな」


 玄関のドアを開き中に入る。


 中に誰かいる気配がした。


 いったい誰なんだ?


 俺はエマに待っているように言って、居間へと進む。


 中庭へと続く襖が開いているのか、風が流れてくる。


 その縁側に、腰を掛ける人物の後姿が見た。


 浮世絵離れした白い肌に、透き通る青い髪の毛が風に揺れている。


「ルシア……」


「おかえりなさい。ジン、そろそろ来ると思ったわ」


 俺の声に立ち上り、振り返って笑顔を見せてくれる。


「それも女神の力なのか?」


「違うわ、女の勘よ」


 俺はその言葉に笑ってしまう。


 懐かしいくだらないやりとり。


「ただいま、ルシア」


「お兄ちゃん、どうしたの?」


 俺の声が気になったのか、エマも部屋に入ってきた。


「貴女がエマちゃんね? 初めまして、女神のルシアよ」


「は、初めまして、すぐにお茶を用意しますね」


 前に話したから名前を憶えていたのだろう。あわあわと台所の方に歩いて行く。


「可愛いだろ?」


 俺はドヤ顔をでそうルシアに言う。


「そうね、可愛いわね」


 二人で笑い合いながら、ちゃぶ台を挟んで座り直す。


「家を建て直してくれたんだってな。ありがとう」


「いいわよ、私はほとんど何もしてないわ。提案して、村の皆でやったことだから」


「それでも、ありがとう」


 俺は深々と頭を下げる。


「あの、本当にありがとうございます」


 入ってきたエマもお茶を置いて、頭を下げた。


 頭を下げる俺達にルシアはため息をついて、「今日は泊まっていくから、旅の話をしましょう?」っと、言ってきた。


 今日はいつもより夜は長そうだと思うのだった。

                 (完)

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妹刀の刃 星野しほ @zinro

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