第25話

「くそっ」


「かなりマズいわね……」


 女神の里に向かう道中、皇国領土内の荒野で、数体の化け物に追われて逃げながら応戦していたのだが、ついに囲まれてしまった。


「グルルル」


 知能のかけらもなく、ユダレを垂らしながら詰め寄ってくる。


「ルシア、伏せてくれ」


「え? 分かった」


 ルシアが伏せた瞬間、俺は一気に刀を抜き、炎舞斬りを回転しながらくり出す。


 跳びかかってきた化け物たちは抵抗もできずに醜い悲鳴を短く上げて、灰になって消えた。


「グル、ル」


 飛び込んでこなかった数体は、動揺したように一歩後ずさる。


「でりゃー!」


 そいつらも灰になって消えていく。


 だがまだかなりの数の化け物が、俺達を見ている。


 どうにか逃げ道を探さないと……。


「火の精霊よ悪しきものに地獄の炎を《ヘルフレーム》」


 大きな火の弾が化け物を消滅させて、道を作っていく。


「ありがとうルシア」


 俺はルシアを抱えて、その道を走り抜ける。


「私こそありがと。早くどこかに身を隠さないと」


 それもそうだが、何かないのか?


 辺りに視線をさまよわせる。


 荒野は広く開けていて、見渡しがよすぎるくらいだ。


 その中に少し小高い場所に桟橋が見えた。


「ルシア、風の加護を頼む」


 ルシアを下ろして、お願いする。


「分かったわ、風の精霊よ、彼に飛翔の力を与えたまえ」


 ルシアと桟橋を目指して走っていく。


 橋を渡り切ったところで橋を切り落とす。


 化け物たちはがけ下に落ちて、下に流れる川の水に流されていく。


「何とか逃げ切ったな……」



「そうね、でもここって」


 後ろを見ながらルシアが、言葉を止める。


 俺も振り返っ、て言葉を失う。


 よく確認してなかったが、橋の先は大きな家だった。


 土づくりの壁に、大きな木の門。


 自分が住んでいた家と作りが似ているな。


「もしかして、誰か住んでるのか?」


 わざわざ、こんな橋の先に家を建てるメリットが分からない。


「取り敢えず入ってみましょう」


「そうだな」


 門に手を当てて押していく。


 だがびくともしない。


「開かないの?」


 不思議そうに言いながら、横からドアを押してくれる。


「開かないな……。どうしたんだ?」


 青ざめたような顔になっているルシアに声をかける。


「ジン、どうやら罠にかかったみたい」


『ようやく来たな、愚か者ども』


 どういう事か聞こうとしたところで、脳に直接声が響く。


「誰だ!?」


 そう声を出した瞬間、ドアが開き中に吸い込まれる。


 俺とルシアは、別々の方向に飛ばされた。


「ジン!」


「くっ、ルシア! 身を隠せ、必ず助けに行く」


 俺はそう叫びながら、門の奥にあった屋敷へと吸い込まれた。


 薄暗い空間の床に置かれた蝋燭が揺らめく。


 木組みの床が奥まで続いている。


 中は自分の家と同じような作りで、ドアが襖で作れれているようだ。


 壁に手を当てながら、ゆっくりと進む。


 血の匂いと、まがまがしい気配に気分が悪くなりそうだ。


 ルシアを探さないと……。


「ぐしゃぁ~」


 突然襖が破れて、化け物が飛び出してきた。


「でりゃー」


 その化け物の首を、居合切りで切り抜く。


 だがその奥からもまだまだ出てくる。


 このままではきりがないと判断して、走って屋敷を探索していく。


 道中でいくつもの化け物を斬りながら進んで、身を隠すために部屋に入る。


 息を整えながら、部屋を見渡す。


 畳張りの床に、蟷螂の灯り。


 この屋敷は誰が作ったんだ?


 この旅の道中で自分と同じ家の作りは一度も見たことがなく、かなり珍しい作りだという事は分かる。


「ここだぞ」


「よっしゃ、早よやってしまうか」


 襖が開いて、二匹の異形が入ってきた。


 一人は着物を着ていて、頭に角のようなものをはやしていて、もう片方は西洋服を着ていて、頭に二つ角が生えている。


「何者だ?」


 警戒しながら声をかけて、刀の鞘に手を置く。


「私は、スパァーム。貴男を殺しに来ました」


 着物の方の化け物はそう言って、爪を伸ばす。


「俺様は、シリュー。挨拶なんざ、どうでもいいけどなぁぁ」


 もう片方が蹴りを繰り出してくる。


「くぅぅ」


 何とか刀で防いだが、重い……。


「バァーン」


 シリューがそう言うのと同時に、爆発が起こり壁に激突する。


「ガァ、う」


 くの字にバウンドして、地面に倒れそうになってしまう。


「終わりです。死死爪ししづめ


 俺の顔に、スパァームの爪が迫る。


 それを刀ではじいて、壁を背に構え直す。


「スパァーム、今のは決めるところだろ」


「うるさいですね、私は戦闘向きではないのですよ」


 そう言いながら、二匹がゆっくりと迫ってくる。


 こいつらは先ほどまでの雑魚とは違うな。


 ルシアの言っていた、技もちだ。


 俺は呼吸を整えて、上段に刀を構え直す。


「死にやがれ!」


 間合いに入ってきたところで、一気に刀を振り落とした。


「シリュー!」


 化け物は防ぐこともできずに、灰になって消えていく。


「後は、お前だけだな」


 刀を切っ先をスパァームに向ける。


「くぅ、貴男は確実に殺します――」


 怒った様子で迫りくるスパァームを、俺は横一線に斬り倒す。


「化け物が……」


 シリューはそう言い残して、灰になって消えた。


 終わった、いらない体力を使いすぎたな。


 刀に付いた血を振りをとして、鞘に直す。


 ザコ以外がいるなら、ますますルシアが心配だ。


 駆け足で、散策を再開する。

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