第26話

 無限のように広がる廊下を、化け物を殺しながら進み続けていく。


 前方で、爆発するような音が鳴った。


 その音の出所だと思われる部屋に入ることにする。


「む? きたか勇者よ」


 部屋に入るとルシアが倒れていて、甚平姿の男がそう俺に声をかけてきた。


 その男は目が六つあり、ただならぬ邪気を放っている。


「ルシア、無事か?」


 入口側で倒れるルシアに声をかける。


「ん、んぅ」


 良かった。気を失っているが、生きてるな。


「まさか、チルノ以外の女神の生き残りがいるとは……。あのお方も喜ばれるな」


 ニヤリと口角を上げて、ルシアを見つめる。


「あのお方って、ビッシーマーの事か?」


 柄に手を置き、身を低くして、すり足で横に移動していく。


「人間ごときが、気やすく名前を呼ぶな!」


 男は腰の剣を抜き、構える。


 剣を使うのか……。


 ビームスとは違う、強さを感じる。


「いくぞ!」


 一気に間合いを詰めて、炎舞斬りを放つ。


「フン、小癪な」


 いともたやすく防がれてしまう。


 そのまま力を込めて敵の剣をはじき、何度も斬り込む。


 刀と剣がぶつかる音が部屋に幾度も響き、隙を探り合う。


「絶対、倒す!」


「勇者風情が、我の前に散るがよい」


 俺は一度後ろに飛び、体勢と立て直した。


 木組みの床が軋み、音を出す。


「ふぅ~」


 目をつぶり、息を深く吐く。


「我も少し本気を出すか……」


 そう言って、もう片方の手にも剣を握る。


 二刀流、どういう動きなんだ?


 男の声に目を開いた俺は警戒を強める。


「でやぁぁ!」


「呪言、斬響死滅ざんきょうしめつ


 凄い斬撃が飛んできて、何とか防ぐも膝をついてしまう。


「ぐぅぅ」


「やはり人は弱いな」


 凄く冷めた目をして、また斬撃を放ってくる。


「ウィンドトルネード」


 その斬撃を暴風が防ぐ。


「目を覚ましたか」


「ジン、大丈夫?」


 声の方に視線を向けると、ルシアが立っていた。


「良かった、目を覚ました」


「何よ、泣かないでよ」


 え? 俺、泣いてるのか? 


「敵の前でお喋りとは、余裕だな」


 ルシアに向かって、斬撃を飛ばす。


「ルシア、協力して倒そう」


 俺は俊足で駆け寄り、ルシアを抱きかかえて話しかける。


「ええ、最後の死鬼を倒しましょう」


 二人で敵と対峙し、俺は敵に向かって駆け出す。


「女神は生け捕りにしたいが、やむなしか」


 先ほどよりも圧の強い、斬撃が迫てくる。


 俺も渾身の力で、刀をぶつけた。


「火の精霊よ悪しきものに地獄の炎を《ヘルフレーム》!」


 ルシアが火の弾を飛ばす。


 だが化け物は左手に持った剣で、それを斬りつぶす。


「女神との連携が甘いな!」


 化け物がルシアに迫る。


「でりゃ!」


 間に割って入り、刀を振るう。


「ぬるい、ぬるい」


 手をクロスにして、はじかれた。


「ルシア、頼む!」


 俺はジャンプして、刀を振り下ろす。


 兜割!


 思った通り、化け物は両手でそれを防ぐ。


「エアカッター」


 ルシアの技が、命中する。


「ぐぅぅぅ」


 俺の攻撃を防いだまま、片膝をついてルシアを睨む。


 見えた! 光の玉。


 そのか細い光を頼りに、剣をはじき首に刃を当てる。


「斬れろぉぉぉ!」


「やらせるか!」


 突然背中から手が二本生えてきて、俺の顔に尖った爪が迫ってきた。


 え? マズい。やられる。


土竜爪どりゅうそう


 背後から、ルシアの声が響き、土の粒子が化け物の腕を切り落とす。


 斬れる! 雄たけびを上げて、刀を進める。


「クソが、クソが、クソガキが!!」


 化け物は罵声を言いながら、粒子となって消えていく。


 勝った。


 安どのため息をついて、その場に座り込む。


「やったわね、ジン」


 ルシアが喜びの声をあげる。


「ああ、俺達二人の勝利だ」


 手を差し出してくれたルシアの手を取って、お互いに笑い合う。


 後はここから脱出するだけだ。


 ・・・・・・・・・・


 屋敷の中を二人で捜索するも、出口が見当たらない。


 ルシアと交代しながら休んで、仮眠をとってから再度捜索を再開した。


「この奥から、異様な気配がするわ」


 そう言ったルシアの案内のもと、進んでいく。


 ようやく見つけた手掛かりに、俺はいっそ警戒を強める。


「罠かもしれないから、俺が開ける」


 襖に手をかけて、ゆっくりと開く。


「え?ここって……」


 襖の先には、枯れた木が並ぶ森だった。


「外に出れたのか?」


 予想外の事に驚きながら、ルシアと手をつないで森に出る。


 俺達が出てきた襖は勝手にしまって、消えてしまった。


「やっぱりそうだわ」


 もう後戻りはできないなって、考えているとルシアが手を叩いて大きめの声を出す。


「どうしたんだ?」


「ここ、女神の里の森なの」


「え? 本当か?」


 俺の想像では、色とりどりの花が咲き、美しい場所だと思ったのだが、これでは幽霊でも出そうな雰囲気だ。


「草木が死んでるけど間違いないわ」


 俺の腰の刀が短く震える。


 もしかして怖がっているのか?


 俺は優しく刀の柄を撫でて、森に視線を向ける。


「進もう、里まで案内を頼めるか?」


「ええ、大丈夫よ」


 ルシアはそう言って、手頃な枝を拾い火をともす。


 ルシアの先導で、森を進んでいく。

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